こしのり漫遊記

どうも漫遊の民こしのりです。

最強求めて世界中を武者修行「空手バカ一代」

空手バカ一代」は1973年10月から1974年9月まで放送した全47話のテレビアニメ。

 

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 野中英次の描いた漫画「課長バカ一代」なら知っていたが、こちらの作品はまだチェックしていなかった。

 

 実在した空手家大山倍達(おおやま ますたつ)の人生に基づいたフィクションである。

 原作漫画とアニメではいくつか設定が違っているらしい。アニメでは主人公の名前が大山倍達から飛鳥拳に変わっている。

 

 スポーツマンにはキックの鬼や野球狂なんてのがいるが、本作主人公飛鳥拳は空手のバカ。バカになってどこまでも空手最強を極める飛鳥の人生が綴られる物語には胸が熱くなる。ものすごく古いアニメだけど純粋にアクション作品として面白い。原作が梶原一騎の作品はだいたいおもしろい。

 

 物語は昭和20年8月からスタート。第二次大戦が終わりかけた日本で、飛鳥拳は特攻隊として命の花を散らせる覚悟をする。しかし、発進寸前で飛行機が故障し、飛鳥は死にゆく仲間達を見送って自分の死に場を失う。その後間もなく日本の敗戦が知らされ戦争は終わる。

 第一話冒頭では実写で戦争シーンが流れる。これは貴重な映像だが、こんな恐ろしい時代がその昔にはあったのかと想うと、こうして呑気にブログなんか書いていられる今がある幸せに感謝したくなる。

 毎回のOPアニメ内や本編の随所でも、実際に空手家が空手技を披露する実写映像が流れる。巧みに実写映像を取り入れる演出が印象的な作品だった。

 

 終戦後、生きる目的を失った飛鳥は、一度はヤクザの用心棒にまで身を堕とす。終戦後の焼け野原の池袋では、商人から所場代を巻き上げるヤクザの姿があり、大きな顔で街を闊歩しては民に乱暴を働いたり女郎買いする進駐軍の姿も見られる。進駐軍の残飯の雑煮を一杯5円で売ってる店などもある。戦後のブクロは治安が悪かった。

 物語序盤ではヤクザに土地を追われる貧しい家族を飛鳥が守りきれないことや、正義を掲げるお医者先生がヤクザの暴力を恐れて秘密を漏らすなど、正義が悪に屈する悲惨なシーンが描かれる。

 

 世を儚んで失意の中にある飛鳥は、偶然にも吉川英治作の長編小説「宮本武蔵」を手に取り、それからは取り憑かれたように読み耽って読破する。私もこの作品は内田吐夢監督が手がけた実写映画で楽しんだ。飛鳥が本を読むというのが何か意外だった。

 田舎の小僧だった武蔵少年が最強を求めて突き進む物語に魅せられた飛鳥拳は、彼を心の師としてそれ以降は空手で最強を極める。

 

 ここからがやることなすこと超人的すぎて、ともすればギャグと紙一重の面白展開になる。

 飛鳥は山にこもって空手修行を始め、それが完了するまでは山を降りて人に会う気を起こさないよう片眉を剃り落とす。ストイックすぎる。

 1947年に戦後初の空手大会が開かれ、そこで強者の飛鳥は余裕で優勝する。しかし審査員からは強くても邪道だと言われて評価されない。

 空手大会では組手を行うだけで本気で打ち込んだら反則とされている。てっきり本気で打ち込んで良いものだと素人の私は想っていたが、結構面倒なルールだった。

 

 日本最強になった後の飛鳥は闘牛や熊とも対戦し、その後はアメリカに飛んで武者修行を始める。その後もフランス、ハワイ、タイ、ニュージーランドなど強者を求めて世界中を旅する。プロレス、カポエラ、ボクシング、太極拳など様々な格闘技に自分の空手で対抗する。

 ハワイでは角界を脱してプロレス界に殴り込みをかけた超人力道山が登場する。

 

 飛鳥の修行は、最初の牛と戦う段階から既に命の危険があるのだが、日本でもヤクザの喧嘩に巻き込まれ、外国に行けばマフィアの抗争に巻き込まれ、アメリカでは真珠湾攻撃の恨みを持たれて民間人からもリンチも受ける。

 日本でヤクザに絡まれた時、飛鳥は正当防衛でヤクザを殺してしまう。そんなクソみたいなヤクザも実は妻子持ちで、しばらく飛鳥は償いのために残された妻子の生活を支える。もう色々凄すぎる人生を送っていると想う。

 アメリカ編では日系アメリカ人の苦悩なども描かれ、要所要所で戦争の傷跡が見られるアニメだった。

 飛鳥が参加したプロレスには全て台本があり、そこら辺のことはマフィアの商売となっている。間違って相手に勝ったりしたらそのレスラーは殺されるなど、かなりの闇の商売が行われていた。飛鳥もわざと負けるように脅されるシーンがある。大きいプロレス大会だとこういう闇の勢力が介入して八百長することもあるのかと想うと怖い。マフィアに八百長を強いられていたレスラーのグレート東郷が結構好きだった。

 

 一話から最終話まで、飛鳥拳という男はマジでいつ死んでもおかしくない人生を送っている。これでもかというくらいのアクション要素にそんなスリリング要素もあって退屈しない物語だった。

 

 日本を出る前、飛鳥の唯一の弟子だった有明少年の物語もかなりハードで印象的だった。最後は青春の暴走を起こして命を落とす有明の短い人生の物語には鬱が入る。

 

 空手を続ける中でも資金は必要。日本で空手チャンピオンになりながらも飛鳥は人力車のバイトをし、外国ではトラック運送業者でも働いている。本当にすごい人生だと思う。

 

 ここまで来ると戦闘狂並だと思うが、それでも己の腕を磨くことに迷いのない飛鳥の人生は立派なもの。あれだけ強くてもまだ修行を続ける飛鳥を見れば、昨今のまともに修行もしない内から最強の異世界アニメ主人公は飛鳥を見習った方が良い。と言っても、そんな主人公が楽して最強になる緩いアニメも好きと言えば好きなんだけどね。

 

 あとは声優が豪華。出演者にはもう亡くなった方も多く見られる。懐かしい声だらけだった。飛鳥の行く先々で、皆別人なのに声が北村弘一のキャラがやたら出てくるのがちょっと面白かった。

 

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