こしのり漫遊記

どうも漫遊の民こしのりです。

タイトルは愛しき比喩「君の膵臓をたべたい」

「君の膵臓をたべたい」は2018年9月に公開された劇場版アニメ。

 

 原作は小説で、先に実写映画が公開されている。実写が先とは珍しいパターンだな。タイトル名がサイコパスカニバリズム志望なので目にすると興味を引かれて覚えてしまう。タイトルからは内容が全く予想出来なかった。

 作品名のみは知っていたが、数年前に「もう日本の新作実写映画は見ない」と誓ったので実写は見ておらず、内容も全く知らない。実写版のチェックはしていないが、私の大好きなミスチルが主題歌を担当していたので、実写版主題歌「himawari」は気に入って300回くらい聴いていた。いい歌だったぜ。

 

 そんなわけで、私とはミスチルだけで繋がっている関係の今作だったが、アニメになれば話は違うのでBD発売後にさっそくチェックしてみた。

 

 するとこれが文学的に男女の心の交友を描いたなかなか綺麗な作品だった。

 作品タイトルの「君の膵臓をたべたい」という謎ワードだが、このセリフが登場する後半シーンまで見れば「あぁ、そこに着陸するならこのタイトルで納得!」となるので安心した。

 

キミスイ」という一回聞いてもフルネームがなんなのかまったく予想できない通称を持つ今作について、つらつらと感想を書いていくぜ。

 

劇場アニメ「君の膵臓をたべたい」

  

内容

 主人公少年「僕」(最後に本名が志賀春樹と判明)は、病院で偶然「共病文庫」という本を拾う。その本の中身は彼の高校の同級生山内桜良の日記だった。彼は桜良が膵臓を病んで余命いくばくもないと知り、それは彼女の親と医師以外誰にも知らされていないとも知る。

 そんなヘビーな乙女の秘密を知りながらも、他人に干渉しないスタイルを貫く僕は特に同様することなく桜良に本を返して病院を去る。

 

 他人に興味を示さないという彼の特異性に興味を持った桜良は、その後の人生を楽しく過ごしたいという希望の下、日々なにかと彼に絡んでくるようになる。

 桜良に振り回されて僕の青春は目まぐるしく変わっていく。その中で僕の心にも様々な変化が起こる。

 

 ただでさえ余命が短い上に不幸が重なり、桜良は通り魔に殺されてしまう。死後、彼女の残した日記「共病文庫」を読んだ僕の価値観は更に変わってくる。もっと多くの人と関わった方が良いという桜良の言葉を受けて、彼はそれまで他人に対して閉ざしていた心を開放する。そしてまず始めに、彼のことを目の敵にしている桜良の親友恭子と友達になるため歩み寄る。

 

 一年後、他人と分かり合う努力を行った果てに僕は恭子と桜良の墓参りにやってくる。

 

感想

 まずヒロインの桜良が天真爛漫で可愛い。劇中では色んな髪型とファッションで魅せてくれた。この子に迫られていつまでも無反応だったら「僕」の男性機能が正常かどうか怪しい。

「僕」にクラスで三番目に可愛いと言われた時と病院でダンスをしているのを見られた時に頬を赤らめて恥ずかしがる桜良の様も可愛いかった。ぐいぐい来る子と思いきや結構恥じらい乙女だったのでギャップに萌え。

 

 桜良を演じている Lynnは、私が毎週視聴しているテレビ番組「アニゲーイレブン」のMCをしているので知っていたが、まだ芝居の声を覚えていなかった。 作品を見ていると桜良の声が亡き川上とも子にちょっと似ていると想った。

 

 余命短しと言ってもありふれた日常生活を楽しみたいという彼女の人生観は素敵。「僕」を連れ回した先は焼き肉食い放題、ケーキバイキングとG系コースが多かった。

 

 桜良が、自分が病んだ部位を食べると治るという古の民間療法の話をしたり、桜は散ったあとにもすぐに次咲く準備に取り掛かっているというちょっとしたウンチクを披露する感じが更に変わった子演出となっていた。このウンチクは印象的だった。 

 

「僕」の青春をかき乱した張本人の桜良だが、途中までは言動が読めない謎女子だった。これにはタイプは違えど読めない女ということで「海がきこえる」のヒロインを思い出した。

 

「僕」が旅行というより拉致とコメントした桜良の強引な旅行ツアーが行われ、二人はホテルに泊る。そこで「真実か挑戦かゲーム」という王様ゲームの進化系みたいなゲームをやる。このシーンがちょっとどきどきしたけど、このゲームはオリジナルなのか、都会の若者の間で流行っているのかと気になった。

 

 僕とはあくまでも「仲良し」な関係、恋人未満の友人という微妙な間柄なのがピュアで良かった。でも、ちょっとのオイタで桜良が恋人でもない男といけない事をしたいとか言って僕に迫るアレにはドキドキした。その後に僕から返り討ちに合うのは仕方ないけど、桜良が「やめてぇ」と言って涙を流すのは萌えだけど、マジ可哀想とも想った。男はどこかしらに狼を飼ってるので安易に挑発すべからず。

 二人がハグするシーンはあれどキッスやその先はない。花火を見ながら二人がハグして語り合うシーンが良い。花火の描写が綺麗。最近のアニメでの花火の描写はカラフルで鮮やかでどれを見てもハッとする美しさがある。

 二人が最後まで名前を呼び合わないのも印象的だった。

 

 それにしてもヒロインが通り魔に殺される急展開はかなりショックだった。話の序盤で通り魔が横行しているという雑談をするシーンがあり、伏線を臭わす感じに挟んで来たなとは想っていたが、それでもまさかヒロインが殺られるとは予想出来なかった。どうせ老い先短いのにこの展開は酷い。

 

 爽やかな人気者と想った隆弘(CV:内田雄馬)が結構やばいストーカー気質だったのは残念だった。

 

 桜良の親友の恭子は友人想いの良い子なのだが、かなり剣のある子でもあり、「僕」のことをクソ毛嫌いしている。やんわりした女子を演じるイメージがある藤井ゆきよが恭子みたいな女子を演じたのは意外だった。良い芝居してた。

 

 見落としがちだけど結構重要なキャラが「僕」にガムをあげたい願望の強い同級生男子、通称「ガム君」。人と関わりたくない「僕」は、ガム君がガムをあげると言ってもいらないと断って会話を終わらせようとする。でも最後にはガム君からガムを受け取る。このシーンで、桜良との出会いによって僕の心が周囲にも開かれたと分かる。ガム君を上手いこと配置していた。彼の同級生感が何だかすごく心地よい。

 最後の墓参りのシーンで恭子が「僕」にガムをくれたのは、恭子とガム君がデキていることを匂わせる良き演出だった。

 

 ずっと眠そうな顔をしていた「僕」が墓入りの時になると爽やかなイケメンになっていたのが良かった。

 

 主人公「僕」は文学青年。こんな話を書き、こんな主人公を置くのだから恐らく作者も文学好きのはず。そこで文学青年の登竜門である夏目漱石の「こころ」を僕が愛読しているのは非常に好感が持てる。何せ私も文学青年で「こころ」を愛読している。最近のアニメなら「月がきれい」の文学青年の主人公も「こころ」を読んでいた。登場人物Kの心理には共感できないものの、「こころ」の文学的価値は確かなものである。

 対して桜良がただ一冊だけまともに読んだ文学が児童文学の「星の王子さま」なのは随分可愛いチョイス。「外国の本だから知らないと想ったのに」と僕に言うあたり結構おバカかもしれない。ちなみに私は「星の王子さま」の本もアニメも楽しんだ。

 

 そしてエンディングで流れるsumikaの「春夏秋冬」は良い曲。ちょっと泣きそうになった。泣きそうになっただけで泣いてないけどね。

 

 人と人との出会いは大切で、互いに足りないものを補うことで形成して行く人間関係はとても素敵と気づかせてくれる作品だった。

 

 

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