こしのり漫遊記

どうも漫遊の民こしのりです。

人生の転落を招く愛「マノン・レスコー」

 

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マノン・レスコー」はフランスの作家アベ・プレヴォーの長編小説。1731年に発表された。

 

 過去に読んだ何かの本にこれのタイトルが登場したことがあった。よその作家も口にし筆にしたこの作品の名前だけは覚えていて、知っていた。というわけで読んでみたら大変おもしろかった。もう感動した。

 

 内容は、とある良家の坊っちゃんデ・グリュが街で出会った少女マノン・レスコーに恋をし、燃え上がった恋の末にとんだ放蕩生活を送るというもの。マノンへの愛のため、出世街道から外れて身を汚し、デ・グリュは転落の人生を歩む。マノンに贅沢させるために詐欺行為に手を染めて二回も捕まっている。でもちゃっかり脱走してまたマノンとくっつく。悪さをするからマノンはアメリカへと島流しにあい、それを追ってデ・グリュもフランスの地を離れる。アメリカに渡ってもなお一悶着あり、過酷な旅の末にマノンは死んでしまう。愛を旅を終えたデ・グリュはまた家に戻って人生をやり直す。

 以上のことがデ・グリュの口から回想として語られる。偶然デ・グリュに出会った男に語って聞かせるというスタイルが取られた。

 

 このお話、淫蕩に耽って身を持ち崩すという破滅的物語なので決して褒められたものではないのだが、それでも面白い。デ・グリュはものすごく長い間自分の恋の思い出を語っているわけなのだが、そのいちいちで細かな心理描写を行い、情感たっぷり、おまけに熱っぽく語っている。全然退屈せず、一気に読める話だった。

 よろしくない若者の衝動が語られ、どうせ碌なエンドにならないだろうなと予想はついていたのだが、それでも悪魔的な魅力があるため先が気になって仕方なかった。どうせ悲劇になるとは言えども、主人公の二人はどのようにそこへ堕ちて行くのか、それが楽しみだった。野次馬根性的なものが働くのか、人の不幸話なのに読んでいて面白かった。この感覚は、以前読んだ名作「嵐が丘」の時と同じもの。あの本も悪魔的魅力で読者がページを繰るスピードを早めた。

 フランスの本には広く不貞や淫蕩を扱ったものが多い。同じ恋だ愛だでも、禁断性を含むこの手の分野は好みである。

 

 マノンは魔性を秘めた女で、デ・グリュ以外の男も虜にし、そいつらもまた破滅や転落などのなにかしらのダメージを追う。デ・グリュには恋のライバルとなる者も登場する。

 こう見ると、マノンが男を食い物にするクソ女と思われがちだが、全くそうとも言えないところもある。

 マノンは元々修道院に入れられる予定の女だったのだが、根っこからしてそっち方面の女ではなかった。本能として贅沢を好み、貧窮を嫌って恐れるのがマノンだ。だからデ・グリュが金に困れば、もっと金持ちの男のところに行ったこともあった。男からしたら裏切り行為だが、マノンとしてはもっと無邪気なことらしい。そこまで性根が腐った女でもなく、デ・グリュをただ利用しているのでない。愛は確かにあると思える描写もある。マノンには謎の魅力があるため、表面から見えるクソ女要素があっても、嫌いにはなれなかった。

 

 なんにせよ、犯罪に手を染め、八方手を尽くしてマノンの愛を勝ち取ろうとするデ・グリュのガッツは大したものだと思う。これも若さと情熱的愛ゆえに取れるアクションなのだろう。色々なものを投げ捨てでも我が愛をかけることが出来る女がいることは、ある意味幸せなのかもしれない。

 

 とにかく人と人の愛は様々あるらしい。デ・グリュの人生は褒められたものではないけれど、愛に真っすぐな点は良い。

 私は最初そんなことを考えていた。だが、本の後半に記載されている有識人の解説を読むと、男の人生を台無しにしたマノンをクソ女と取れる一方で、金持ちのところに行けて幸せになれたかもしれないマノンを奪い返したデ・グリュこそマノンを不幸にさせた。見方によってはストーカー行為だとも語られていた。確かに、そうも思える。それだけこの話は奥が深いということか。男女のラブはラビリンスなんて言うので、果たして不幸の原因は誰にあったか、そこについては議論しても出口が見えなさそう。

 

 デ・グリュとマノンの二人以外に最初から最後までちょいちょい出てくる関係者がデ・グリュの親友ティベルジュ。ティベルジュもまた印象的人物だった。

 聖職者を目指して真面目に学校で勉強しているティベルジュは、悪道に落ちるデ・グリュに説教を垂れる。ティベルジュの言うことは至極全うなことだが恋は盲目なので、デ・グリュを理屈で説き伏せることは出来ない。デ・グリュはティベルジュの説得に応じないが、友情を頼りにことあるごとにティベルジュを頼る。

 ティベルジュが面倒見良すぎだろうと思う。今日日こんな人間はいない。どこまで堕ちてもデ・グリュに手を差し伸べ、最後など島流し先のアメリカまで彼を迎えにくる。親でも兄弟でもないのにここまでしてくれるティベルジュの無償の愛にもまた注目できる「愛」がテーマの作品だった。彼はいいヤツなんだろうけど、悪い奴に黙らされそう。

 

 そんな訳で大変面白い本だった。

 愛ってのは理屈ではない。淫蕩だの放蕩だの言われても、それもまた愛ゆえのこと。愛があれば人は信じられないことでもやってのける。そうしてデ・グリュとマノンのように激動の人生でも突き進んで行く。そういうことが分かった。

 

マノン・レスコー (光文社古典新訳文庫)

マノン・レスコー (光文社古典新訳文庫)

 

 

 

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