こしのり漫遊記

どうも漫遊の民こしのりです。

こしのり漫遊記 その6「ジジイの青春の終わる時(下)」

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 私はメモ帳を左手にペンを右手に掴んで目の前の老人がぽつりぽつりと漏らす言葉を聞き取っては紙面に書き留めた。

 普段から紙になり心になり重要なことは書き留めることを習慣にせよ。これは、今は亡き私の祖父が凡庸故に子を教育することに不得手であった私の父に代わって私に説いた人生の教えである。器用に多くをこなす祖父と違って私の父というのは真面目にお仕事に励む会社人間であって、それ以外に特に説明する点はないくらいに単純な人間である。もちろんそれは悪いことではない。父は実に上手こと社会を生き抜いていたのは事実であるし私は彼こそ真に社会適合者であると思う。ただ、個人的な趣味で少々破天荒で型破りな生き方をする祖父の人生の方が私寄りなものであったためこの爺さんの言うことはよく聞いたものである。という訳で、父よりも祖父の言葉の方が教訓として後へ後へ残るのであった。

 どこへ行くにもメモ帳とペンを持ち歩く私のこの習慣を、私が推理小説を好んで読むことを知っていた級友達は「探偵気取り」と揶揄したものである。しかし、彼らが学校の課題提出日、期末テストの範囲などの重要情報をしっかり抑えて、本来泣きを見るはずの未来を回避出来ているのは他でもないこのメモ帳の助けによるものである。あのバカ共は身を持ってまずは私の、次いでメモの大切さとありがたさを知ったのである。

 話を元に戻そう。

 ふむ、ふむ、ジジイが喋った事をまとめたメモから考えて謎はまるっと解けたぞ。最初にジジイが指差した例の学校、あれは女子高であるとわかった。そして不幸なことだが少子化の波が及ぼした被害によって本日を持ってその女子高は廃校となるとのことだった。このジジイの老後の唯一つの楽しみというのが家の前に立って登下校中の女子生徒達を眺めること、時には会話をすること、あわよくば北風のアシストのもと、それが無理なら手ずからスカートをめくってたりしてパンツを拝むことという実にいやらしいものであった。彼にとっては人生最後の趣味が終わる。それで寂しそうにして涙を浮かべていたわけである。実にアホくさい。そして失礼なことにこの私の顔のみで判断して同じスケベ心を持った仲間であると直感したらしい。歳のせいで直感力も最低なレベルまで落ちているようだ。飛んだ勘違いである。私はその紳士ぶりから会社では聖人君子と称された男である。

 そして、そろそろこのジジイの人生の最後の楽しみの時間、つまり下校の時間が迫っているとのことだ。私が事の成り行きを最後まで見守ることになったのはこのジジイが焚き火をして焼き芋を作っていたからだ。これをやるから付き合えということであった。私は焼き芋に目がなく仕方ないのでジジイの趣味に付き合ったのである。

 チャイムが鳴り、学校前の坂道を下って女子生達がこちらへ歩いて来る。次々とやって来る。

 「いい景色じゃあ・・・」芋を頬張る私の横のこいつはルーベンスの二枚絵を目にしたネロ少年のごとくうっとりした目で女子達を眺めて呟いた。彼には相当に神聖な景色が見えているらしい。裸の天使が空からお迎えにこないかしらと私は割りとマジな心配な気持ちで虚空を見つめた。どうやらお迎え一向は来ないみたいだ。

 このジジイはどうやら有名人らしく女子生徒の多くがこちらに挨拶をしに来る。生徒の中にも涙を浮かべてジジイにお別れの言葉を言う者がいた。何なんだこの不思議な画は、と私は思う。

 彼女らが青春を過ごしたあの学校での生活は今日で終わる。このジジイも彼女らの青春の本当に一部のみを共に過ごしたことになるのであろうか、彼はこの生徒らが入学して卒業を迎えるまで登下校中のみであるが日々関わりを持っていたのだ。それは歳は違えど人生の楽しい時期を共にした仲間であると言えるのではないだろうか。私は彼がただのスケベジジイとは思えなくなった。

 彼と仲の良かった生徒の数人は家の庭に招かれて焼き芋をご馳走になっていた。あれ?これだけ葉っぱを集めて燃やしているがそもそもここは団地で植物自体近場に見当たらない。焼き芋をする量のこの落ち葉は一体どこから集めたのであろうか、後でそれとなく尋ねたら、なんと今日の朝早くに一キロほど離れた公園に行って拾って来たということである。それも女子達を家に招き入れるという邪な理由でだ。どうゆうジジイなんだよ。やっぱりただのスケベジジイだな。

 ジジイも生徒らも涙を浮かべて別れを惜しんでいたが遂に最後の生徒が帰って行き先程まで目の前の道をたくさん歩いていた生徒は一人も見えなくなった。こうなると私まで少し寂しい気持ちになる。ある学校が学校としての仕事を終える最後の瞬間を目にしたのだ。その時学校は夕陽を背にしていた。

 ジジイは最後の女子生徒を手を振って見送る。その時一陣の風が吹き荒れる。それまで風なんて全然吹いていなかった。私にもジジイにも女子達にもこれは不意打ちの驚きであった。風は女子生徒らの下半身を包む生地の柔らかそうなスカートをやさしく上へ持ち上げる。持ち上げられたスカートの下には男の子なら感動すること間違いなしの景色が広がる。それは時間にして一秒か、ギリギリ二秒のみ開かれた世界であった。女子生徒たちは突然のハプニングに驚いて友達同士で笑いあったりしてはしゃいでいた。ジジイの顔を覗き込むと涙を浮かべて「風様が幸運をもたらしてくれた・・・」と両手を合わせて風にめちゃめちゃ感謝していた。信心深い老人と見える。

 すっかり時間を食ってしまい、もう夕陽もバイバイして夜になりそうだった。こうなっては私を人生の宝物だと言って可愛がる我が祖母が私の帰りが遅いのを心配して発狂するかもしれないのでこの日は目的を果たさずにこれで引き返すことにした。年寄りに心配をかけるものではない。こうして隣町の妙なジジイという私に迫った新しい発見の説明は終わる。

 感想を言うと、あのジジイの趣味を少々悪く言ったものの実際に彼と共に大量の女子達を眺め、オマケにパンツを眺めたらこれがなかなかどうして悪くはない眺めだと気づいた。まあ、私も男の子だからね。彼にはそれ以降一度も会っていない。彼の年齢を考えると今は墓の下で土をベッドにしてエッチエロエロな幸せな夢を見ているであろうと予想される。