「国境の長いトンネルを抜けると雪国であった。」の冒頭があまりにも有名な川端康成の小説「雪国」を読んだ。
漱石の「坊ちゃん」、太宰の「走れメロス」と本作は冒頭の一文が有名でクイズ番組の問題で出てきたりする。
有名な書き出しであるが読んだことがない本だったので今回手に取ることにした。幼い頃からたくさん文学に触れてきたのが外国でも翻訳される程に広く読まれている売れた本作をこの歳まで何で読む機会が無かったのだろうかと今さらのように思った。
国境の長いトンネルは、群馬県と新潟県の県境にある清水トンネルのことで本作は新潟県の湯沢温泉が舞台になっている。群馬も新潟も行ったことがないな。
無為徒食(今で言うところのニートが近しい意味)という誰もが羨むステータスを持つ青年 島村が汽車に乗って温泉宿に向かうところから物語がスタートする。
島村は汽車の中で病人の男とその看病をする葉子を知る。島村は葉子に興味を持ち観察するのだが、島村の見つめる葉子の描写が実に不思議に感じた。表現にクセがあって少々わかりにくい比喩表現もあった。
着いた温泉宿で以前訪れた時からの知り合いの芸者 駒子に再開する。本文上で島村にとって駒子は「指でおぼえている女」と表記している。この二人を関係を暗示する表現の仕方が良い。
駒子は島村を気に入って何かと島村の部屋を訪れる。島村は妻子持ちなので最初から駒子と一線を越えることはしないと決めて少々冷淡ともとれる態度で駒子に接する。
駒子は明朗快活で綺麗好きで家庭的な一面も見せる魅力的なヒロインである。喜怒哀楽がはっきりして人間らしい性質であるし、芸者としての腕も中々である。仕事が忙しいから今日は島村の部屋に寄れないとあらかじめ断っておきながらこっそり抜け出して少しの間でも会いに来たりするところが可愛かったりする女である。感情の起伏が激しくもあり時には扱いの面倒くさい女でもある。
島村は決して良い男には描かれていないしどこか冷淡なところもあるので駒子が何故こんなに気に入ってるのかわからない。
最初に汽車の中で見かけた葉子も温泉地に住んでいて駒子とは浅からぬ仲である。この二人がどうゆう仲なのか詳しくはわからない。
駒子の芸の師匠は葉子が看病する行男の母である。行男と駒子は許婚の関係であると噂されるが駒子はそれを否定する。行男が病床に伏せって最後の時を迎える時も駒子は会いに行こうとしない。葉子から行男に会うように言われても頑なに拒む。駒子は葉子と行男のことになると感情的になり二人のことを島村にも詳しく話そうとしない。
主な登場人物は島村、駒子、葉子、行男で駒子に最もスポットが当たっていると思うがそれでも駒子のことでわからない部分があり、他の人物もやはり事細かに人物設定が明かされていない。読んでいると話としてもそうだし、登場人物についても「どうゆうことなんだ」と思ってしまう。
葉子がミステリアスな女に描かれていて得体が知れない。島村は不思議な魅力がある葉子に興味を持っているが二人が会話をするシーンはわずかしかない。全貌が明らかにならず靄がかかったような感じである。
ラストに蔵で火事が起こりその中にいた葉子が飛び降りて脱出をするが着地に失敗して死んだのかとも思える。しかしはっきりとはわからない。
結果的なことを言うとよくわかならいお話だった。幻想的な雪景色の中で展開する物語もまた実態があるようで無い幻のごとく掴めないものであった。とおしゃれな例えをしてまとめとしよう。