こしのり漫遊記

どうも漫遊の民こしのりです。

こしのり漫遊記 その10「夏の夜は怪しげなる話を語らおう(下)」

 

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 円形脱毛と一瞬見間違った頭に乗っけた白いお皿、肩まで真っ直ぐに伸びたつやつやとした黒髪、全体的に緑っぽい肌の色、背に背負った茶色がかった甲羅、人のような顔ではあるが何故か口を見れば鳥の口ばしのようになっている。間違いない「河童の三平」で知った河童そのものであった。

 「すげぇ!本当にいたのか!」と私の心中は大興奮状態であった。しかし、あんまり喜んではしゃぐのも私のクール&ナイス・ガイのキャラが崩れるため私は近所のおっさんにでもあった時のような落ち着いた、いやむしろ面倒くさいなみたいな感じのごく普通を取り繕った態度を維持した。

 河童は言う。「二日酔いでさぁ。夕時の風をうけて甲羅を乾かしてるのよ」。

 低い声で気だるそうに話す。おっさんの河童だ。謎なのが甲羅を乾かすのが二日酔いに効くのかということである。それと二日酔いって言ってもそろそろ二日目が終わって三日目になりそうよということである。激しい酔いのようだ。私は未だ酒に溺れたことは無いので飲んでから三日目にまだ一日目の酒が抜けないなんてことがあるのだろうかと考えていた。

 「ひゃあ!そいつは茄子じゃねえか!プリプッリして赤ん坊のケツのようだぜ」

 なかなかイキな表現で祖母の会心の出来の収穫物を褒めてくれる。

 コイツが言うにはどうやら茄子は甲羅に夕時の風を受ける以上に二日酔いに効くというのである。耳にしたことがない知識なので茄子にそのような効果があると聞いたことがある人は一報お願いしたい。

 「是非、そいつを一本俺に分けてくれ。な~に、もちろんタダとは言わねぇ。そいつに見合った価値、いや多分それ以上の価値のもんと交換してやる」

 そう言って河童は背中に手を回してなんと甲羅をはずしやがった。外れた甲羅の内側は窪んでいてこうして見ると大鍋のように見える。中には何やらいろいろとしまい込んでいる。河童が手を突っ込み甲羅の中をガサガサして「あった!」と一声上げる。奴が茄子との交換に出した品、それはなんとその当日にでも私が食べていたであろう庶民的な菓子「わたパチ」であった。しかも甲羅の中にちょっと水が入っていたためパッケージは濡れていた。

 「はい、じゃあ一本よこしな」

 わたパチの価値の高さを信じきって、こちらが条件に応じる以外の未来は無いと確信した顔で放った一言である。

 私は、正直この交換条件はこちらが損でないかと思ったが断ると怪しげな怪生物のコイツが何をしでかすかわからないし、なによりこの交渉を長引かすのも面倒だと思い奴の条件に応じた。奴が「お前、得したな」とでも言いたげな満足顔で私を見たのには未だにちょっとムカついている。

 「茄子にはコレだな」

 そう言って奴は甲羅の中からチューブの生姜を取り出して茄子に塗りたくってそのままヘタごとガブガブ食った。食ったあとですぐに甲羅を背中に背負ってしまったのでしっかりとは見れなかったが甲羅の中には宝くじが一枚、多分たまごっちと思われるゲーム機、裸の状態のジェリービーンズが5,6個、宮沢りえの伝説の写真集「サンタフェ」などが入っていた。中身のグッズに統一性が無い混沌(カオス)な状態になっていたのでもっとしっかり見ておきたかった。

 私は河童と言えばキュウリかスイカを喰らうイメージがあるのでそういった物が好物なのかと問うた。

 「確かに上手いし好きさ。でも今は一番食いたいのはわさビーフかな。」

 返答が予想以上にトリッキーすぎて私は混乱状態に陥る。こいつの持参している持ち物を見て、食の好みを聞けば一体何処でどうしているのかわからないが奴らの種族と人間界とで交渉があるようだ。

 「ありがとな。いい奴だなお前。」

 そう言って奴は水掻きのついた手を差し出す。握手を求めている。河童にも握手の文化があるのかと思いながら私は奴とぎゅっと握手をした。もう少し考えて行動すべきだった。当然にして奴の手は濡れ濡れだしなんか粘膜で覆われいるようなヌルっと感が手を伝う。問答無用でこの感覚は気持ち悪い。おっさん河童と接していると見た目こそ普通ではないが話をすると近所のおっさんと似たような感じもしたので私は親近感が湧いていたのだ。しかし、このるヌルッとした手を握って我に返った。こいつはやはり異なる者、モンスターなのだ。

 私は、この河童がやはり人とは決定的に違う得体の知れない生物だと実感した途端に目の前のこいつが恐ろしくなった。私は「わぁ!」と恐怖の一声を上げてダッシュで川辺を離れ雑草の密集地帯を越えて道に出ると家目がけて一目散に駆けた。

 私の帰りが遅いので、孫が可愛くてたまらない私の祖母が心配して私を探しに外へ出ていた。帰り道で祖母の姿が見えて私はたまらなく安堵感を得た。祖母は収穫した茄子はどうしたと私に尋ねる。そういえば笊もハサミも一緒にあの川辺へ置いてきたのだった。私は河童に会って驚いて忘れてきてしまったと言った。私は元々嘘つきである。といっても人を楽しませようと思って空想した世界の話をすることをしていたのだが、真実ではないので嘘と言えば嘘を言ったことになる。祖母はそんな私の性質をよく知っていたが、私が血相を変えて危機迫る感じに訴えるの見てこれはただ事ではないと受け取ったのだろう。普段なら祖母は「はいはい、また言ってる」と私の空想話を流すところを私の手を引いて「そこまで案内しなさい」と言うのだ。

 私は、祖母を河童に会わすと恐らく戦闘になるだろうと思ったのだ。血の気の多い祖母は恐らく河童を倒そうとするだろう。向こうだって命の危険とあらば相手が女でも年寄りでもきっと全力で相手を倒しにかかる。私は祖母か河童の内少なくとも一つ、運が悪ければ二つ共にこの世から命が消えることになるのだと思って縮みあがっていた。

 例の場所に着いた。誰もいない。確かにここに河童がいた。地面の一部分、サイズにして大人のケツと同じくらいの範囲が水で濡れている。河童が座っていた跡だ。ここに座って甲羅を乾かしていた。どうやら奴も家に帰ったようだ。祖母はあたりを見回し誰もいないのを確認すると夢でも見たんじゃないかと私に言う。それは無い。立ったまま夢を見るなんて未だかつて経験が無い。それに白昼夢という言葉があるがもうこの時にはあたりは暗くて星が出ていた。夜に見た夢なら布団の中でのはずだ。ということは夢じゃない。

 慌てていたため回収できなかった笊を発見した。私は夢でないにしろ2パーセント程は私が幻でも見たのではないかと疑っていたが、笊の中を確認して私は妄言を言ったのでは無いという証拠を発見した。笊の中の茄子は収穫してきた本数より一本少なく、一本分空いた隙間には奴からもらった「わたパチ」が収められていた。かなり乾いていたがパッケージにはまだ少量の水滴が残っていた。

 その後、彼には会ったことがない。私は私に対して友好的に接した彼に失礼な態度を取ったとあの日から反省していた。あれからも私はどこかへ遊びに行く時、学校行く時、会社へ行く時にあの川の側の道を通る。もしかしたら甲羅を乾かしに彼がまたひょっこり姿を現すかもしれない。その時には是非こいつを渡そうと思い、私はその後しばらくは外出の度に彼が食べたいと言った「わさビーフ」を鞄に忍ばせていた。

 

追記:もらったわたパチの賞味期限は2ヶ月程過ぎていたが問題無くおいしく頂きました。

 

 おわり