ブレヒト作「暦物語」を今年の読書の読み収めとして楽しく読ませてもらった。
鬼才西尾維新の放つ大ヒット長編物の「物語シリーズ」のひとつにも暦物語という作品があるが、今回私が手にとって読んだブレヒトの暦物語は西尾維新が書いたのよりも遥か古に書かれしベストセラー本である。
魅力的な作品が詰まった短編集となっており、かなりバラエティ豊富な一冊となっている。
本紹介には元々農民や職人のためになる面白い実用志向の読み物だったと表記されている。紹介通り、素直にためになると思える教訓の散りばめられた一冊であると思う。まさに大衆に向けて描かれ、愛されたヒット作である。
収められている様々なお話には、カエサル、ソクラテス、ベーコン、老子などの有名人からどこの誰ともわからない大衆の方々まで実に様々な人物を主役としたものがある。
一番最初に収められている「アウクスブルクの白墨の輪」の子供を一度は見捨てた親と、捨てられた子を愛情たっぷりに育てた女中が養育権がどちらにあるかを裁判で争った時に、弁護士が取った真の母を導き出す策はすばらしかった。骨肉の繋がりを越えてまで真の母の愛が正義を勝ち取ったまさにいみじき成敗であった。
世界史の授業やシェイクスピアの「ジュリアス・シーザー」を読んで知ったカエサルの最後の日の前日譚を綴った一編は面白かった。シェイクスピアの「ジュリアス・シーザー」ではタイトル名になっている本人はすぐ死んで実際の主役はブルータスやキャシアスなので生きているカエサルをじっくり読めるこの作品がなんだか目だっていた。
老子の話は老子という人物の得も言われぬ味のある人物像が描かれていた。
「分不相応な老婦人」では女として妻として母として60年生きた老女が夫が死んでから自分も死ぬまでの2年の間、それまで肩に背負った人生の荷を解いて自由気ままに短き第2の人生を謳歌するという話であった。収録作品の中でコレが一番好きだった。短い話の中にも老女の人生の輝きが詰まった素敵な作品だったと思う。
私は人生を活き活きと生きる人こそ素敵だと思う。この老女がそうだったように思えた。私にはこの老女の人生の終え方が最高の人生の終え方に思えた。
最後の一編が短編の中で更に小話として分裂した話が詰まった「コイナーさんの物語」である。コイナーさんが明るく愉快な人物であるのと同時に厳しい目で物事を見る堅物でもあるし、ちょっとした皮肉屋でもある。
少々理屈っぽすぎて何を言っているのかわからない所もあったが、これはためになる話であった。
全体的に教訓めいたことを描いているし、反戦的な事を言っている、世の悪をシニカルに指摘しているとも考えられる。世界史や文学の世界に登場するような人物の話も出てくるが前もって人物の知識無くとも楽しめた。
以前ブレヒトの「三文オペラ」という本を読んだが、あれとは随分雰囲気の異なる一冊だなと思えた。
さあ、次なる素敵な日を迎えるために人生の暦をめくろう。
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