こしのり漫遊記

どうも漫遊の民こしのりです。

純愛と奇妙な山越え「外科室・高野聖」

 

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 著者である泉鏡花の名前の響きの良さから本作を手にとって読むことにした。

 そして、私が手に取った本の表紙は吉永小百合がアップで写っている映画「外科室」のポスターが刷られた物であった。角川文庫のから出た本である。

 収録作品は「義血侠血」「夜行巡査」「外科室」「高野聖」「眉かくしの霊」。

 それぞれの作品は語りが独特で古臭い言葉使いもあるが雰囲気で楽しく読める。

  

高野聖 (集英社文庫)

高野聖 (集英社文庫)

 

 

外科室 [DVD]

 

外科室

 物語は、医者の高峰の親しい友人であり、画師である「私」なる人物によって語られる。

 医者の高峰は患者の貴船伯爵夫人の手術をすることになるが、夫人は手術の際に麻酔を使わないでくれと懇願し、麻酔を使うなら死んだ方がいいとまで言う。その理由というのが夫人には寝言を言う癖があり、絶対に誰にも知られたくない秘密を寝言で喋ってしまうかもしれないから。これは謎を膨らませる導入をしてくると思った。

 麻酔無しで胸にメスを入れる手術を受けようだなんてこのご夫人は並のガッツの持ち主ではない。高峰は遂に麻酔無しで手術を始めてしまう。ここからは夫人のセリフや所作を細かく描くので現場の風景がリアルに伝わる。麻酔無しで胸にメスを入れるわけだからちょっとグロい感じもして怖くなった。

 手術中に高峰と夫人との間でわずかばかりにして意味深なよくわからない言葉のやり取りが交わされる。結果、手術で夫人は死んでしまう。二人の関係性がただならぬ関係だとはわかったが明らかにされない。

 後半からは二人の関係が実はこうだったという種あかしがされる。これが信じられないことに二人は9年も前に植物園で擦れ違ってお互いに一目惚れしていたということなのだ。高峰は夫人への愛を貫いたために嫁がいてもおかしくない年齢でありながら独り身であり、夫人はもちろん人妻である。夫人が亡くなったその日、後を追うようにして高峰も自ら命を絶ち物語は終結する。

 運命の名の下に体は離れ離れになりながらも心は最後まで二人とも惹かれあっていたという純愛を謳った作品であった。

 一目惚れなんて一時のまやかしであって長く持続する想いではない。一目惚れ経験の無い私にはそのようにしか考えられないのだが、9年も想いが続くことがあるかねと意外に思い、それが本当なら美しいことだとも思った。 

 短編でありながら密度が濃くそして重い内容であった。

 

高野聖

 こちらは「外科室」とは全く異なるテイストの妙ちきりん話である。登場人物の「私」は旅先で1人の旅僧と出会い仲良くなり同じ宿に泊まる。その晩に眠れないから一つ話しでもしてくれと「私」が旅僧に頼む。旅僧の口から飛騨越えをした時の奇妙な思い出話を聞くことになる。

 旅僧の話にはとんでもなくでかい大蛇、大量の蛭だらけの森などのおどろおどろしい話が飛び出す。この僧が実に軽妙な語り口で旅の話を盛り上げてくれる。たまに法事に行っても思うことだがやっぱりお坊さんってお話が上手だな。

 蛇と蛭についての話は言葉のみでもその気持ち悪さが目に見えるようにリアルに語ってくる。蛭の所は読んでいて現場をありありと想像するとマジで気持ち悪くなった。

 前半は気持ちの悪い話だが、後半では道中で若い女の家に泊まる話になる。私にとってはこの女が魅力的なのが本作の最大のポイントである。女が旅僧の体を河で洗ってくれるシーンがあるのだが、どうしようなく女が妖艶に描かれていてこれにはドキドキしてしまった。とにかくこの女がエロな魅力たっぷりで描かれている。坊主もタジタジである。

 僧は女と別れてからも女の魅力に惹かれて僧の身分を捨てでも戻って女と一緒になろうかとまで考えたところで、道行く親父に女の不思議についての種あかしをされる。実は女は男を獣に代える力がある魔女であったということで旅僧が獣にされなかったのは僧としてちょいばかし徳を積んだからということであった。その話を聞いた旅僧は女に恐れをなして思いを断ち切って歩を先に進めることになった。

 妖婦にたらしこめられるという陶酔感による快楽を得られるのは魅力的であると考えるので魔女と呼ばれる女は一層魅力的に感じられた。そして綺麗な花には棘だったり毒があるということがわかった。

 幻想怪奇な珍道中のお話であった。

 しかし、こんな不思議な話を夜に聞いても眠れる気がしない。