片田舎で暮らす悩める青年の青春「ギルバート・グレイプ」

「ギルバート・グレイプ」は1993年公開のアメリカ映画。

　若きジョニー・デップと幼きレオナルド・ディカプリオが共演したことが印象的な作品。

内容

　青年ギルバートは、知的障害を持った弟のアーニー、姉と妹、そして肥満体型の母と共に片田舎で暮らしている。ギルバートは食品販売店で働き、手のかかる弟の面倒を見て、すっかり家に引きこもってしまった母の世話もしながら実質一家の大黒柱の役目を担う。そんな負担の大きい生活に彼は満足がいかず、街を出たいとは想うが、家族があるためにそれは叶わない。刺激的なことと言えば仕事の配達先の奥さんと不貞を働くことくらいである。

　鬱屈とした彼の青春に新たな風を吹かせたのは旅の途中で街に寄った少女ベッキー。ギルバートの青春を通して、家族の絆や淡い恋心を描いた良質な青春ムービーである。

感想

　進路に悩みつつも手の打ちようがない主人公のこの状態は映画「グッド・ウィル・ハンティング」を思い出す。ギルバートの悩みは等身大なものとは想うが、その環境が特殊。

　ギルバートにとっては大事な家族であり、ある種鎖もなっているのが弟と母の存在。作品で特にインパクトがあるのはやはりこの二人。

　弟のアーニーは18歳にもなるのに、一人で風呂にも入れないし、知的障害のために人並みの理解力を持ち合わせていない。高い塔に登っては遊んで、警察を呼ばれる。その度にギルバートは謝らないといけない。注意しても繰り返すので遂にはアーニーは留置所送りになる。そこまでするんだと想った。まぁ警察も迷惑だわな。

　アーニーが風呂に入らないのでとうとうギルバートがプッツン切れて殴ってしまう。ギルバートは弟を傷つけたことで自分を責め、姉達からも責められる。でもギルバートは本当によくやってると想う。私なら二回目に塔に登った段階でマジでフルボッコにしている。

　母のボニーは夫が自殺してから引きこもりの過食症になり、杖がないと歩けないレベルのデブになっている。そこらの力士やマツコデラックスよりもいってる。おまけに夫のことで心理的ショックを受け、結構なヒスもはいっている。見た目のインパクトがスゴイ。どこか懐かしい感じのする田舎を舞台して穏やかな雰囲気でお届けするのかと想ったら景色にそぐわないこの巨体が登場するので眠かったけど目が覚めた。
　留置所に囚われたアーニーを迎えにいく時には勇気を出して久しぶりに外出した。しかし街の人々は心無い対応をして、太ったおばさんを見て笑うし、珍しいからと写真を撮る者もいた。あのシーンは心が痛む。ちょっと気になるのが、ボニーが車に乗ると、重すぎて車体が傾いていた。ギルバートには母はクジラだと陰口を叩かれている。

　ボニーがこれではいかんと自分の足で歩くことを決心し、階段を自力で登って二階のベッドに横になるのだが、そのまま死んでしまう。え、嘘だろと想った。警察を呼ぶと、死体を運び出すのは容易ではなく、たくさんの人手がいると言われ一旦は引き上げることになる。　

　死体の始末を考えるとかリアルで、これマジでどうするんだろうと想った。よりにもよって二階で死なれたら、ただでさえ重いのに大変すぎる。それにこれだけ太った人を入れる棺桶なんてないだろう。特注しなきゃと想った。子供達の気持ちになると、まさに絶望。クレーンがなきゃ運べないという意見も出た。

　死体を運びだす時には絶対に騒ぎになり、野次馬が集まって母が笑い者にされる。それを恐れたギルバートは最終手段として、家を丸ごと棺桶にして盛大に家を燃やす。このシーン、すごかった。放火だからいけないことだけど、ギルバートの気持ちを思うと、こうするのも仕方ない気がした。母の死体を片付けるまでの重い流れのシーンが一番印象的だった。

　ギルバートの鬱屈とした青春に刺激を与えたキーパーソンがヒロインのベッキー。短髪で健康的な良い女である。

　ベッキーが実に個性的で、若いのに人生を達観している。やはり常に旅をして見聞を広めている人物は言うことが違う。

　冒頭でアーニーとギルバートが仲良くトレーラーの行列を見る。ベッキーもトレーラーで旅する少女。車で家を引っ張って来るわけだから新手にしてオシャレなジプシー。こんなことして生活している人がいるんだと想った。物語後半では街に新たなハンバーガーショップがやって来る。これも車で店を引っ張ってくるからスゴイ。オープンセールに霊柩車で訪れたギルバートの友達が面白い。この友達が人が死なないから儲からないと言うのが印象的だった。

　ベッキーとの出会いをきっかけにギルバートは店のお得意さんの奥さんとの不貞関係を断ち切る。奥さんが自分は誰でも選べたが、その中でもギルバートを選んだと言ったのは印象的だった。情熱的な奥さんだな。でも浮気は社会的には駄目なことなのだ。

　舞台の牧歌的な風景からどこか懐かしい気持ちになり、ギルバートの若さゆえの悩みを見ても心が若返ったようになる。ギルバートはイケメン。

　後引く魅力のある青春映画だった。好きな作品である。