こしのり漫遊記

どうも漫遊の民こしのりです。

アホすぎる冒険の終わり「ドン・キホーテ(後篇)」

 

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 作家セルバンテスによって書かれた「ドン・キホーテ(後篇)」を読んだ。

 

 この後篇は前篇から約10年経ってから発表されたという。すごい長い物語だけにその構想を固めるにもまた時間がかかったと見える。

 後篇でもドン・キホーテの狂人めいた様を拝めることができ、サンチョの愉快な喋りも楽しめた。そして、やはり旅の途中で出会う人物が揃ってペラペラとよく喋る内容になっていた。 

 私が手にした岩波文庫版の挿絵が素晴らしく綺麗で、物語をより楽しむのに役立った。

 それにしても前篇三冊、後篇三冊の長い話だった。楽しかったけど目が疲れたぜ。

 

 あとドン・キホーテはゲーム「魔界村」の主人公の騎士アーサーに似ているなと思った。 

 

メタ認知の要素が面白い。

 ドン・キホーテ(後篇)は前篇以上に色々とすごいことになっていた。

 前篇ラストでボロボロになって村に帰ってきたドン・キホーテが、家で静養中のところから後篇はスタートする。

 ドン・キホーテと言えば、前篇からメタ認知の要素が強かったが、後篇からはその辺のことが振り切ってやばいことになっている。

 後篇序盤において、ドン・キホーテとその従士サンチョ・パンサの冒険のそれまでの冒険を収めた「ドン・キホーテ(前篇)」が作中において発売されていることが明らかとなる。

 序盤には学士のサンソン・カラスコという男が実際にその本を読んで、ドン・キホーテサンチョ・パンサを知っていると言って会いに来る。ドン・キホーテは静養を取った後に三回目の旅に出るのだが、その行く先々で出会う人も前篇を読んでいるために二人のことを知っている。再び旅に出た二人が後篇の多くを過ごすことになる公爵家の夫婦はドン・キホーテファンを公表している。これには作家の遊び心がかなり出ている。

 

 まだあるメタ認知要素の面白さは、セルバンテスが後篇を執筆中にアベジャネーダという謎の人物により偽物の「ドン・キホーテ」が執筆され、本物の後篇よりも先に発売されたというとんでもない事件をそのまま作中に載せているという点にある。これはセルバンテス本人の許可なく世に出たとんでもない作品で、大昔のこととはいえよく発売まで漕ぎ着けたなと思える代物であった。「贋作ドン・キホーテ」の名で通り今でも文庫本で読める。現代にまで名を残す偽物となった。かなり面白い事件だと思う。

 ドン・キホーテは旅先で出会った人からドン・キホーテサンチョ・パンサの噂を聞くのだが、聞いてもそれらが自分達のことを話しているとは思えず、それで偽物のドン・キホーテの話を知るのである。本物のドン・キホーテは、「贋作ドン・キホーテ」の中で偽物が訪れた街をスルーして旅先を変えるというアクションを取る。後篇終盤では「贋作ドン・キホーテ」に登場した人物と遭遇し、ドン・キホーテサンチョ・パンサの三人で会話をするシーンも見られた。自分の物語をパクったヤツの物語をもうまいことパクって取り入れることで話を更にユーモアのあるものに仕上げたセルバンテスの柔軟な思考と、あとはパクったヤツを許す大らかな心が伺えた点がすばらしいと思った。この作家、相当面白い人だと思う。

 

・狂人ぶりがやっぱり愉快なドン・キホーテ

 後篇でもドン・キホーテの狂人ぶりが発揮される。本当にバカだなと思ったのは、旅の途中で王様に献上するライオンを運ぶ旅の一団に出くわしたドン・キホーテが、ライオンと一戦交えたいから檻から出せと旅の者を脅すという話。大人しいライオンはドン・キホーテが挑発してもかかってこないし、そもそも檻から出ようともしない。結果そのまま檻を閉めて旅の一団は去っていき、ドン・キホーテはライオンを圧倒したとアホなことを言ってそれ以来二つ名を「愁い顔の騎士」から「ライオンの騎士」に変える。このシーンには中二病の痛いところが出ていた。

 

 名前だけがやたらと出て来てやっぱり姿は見えない比類なきヒロイン ドゥルシネーア・デル・トボーソについて言及されるシーンがある。サンチョはドン・キホーテからドゥルシネーアを連れてこいと言われるが、もちろんそんな女はいないので困ってしまう。ここでサンチョが普通のブスを指して、悪い魔法使いのせいで容姿性格共に醜いものに変えられているという賢いホラを吹く。ここを読んだ時はアホすぎると思って笑えた。ドン・キホーテも普通に信じていた。出てこないのに前後篇に渡ってずっとドゥルシネーアの存在が語られるのも面白いと思った。

 

 前篇では風車小屋を巨人と思い込んで突っ込んだ間抜けなドン・キホーテだったが、後篇では中に囚われの身の者がいると思い込んで今度は水車小屋に突っ込む。もちろん誰も囚われていない。

 人形劇を見て、悪者の人形をガチな悪者と信じ込んで人形を八つ裂きにするというかなりクレイジーな行動もやってのけた。水車小屋に突っ込んだ時に破壊したイカダと八つ裂きにした人形のお代は後で弁償している。狂人じみた言動により旅の出費を嵩ますアホなことをやってると笑えた。

 

 普段は博識で紳士的なドン・キホーテなのだが、騎士道が絡むと一気に狂ったようになってしまう。普段はテンションが高いドン・キホーテが、公爵家で猫に顔を引っかかれてからはすごい気分が落ちこんでいた所が印象的だった。

 

・狂人からの目覚め

 読めば分かるが、ドン・キホーテは騎士道物語にハマりすぎたために中二病を患っている。彼がまともだった時から仲良しだったドン・キホーテと同じ村に住む神父と床屋は最初こそドン・キホーテの目を覚まそうとあれこれと奔走するのだが、その内にはこれはこれで見ていておもしろいと想い始め、ドン・キホーテの奇行を後押しするような素振りを見せる。後篇ではドン・キホーテの周りの人物が悪ノリしてドン・キホーテにもっと騎士をやらせようとしているような場面が見られる。

 ドン・キホーテサンチョ・パンサが長らく世話になる公爵家でのシーンでは、ドン・キホーテの物語のファンである公爵夫妻があれこれと手を打って遍歴の旅を劇的なものへと演出しだしていた。サンチョも話が進むだけ口が上手くなって主のドン・キホーテをバカにしながらも劇的な旅になる演出に協力しているようであった。中にはドン・キホーテの狂人ぶりが楽しいのだから、目が覚めて普通の人になってしまったら困るという輩まで出てきた。

 

 前篇では宿を見ては城と言っていたドン・キホーテが、後篇では宿を宿として認識して城と思い込むことをしなくなった。徐々にドン・キホーテの目が覚めつつあるように思えてくる。

 後篇の終盤でドン・キホーテは村に帰り、そこで熱病に侵されて静養を取ることになる。病に蝕まれていく中で、ドン・キホーテはついに騎士道物語の妄想から目覚め、村の郷士アロンソ・キハーノに戻り、そして息を引き取る。散々バカをやったが最後は元の姿で死んでいった。ドン・キホーテの死が迫った最後だけは、それまでの緩い喜劇のテンションとは異なる雰囲気だったので緊張して読んでしまった。

 

 

 一大エンターテイメント作品だったと思う。作者も書いて楽しかったことだろうと予想できる。笑える下らなさを演出したドン・キホーテサンチョ・パンサの二人のことは生涯忘れないだろう。

 

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