こしのり漫遊記

どうも漫遊の民こしのりです。

芸術を突き詰めたその先の世界「知られざる傑作」

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「知られざる傑作」は1831年に発表されたバルザックの短編小説。

 

 タイトルがすごい格好良いと想って手に取った。

 

 図書館には昭和27年に入荷したと記載される古いものしか無かった。一昔前の表紙がついていない岩波書店の文庫本だった。全く飾らない地味でレトロ感漂うあの表紙、何故か見ていると落ち着く。この時代の本は漢字が旧字体なので、時代を大いに感じながら作品を楽しんだ。

 定価80円って書いてた。安っ!昔の80円だと今なら500円くらいかな。

 

内容

 無名の画家ニコラ・プーサンは、画家ボルビュスのアトリエを訪れる。同じくそこに足を運んだのは老齢の画家フレノフェール。

 腕利きの画家フレノフェールだが、長年完成させることが出来ない作品があった。それは美しき女性の絵だった。プーサンは恋人のジレットをフレノフェールの絵のモデルとして貸す代わりにフレノフェールの絵を見せろと取引した。

 ジレットをモデルにすることで、それまで止まっていたフレノフェールの筆はすいすい進み、長年の時を経て彼の理想とする完璧な女性の絵が完成する。

 遂に完成したフレノフェールを絵を見たプーサンとボルビュスは驚愕する。その絵はごちゃごちゃとした色がたくさんあり、その中に女性の足だけが描かれている謎作品であった。

 絵を完成させた後、フレノフェール画伯は自分の作品を全て燃やし、そして自分も死んでしまう。

 

感想  

 これは芸術家という、ある種特殊にして変態的執念を持つ者のお話である。常人の私では理解が及ばない言動も見られた。

 老齢の画家フレノフェールは、芸術の世界に取り憑かれ、それを突き詰めた果てに絶望して死んでしまう。異常、ただ異常。そう想った。どこまでも美の追求を行った結果、精神的異常を来したのだと想う。

 フレノフェールが見せる変態的なまでの絵へのこだわりが印象的すぎた。自分の描く女性の絵は、イコールして本物の美しき女性。それを人に見せびらかすなど愛した女の恥部を晒すようなもの。だから見せない。的なことを喋っている。もはや絵を絵以上の何かに昇華させて考えている。創作活動にストイックすぎる変態発言だった。

 

 ボルビュスのアトリエシーンでは、フレノフェールによる絵の論評が行われる。これが長くて、本当に良く喋る。ここではうるさい爺さんとしか思わなかった。

 

 異常なまでに作品完成に情熱を燃やすフレフェノールを見ると、芥川龍之介の「地獄変」に登場する絵師を思い出した。

 

 天才画家フレノフェールと同じく天才画家であったパブロ・ピカソは、この小説を読んでフレノフェールに共感し、魅了されたと言う。フレノフェールの狂気とも言える情熱に鼓舞されて名画「ゲルニカ」を完成させたと言う。狂気の情熱は人に乗り移る。

 

知られざる傑作―他五篇 (岩波文庫)

知られざる傑作―他五篇 (岩波文庫)

 

 

 画家の魂を文章に起こして伝えた熱量豊富な短編であった。

 

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