ジェイムズ・ヒルトン作「失われた地平線」を読んだ。理想郷を意味する良く聞く言葉「シャングリ・ラ」の出典元はこの作品であるらしい。
偶然にも謎の地へ潜り込むことになるこの冒険ロマン小説、なかなか面白い。
作品の内容は人跡未踏のチベットの奥地にある理想郷シャングリ・ラに行って帰って来た男コンウェイの経験談を聞いて、作家ラザフォードが書いた物語を辿っていくというスタイル。
我々読者が目で辿っていく物語のほとんどは、コンウェインの証言を元にラザフォードが紡いだ劇中作である。ラザフォードの語り口がやけにリアルなので最初はノンフィクションなのか、と想ったがそうではないようだ。
あと、ちょいちょい出てくる国とか土地の名とかの地理関係ワードが全然わからない。
コンウェイ、マリンソン、バーナード、ミス・ブリンクロウの乗った飛行機に本来の操縦士でない何者かが乗り込み、ハイジャック状態になって、四人の目的地でないどこともわからない山奥に連れて行かれる。
到着した先は、そこで暮らせば安息を得られる理想郷シャングリ・ラであった。そこの僧院に閉じ込めれて四人はしばらく生活することになる。住めば都でマリンソン以外の三人はもうここに住んでしまうと想うようになる。
この安息の地でも心休めることなく回りに当り散らしながらも家に帰ることを宣言するマリンソンの真っ直ぐさは、煩いのだけれど、若さを感じて良い。コンウェイも喧しいマリンソンのことを何がかんだ言って気に入っていた。
実は指名手配されていた犯罪者のバーナードが、飄々と喋る様は好きであった。後半は出番が少ないキャラだけど、掴みどころのない印象に残るキャラであった。
安らぎを得ることが関係してか、シャングリ・ラにいれば不老不死の効果が得られ、200年以上生きている爺さんもいる。
物語の時代背景を見ると、戦争などのせいで心が疲れる世であることがわかる。悩ましい俗世から抜け出して、登場人物の大ラマ僧のごとく脱俗を終えて長生きできるのはまさに理想的とも言えよう。個人的にはこの理想郷はいい所だと思え、あるなら是非行ってみたいと想う。シャングリ・ラには巨大な図書館があるので一生暇せずに過せそう。
シャングリ・ラに到着までの冒険が結構迫力があってわくわくした。僧院に入ってからのコンウェイと大ラマの長い問答のところはちょっと眠くなった。
ストーリの進行に合わせて、メインキャラであるコンウェイの人と形について細かく描写しているのが印象的であった。コンウェイがどういった男か、とてもわかりやすく描いている。
最後はマリンソンとコンウェイのみシャングリ・ラから脱するが、その後のマリンソンの行方はわからないままとなり、コンウェイも一度は下界に帰ってきてラザフォードと会った後は行方不明になっている。恐らくコンウェイはシャングリ・ラを再び目指したのを匂わせて物語は終わる。
地図にも載らないこの世の楽園がどかにあると思うと実にロマンがあること、そして何から何まではすっきり解明されない謎を残したラストのために読み終わっても後味が長く残る作品であった。
浮世離れし、尚且つ安らぎある生活を望む私としては憧れを抱かずにはいられない物語であった。
私にもきっと見つかるシャングリ・ラ
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