こしのり漫遊記

どうも漫遊の民こしのりです。

破壊の限りを尽くす逃走劇「愚者(あほ)が出てくる、城寨(おしろ)が見える」

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「愚者(あほ)が出てくる、城寨(おしろ)が見える」は1972に出版されたジャン=パトリック マンシェットによる小説。

 

 作者マンシェットは、ランボー作「地獄の季節」作中のセリフからヒントを得て、このタイトルに決めたとか。

 

「愚者~」よりも先に訳された本では「狼が来た、城へ逃げろ」というタイトルだったという。 

 本作はフランス推理小説大賞を受賞した名作である。

 

 内容

 精神病院を退院した主人公女性ジュリーは、実業家のアルトグに雇われ、彼の甥のテペールの子守り係となる。

 雇われて早々、ジュリーとテペールは4人からなる殺し屋グループに拉致される。

 隙を見て二人は脱走し、それからは長き逃亡生活が続く。

 

 感想

 まずびっくりなのが、この作品が犯罪小説であり、推理小説であるということ。

 この愉快なタイトルからギャグ作品と想ったが全然違った。短い小説だが、読み応えたっぷりで面白い。

 作品登場キャラの多くは凶暴的だったり、狂人的な一面を隠しもっている。タイトルにある「愚者」と書いて「あほ」とは、こういう危ない人間共を指しているのだと想う。 

 

 序盤で主人公のジュリーは悪党共に拉致されるのだが、彼女は大人しく捕まっているお姫様ヒロインではなく、自ら脱出への活路を開く。

 4人の殺し屋グループの一人から銃を奪い取って殺してしまい、追手の一人にも銃をぶっ放して重症を負わす。追手から逃げるために一般人の男性を殺して車を奪うこともした。

 精神病院から出ても、病んだ精神によって躁鬱を繰り返すジュリーの精神の不安定性が描かれる。他の登場キャラからは「あの気違い女」と呼ばれることもあった。普段は普通の人なんだろうけど、気持ちが高まると常人はずれの行動を行う危険性があるヒロインだった。

 

  ジュリーを追う殺し屋トンプソンも異質なキャラクターであった。ジュリーとテペールを殺すという依頼を遂行することに対して異常なまでの執着を持っている。精神を病み、すごいストレスを抱えることから胃潰瘍に苦しむ描写が印象的な人物だった。

 

 作品の見どころは追う者、追われる者とで繰り広げられる逃走劇の過激さ。

 ジュリーは、命がかかっているから当然必死で逃げる。そして追手の一味もそれは同じこと。

 中盤に街のスーパーの中で一味が銃をぶっ放してジュリーを追い詰めるシーンがある。このシーンでは店の中はぐちゃぐちゃになるし、関係の無い人も流れ玉で殺され、最後には大火事になり爆発も起こる。彼らが過ぎ去った後は破壊と死が残るのみ。ものすごい迷惑行為の果てに惨憺たる場面の出来上がりとなっていた。

 このシーンでジュリーは右腕を撃ち抜かれる。血だらけの腕を下げ、車を盗んで街から逃走する。殺し屋連中の執拗な追跡に対して素人のジュリーが、しかもガキのテペールを連れて逃げおおせるというのもスゴイ。

 

 後半ではタイトルにあるもう一つのキーワード「城寨(おしろ)」が登場する。奇抜な作りの城は印象的だった。そしてラストはこの城で激しい命のやり取りが行われる。 

 城に攻め込んだトンプソンの銃撃によってガキのテペールは片耳をふっ飛ばされる。ジュリーはナイフでトンプソンに応戦するし、ジュリーに味方してくれるフェンテスもライフルで応戦する。

 ずっと泣いてばかりのガキだったテペールが最後にはアルトグに矢を射ち、それがきっかけでアルトグは絶命してしまう。最後にはテペールの精神にも大きな変化があったと予想させる印象的な終わり方をした。

 後半でも読み応えたっぷりでハラハラする銃撃戦が展開した。ここは面白くて一気に読んでしまった。

 

 無駄な要素を削って、短く読みやすくした上で読み応えがあって面白い。おかしなタイトルだなと想って手に取ったのだが、予想以上に面白くて楽しめた。

 

愚者(あほ)が出てくる、城寨(おしろ)が見える (光文社古典新訳文庫)

愚者(あほ)が出てくる、城寨(おしろ)が見える (光文社古典新訳文庫)

 

 

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