こしのり漫遊記

どうも漫遊の民こしのりです。

女の特性を知る「かわいい女・犬を連れた奥さん」

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 戯曲作家として有名なチェーホフの小説作品。

 表題の2編の他に「中二階のある家」「イオーヌイチ」「往診中の出来事」「谷間」「いいなずけ」の合わせて7編が収録されていた。全体的にどことなくアンニュイ感が漂っている印象があった。

 「かわいい女」に「犬を連れた奥さん」どちらもその簡素なタイトルからライトな読み物感がするのだが内容はそんなことは無かった。2編それぞれ奥が深い作品である。

  どちらも女の女たる心情の深い部分を突いている。ような気がする。

 

 

かわいい女

 朗らかで可愛いらしい女オーレンカが主人公。芝居の演出家の夫、次いで木材屋の夫を得るが何れも死去し「風と共に去りぬ」のごとくホイホイと未亡人、現代的に言うと寡婦の身になる。その後は獣医の男と恋人関係になるが獣医の仕事の都合でしばらく離れ離れになりその後に再会した時には流れで獣医の息子を預かることになる。

 

 オーレンカは付き合う男によって自分の意見がコロコロ変わる。最初の演出家の夫の時には夫の受け売りで芝居関係のことばかりを話し、木材屋の時もそれに同じ、恋人の獣医の時もまた同じ。付き合った男と同様の意見を持つことがオーレンカの意見の全てのようである。まるで、触れた物と同じ色に染まるカメレオンのごとく男を変えればオーレンカもまた変わる。

 

 夫と死に別れ、恋人とも離れ離れなり一人きりになるとそれまでの意見や主張は無いも同然の空っぽの人間のようになる。

 最後の最後に世話を見ることになった獣医の息子に対しては自分の全てのようにして少々疎まれながらも愛情たっぷりに世話をする。 

  オーレンカは男への依存が強く、限りない母性を持った女性だとわかる。男がそばにいてこそ活き活きする女で一人になるとしょんぼり状態である。こういう女いるよなと納得もできる。男を愛することで生きがいを得るという女性ならではの一つの特性が垣間見える作品であった。こういう女はなんだかんだで男ウケしそうである。

 

犬を連れた奥さん

 マダムの優雅な午後を連想されるようなタイトルだ。

 マダムも優雅もあっているが、これは不倫話であった。不貞を働いたその先で真実の愛を得るという運命の不運なめぐり合わせを感じられた。

 

 スピッツ犬を散歩させる美人の奥さんのアンナと中年男グーロフが出会っていけない関係を結ぶ。二人とも結婚してそれぞれの家庭があるのに求め合う心と体は道徳を無視してでも引き合ってしまう。

 マダムの方は不貞を働くその瞬間まで口では「嫌よ、ダメよ」を言うが全てはフェイクであって本能はそのまったく裏の行動を求める。男と女の情事には理性とか道徳をもってしても自制をかけることは相当難しいようであるとわかる。

 二人は一度別れのだが、それでもお互いがお互いを求め結果として再び密会するようになる。それまで女性と関係を持つことは多々あってもこんなに愛を燃やしたことがなかったグーロフはアンナこそ心底愛した女だと自覚する。

 不貞を働いてまでしても真の愛をみつけたグーロフは恋愛の道を行く者としてはある種正解者であるのではないかとも思える。

 

 真の恋愛に出会うのに後先は関係無く、最初にあった異性こそが真の愛を注ぐ相手とは限らない。二人目三人目こそが真に相性満点の最高の恋人となりえることもあるではないかと納得させられる。

 

 私は不倫を肯定する者ではないが、この話には納得いく点も多々ある。

 

かわいい女・犬を連れた奥さん (新潮文庫)

かわいい女・犬を連れた奥さん (新潮文庫)

 

 

 やっぱりロシア文学の登場人物は名前が覚えにくい。