こしのり漫遊記

どうも漫遊の民こしのりです。

こしのり漫遊記 その8「はじめてのチュウ~私と栄子とのあれこれ~(下)」

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 私がファーストキスを済ませた次の日のことである。栄子からすると私とあの犬との間で起こった椿事は周りに触れて回らないわけにはいかない程の出来事であったらしい。もう随分お兄さんになったといえる歳なのに朝にやってる「ひらけ!ポンキッキー」を最後まで見てから家を出るのを習慣にしていた私は、いつもギリギリで遅刻をしていた。その日も例によって例のごとくに5分程の遅刻をして学校に着いた。その頃にはもう学級内に例の話が広まっていた。

 当の本人の私からしてもああいったことはなかなかお目にかかれない驚きの事件であったと思われる。彼女が回りに言いたい気持ちも理解できる。そういえば初めてのチュウの相手のあの犬のことは、マルチーズという犬種であるという情報以外には名前も知らない。驚きの事件であったが犬だし、そしてあれは雄であったのでファーストキスというにはノーカウントとしてもよろしいのではないかとも思われる。そのへんのことの是非を皆さんに問いたい。ここで情報を付け加えておくとあの犬は私と唇が重なった後に舌で私の唇をペロペロもしてきた。あれは、なんとも言えない妙な感触であった。あればかりは私の拙い文章での説明では言い表すのが難しい。全てを知りたい方は実際に犬と竹輪を取り合ってチュウをしてそして唇をペロペロされてくれば良いと思う。もうそれしか方法はない。

 私のことを級友達の笑いの種にされて皆で「わっはっはっはー」して平和に終わればそれで良かったのだが、栄子とその犬と係わったことが後でなんだか妙なことになったのだ。

 その当時、私は学校の給食を食べ終えてからは昼休みの終わりまで図書館で借りた横山光輝の漫画「項羽と劉邦」を読み耽っていた。そうして読書をしている昼休みに級友の一人の男子が話しかけて来た。

 「お前達、いつの間にそんな関係になってたんだよ」と彼は言う。はて、なんのことであろうかと私は思う。少し興味があったので本を一旦閉じて彼と話すことにした。

 わかったぞ、昨日の犬との熱いチュウの事を言ってるんだなと理解した私は「何を言う、昨日初めて会ったばかりだ。いつの間も何もあるか」と彼に言う。

 彼は少々ビックリしたようにして「ええ、初めて会ったってことは無いだろう」と彼は言う。いやいや間違いなく初めてだ。栄子に聞いてみれば良いと私は言った。

 その後の彼の反応がなにやら変だ。震えているようでもあった。これはどうしたことかと私は少し心配になった。

 ああ、またわかった。今度こそは完璧にわかった。彼の言ってるのは犬の話ではない。栄子のことだ。彼は栄子に好意があって栄子と私がプライベートで会っているのが気にかかるのだ。ジェラシーというやつだ。納得がいくと次には目の前の落ち込む少年を私は安心させてやらねばならない。

 彼の肩にポンと手を置き私は言う。「お前は全く勘違いをしている。」

 私の説明が一通り終わった。しかしジェラっている男子はなかなか疑い深いもので彼は完全に納得がいったように見えない。私は身の潔白を、と言ったら栄子と親しくなるのがまるで罪のようだが、とにあえずありもしない関係の疑いを晴らさなければならない。

 こういう時はわかりやすくゆっくりとやさしい言葉で説き伏せよう。彼には姉がいたので私は「例えば、お前の姉と私が商店街を歩いているだけで二人が友人以上の仲であるとどうして言える?ありえなくないかい?」といった内容のことを話して聞かせた。

 すると彼の答えがこうだ。「でも、お前は年増や熟女が好きだろ。それはありえるのではないか」。

 う~ん、確かに。では私は遠慮無く第二手を打とう。彼には幸せなことに妹もいた。なので私は「例えば、お前の幼い妹と私が一緒に商店街を歩いて誰が二人を恋人だと思う?私にとっての栄子はそれと同じようなものさ。なあ、ありえないだろう?」といかに私が栄子に関して興味が無いのかを彼に説いた。

 すると彼の答えがこうだ。「でも、お前は妹萌えだろ。それもありえるのではいか」。

 う~ん、確かに。彼は二度に渡ってこちらの打つ手を封じに掛かる。というかどうして私のそこらへんの情報が割れているのだ。隠すような罪なものとはもちろん思っていないがわざわざ盛んに吹いて回ることでもないので特に人に言った覚えはないのだが、これはどうゆう訳なのだろう。

 こうして私は高尚な趣味を持ったことがアダになり、級友一人をも説き伏せることが出来なかった。疑いを晴らし人から信用を得るのは難しい。

 こうなったら、栄子に頼るより他にない。過剰なくらいのやり方で彼の前で私を振ってもらえばまるっと解決だ。栄子を呼んで私達の関係は何でもなく、わたしにとっては栄子は少女Aに過ぎず、栄子からみた私も少年Aに過ぎないのだと言ってくれと頼む。すると、次は栄子の様子がおかしい。なにやらモジモジして赤面している。こいつ、満更でもないのか!彼のかけた疑いについて満更でもない反応をしている。この女、またややこしくしやがって、どうするのだこの状況。

 私をブスでなくナイスガイに生み育てた両親に感謝もし少々恨みもするぞ。まさか栄子の心中がこうなっているとは全く予想できなかった。彼は私を睨むし、栄子は熱い視線で私を見つめている。どっちもどうゆう神経をしているんだ。私はこの時ほど演劇におけるデウス・エクス・マキナの展開を切望したことは無い。私は非常に困っていた。神が舞い降りて神の力をもってして「ちゃんちゃん」と事件を強引に終わらせてくれないだろうかと願ってしまった。

 信心深い私の願いは叶ったようだ。神は舞い降りた。何が起こったのか詳しくはわからない。ただ、私に残る事件の記憶はこれまで辿ってきた所を最後にしてその後のことは記憶にないのだ。この出来損ないの三角関係に結末という結末は用意されていない。私はあの日以降もまだ一年以上の在学期間が残っていたがその間はまるで平和であった。彼とも彼女ともなんら気まずい関係はなかった。元通りのただの級友の関係であった。私の在学中の人間関係トラブルは全く無かった。神は確かにいる。私の記憶の抜け落ちている部分こそ神が上手いことやってくれたことの証明になるのであろう。 

 信じましょう神を、愛しましょうデウス・エクス・マキナ

 

終劇