こしのり漫遊記

どうも漫遊の民こしのりです。

悲痛な純愛「狭き門」

 

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 フランスの小説家ジッド作「狭き門」を読んだ。

 

 昨今の小説というか、ラノベというのを見ると、大体こういう話ですっていう内容がそのままタイトルになっているパターンが多く見られる。あれは長ったらしいタイトル明記がダサかったり、バカっぽかったりもするが、読む前から内容を教えてくれる点は優しいと思える。

 

 この作品のタイトルは短い。何か困難な道を行く物語なんだろうなぁくらいに予想して手に取った。内容は知らずにタイトル買いで読んだのだが、中々ヘビーな恋愛が綴られた作品だった。

 

「力を尽くして狭き門より入(い)れ」

 

 ルカ伝福音書に刻まれる上記の文が1ページ目にバンと表記される。これはイエス・キリストの言葉だという。

 

 そして物語が始まる。

 

 主人公少年ジェロームは美しい従姉妹アリサに恋をしている。二人は両想いで、その仲は周りにも公認のこと。ならば妙齢を迎えればさっさと結婚してしまえばよいのだが、色々と面倒が起こる。

 

 アリサの妹ジュリエットも実はジェロームが好き。それが分かるとアリサは妹に遠慮し、ジェロームを譲ろうとさえする。三角関係の中で一悶着起こり、結果的に姉よりも先にジュリエットはブドウ農家のおっさんと結婚する。

 

 これで問題なく二人は結婚出来るだろうと思ったら、アリサは宗教に目覚め、結婚に幸せの最高点を求めない思想を抱くようになる。

 アリサの語る宗教的恋愛観は、読んでいるとはっきり言って面倒くさいと想った。

 

 ジェロームはジェロームで、アリサこそ全身全霊をかけて愛するにふさわしい唯一の女と想い、ほとんど崇拝している。

 アリサはジェロームを愛しているが、それでも最終的な結婚の話が出れば拒絶反応を示す。これではジェロームが可哀想だ。

 それでも二人は、ジェロームの兵役を挟んでもなお文通で関係を絶たないでいる。

 付かず離れずのこの関係は、現代日本人的視点から言ってかなりのストレス。おいそれと関係を結んでは飽きて別れるという昨今ありがちな若者の貞操観念はそりゃよろしくない。かと言って、深く考えすぎて関係が円滑に運ばないのも同じくよろしくない。

 ジェロームとアリサの関係を見ればそんなことを思う。いずれにせよ、恋愛ってのは奥が深く、簡単なものではない。

 

 アリサの母はそれは美人な女であった。

 ジェロームがまだ幼い頃、妖艶な叔母にちょっとからかわれることがあった。その際の男を翻弄するような叔母の言動にはちょっとドキリとするものがあった。ジェロームもドキマギしている。

 

 ジェロームは幼い頃にアリサの母、つまりは自分の叔母の不貞の現場を見る。アリサの母はよそに男を作って家を出てしまう。

 アリサ的にはそこがトラウマで、それゆえ愛を持ってしても、ジェロームとの性を匂わす関係を構築することに心がストップをかけるのだと思う。巻末の解説を読めばそんな感じのことが分かる。

 

 アリサは恋愛の幸福よりも清らかさを求めるみたいな分からないことを言ってジェロームの結婚の申し出を断る。確かに複雑に考えすぎる面倒臭いところがあり、それによって恋愛を楽しめないでいるのだが、その一方で、純粋で繊細な乙女心を持っているとも言える。

 

 ジェロームとアリサ、二人の物語は二人の幼少期から始まり、二人が20代後半になるまで続く。その間、美しく可憐なヒロインアリサは、ずっとどこか屈託ある少女として描かれる。そんな風に考えて心が病んでのためか、30にならないうちに死んでしまう。

 

 アリサのような理屈をこねる女はストライクなタイプではないが、それでもどこか神秘的な魅了を感じるため、印象深いヒロインとなった。

 

 この話の人物設定は、筆者ジッドのリアルな体験がシフトされているという。自伝的要素もあるとか。

 登場人物にはモデルがいて、ジッドも年上の従姉妹と結婚したという。ジッドは嫁とは性的関係を持たないピュアな結婚生活を歩んだという。でも、よその女との間には子供を作っているし、同性とも性的関係を結んだ過去があるという。本妻とは綺麗な関係だった。

 

 ジェロームとアリサ、二人の関係は添い遂げられることなく終わる。でも純愛だった。愛には種類があると言うが、その中の一つであるこの純愛にもまだ種類分けがあるような気がした。

 アリサの唱える宗教的で哲学も絡めたような恋愛観や人生観を聞けば、恋愛観というもの細分化を極めているなと思えた。

 

 一筋縄では行かない高尚な恋愛小説だった。読み応え十分だ。今の10代若者には耐えられない内容な気もするが、私はこういうの好き。

 

狭き門 (光文社古典新訳文庫)

狭き門 (光文社古典新訳文庫)

 

 

 力を尽くして狭き門より入れ

 

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