こしのり漫遊記

どうも漫遊の民こしのりです。

こしのり漫遊記 その4「17番目の女 皐月(下)」

 

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 この時の私は沖縄から音楽業界に放たれた歌って踊る4人組の刺客「SPEED」に大変はまっていた。彼女らの出すCDが欲しい。詳しい理由は抜きにして私はにその望みが叶わない状況下でそれを毎日願っていたのだ。そんな時に意外にもラッキーな情報が転がり込んできた。なんと私が欲しい欲しいといつも思っていたSPEEDのCDを皐月が持っていたのだ。車で聞くようにダビングしたカセットテープを貸してくれると言うので私はのこのこ彼女の家まで付いた行ったのだ。

 念願叶って私の部屋でSPEEDが聞ける。私は父から譲ってもらった値段を口にするのは憚れる程の高級なスピーカーでカセットを聞いていた。皐月からから借りたカセットテープは何でも「メタル」と呼ばれる種類のテープを使っていて、それを見た私のお兄ちゃんは「メタルはマジな時にしか使わないんだよ。」ということを言っていた。私はメタルだのハイポジだなんてのは言葉のみ聞いたことはあるが当時も今もよく意味がわからないので「はぁ・・・」と一言返したのみであった。

 SPEEDは良い。彼女らの奏でる音楽にはハートがあるではないか。私はこんなに可愛くてオシャレなお姉ちゃんがいればなぁとか思ってそれはもうご機嫌に聞いていたのである。そんな楽しく過ごす日は意外な幕切れを迎えることになる。

 ドジを踏んだ。私は誤ってカセットの録音ボタンを押してしまい、しかもそれに長時間気づかずにいたためにテープ丸々を潰してしまったのである。図らずも生活音のみがはいった何の価値もないクソテープを作ってしまった。

 やってしまった。どうしよう。潰したものは仕方がない。もう戻らない。そこまでは冷静に考えて答えが出た。冷静でありながら当時の私はそこでどうやっても正直に謝るという考えを出すだけの物の道理と何より勇気が無かった。謝ること、これを除いた最良の今事件の解決方法を歳の割りには多くの経験をし、多くの書物を読みあさることで得た知恵と知識で乗り越えるんだ。私はそう決心した。そう、それもその年に死んだ曾祖母の仏壇の前でだ。

 「あばれはっちゃく」に習い、逆立ちをしてすばらしいアイデアが閃くのを待った。「来た!これだ。」というのが一つ浮かんだ。当時の私は声変わりがまだで男の子にしては声が高い方であった。そして歌唱力にも幼いながらに結構な自信があったので私がちょいと練習して覚えればSPEEDのヒロちゃん、エリちゃんの声をそっくり真似して歌えるはずだ。そうしてそれを再びテープに吹き込む。大丈夫、曲順は全て覚えている。相手の皐月など所詮はおバカな小学生の女子である。私の歌唱力と皐月の知能指数とで照らし合わせて今回の作戦がうまくいくか脳内で緻密に計算したら、なんとイけると判定が出た。だったら急いで取り組むべきだ。私はたっぷりとSPEEDの声をイメージしてカセットデッキの前でアルバム一枚分を歌い終えた。疲れた、歌うだけでヘロヘロだ。本物は更にダンスも付けるのだから信じられない。アーティストがツアーを回るのはさぞ疲れるだろうなと彼らプロの苦労が素人の小学生でも理解できた。やはりプロアーティストは偉大である。

 無事に隠蔽工作をし終わった後日、私は借りた時とはほとんど別物となってしまったカセットを皐月に返したのであった。

 計算を見誤った。自分の歌唱力をか、皐月が以外に賢かったことをかどちらかわからないがとりあえず私の計算のどこかに落ち度があって隠蔽工作は彼女に見抜かれてしまったのである。 

 こうなっては仕方無いので封印しておきたかった魔法の言葉「ごめんなさい。」を遂に私は口にすることとなった。しかし、意外にも彼女はケロりとして怒ってはいなかった。むしろ私の顔を見てからはケロりとした表情から徐々にニヤニヤとした笑い顔に変わり最後は女子にあるまじき下卑た笑い声を上げるようになった。てっきり怒られると思ったがお叱りなく事が済んで私は骨折り損だったわけだ。まぁこれで解決を迎えて良かった良かったと言ってその日は眠ったのだ。

 しかし、このカセットテープのお話はこれでは終わらなかった。皐月が私を怒らず笑っていた理由は彼女からして私の例のテープの内容が大変おもしろいものだったからということであった。皐月は完全に爆笑していた。これはおもしろいと思った彼女は私の吹き込んだテープを私の知らないところで例の25人の女子集団内で貸し借りしたため、瞬く間に学級内の女子全てに私の作ったテープを視聴されてしまった。皆の反応は好評価であった。それは歌が上手いとかSPEEDと似ているとかで無く、ただ宴会芸的に評価して大変おもしろいというものであった。忽ち私の作ったテープは学級内での話題になり男連中の手にも渡っていった。

 テープは私の手によって既に中身が変わってしまったが、タイトル欄は皐月の手によって「SPEED」と書かれたままであった。学校では私の見ている目の前で貸し借りが行われたことが二回あった。その内一回目の時にテープをちらっと見たら皐月が書いた「SPEED」の文字の後に(ニセ)と表記されていた。貸し借りをする内におふざけ好きの誰かが書き足したのだろう。そして二回目にそのテープを見た時、皐月が鉛筆で書いていた「SPEED」の内の二つの「E」の字の一番下の横棒が消しゴムで消されていて表記が「SPFFD(ニセ)」となっていた。この表記ではどう発音するのかわからない。このように手を加えた者は本家SPEEDに対して私の拙い真似では本物に横棒一本分×2実力が足りていないと言いたかったのだろうかと恐らくは気まぐれの意味なきおふざけに対して私は何やら深い意味付けがあるのかと勘ぐっていたのだ。

 このテープの広まりは驚く程に速かった。気づいたら違う学年の奴まで聞いていて私は学校ではちょっとした有名人の人気者になっていた。こうも楽しんでくれるなら悪い気はしない。果ては上級生の放送委員の者の手に渡りそしてそいつの御眼鏡にかなったためにある日の給食時の放送で私のテープが流されるまでになったのだ。給食の時間に流して欲しい曲のリクエストを紙に書いて投稿するシステムがあって多くの日本の曲が流れたが、まさかプロのシンガーでない素人の歌う自作テープがお昼放送で流れたのは私が初のことであろうと思う。

 以上が私と我が学級において17番目の女 皐月との間におこった可笑しなお話である。あのテープが今どこにあるのかはわからない。

 いつかどこかで私のかつての同級生同士で集まってそう言えばあんなおもしろいテープの事件があったなとププッと思い出し笑いをすることもあるかもしれない。私の行った隠蔽工作が彼らにとって思い出話に花を咲かせるネタの一つにでもなれば幸いだ。