こしのり漫遊記

どうも漫遊の民こしのりです。

マクロスでトレンディドラマ「マクロスプラス」

マクロスプラス」は1994年8月25日から1995年6月25日にかけて発表された全4話のOVA作品。

 1995年10月には全4話の総集編に新作カットを加えた劇場作品「マクロスプラス MOVIE EDITION」が公開された。

 

 

マクロスプラス Complete Blu-ray Box (アンコールプレス版)

 

ざっくりな内容

 初代マクロスから30年後の2040年の話。

 移民惑星エデンを主な舞台とし、戦闘機乗りのイサム・ダイソンガルド・ゴア・ボーマン、そしてヒロインのミュン・ファン・ローンの三角関係が描かれる。

 世の流行りは人工知能を搭載したヴァーチャルアイドルにあり、悪の技術者の暗躍によってヴァーチャルアイドル シャロン・アップルを用いた人類侵略行為が展開される。

 イサムとガルドは開発中の二機の可変型戦闘機に搭乗してこれに対抗する。

 

感想

 大変面白かった。

 

 初代マクロスマクロスⅡ以上に三角関係の要素がパワーアップしていた。今回はそれまでの男1、女2の男女比ではなく、男2、女1での三角関係になっている。女が男を取り合うのと男が女を取り合うのではまた話が違ってくる。

 三人は旧知の中で学生時代からの仲良しグループ、しかし7年前に色々あって袂を分かつこととなった。それが大人になってからまた再会して恋の熱が再び燃え上がる。一話の段階で既に色々あった後のことになっているから、その点では他のマクロスと比べて同じ三角関係でも深みが違う。長いこと引っ張った愛はそれだけに複雑。なのでかなりドロドロしたアダルティな三角関係になっている。申し訳ないがマクロスプラスの三角関係を見ると、初代とⅡのがまるでままごとに思えてくるぜ。もはやマクロスでトレンディドラマをしてしまっているから大人にこそウケる設定と展開だと想う。私は三角関係はもちろん、トレンディドラマも大好物。

 

 自由奔放で少年のような心も持つイサム、対してガルドの抱えるものは普通の人とは少し違う。ゼントラーディと地球人のハーフのガルドは、戦闘を求めるゼントラーディならではの衝動を持っている。それを抑制させるために精神を摩耗させる描写は印象的。7年前にはゼントラーディの持つ好戦的衝動がたたってあの事件を起こしてしまい自らの記憶に蓋をする。ガルドが背負う重い過去の設定は興味を引く。

 色々あったガルドを傷つけないためにイサムもミュンも真実は口にしない。ガルドが記憶に蓋をしたことで不利な立場に回るのはイサムなのに、そこは口にしないという男の友情に少し泣ける。

 

 ガルド役の石塚運昇が亡くなった今だからこそしみじみと演技に魅入ってしまう。良い芝居をしていれば、こうして後の世にもそれは残るんだなと想ったら泣けてくる。

 ガルドは本当にミュンのことが好きなんだなとよく分かる。地球に旅立つミュンに言った「俺の命は君を守るためにある」のセリフは石塚運昇史上最も格好良いセリフなのではなかろうか。聞いてドキッとしちゃったな。ポケモンのおまけコーナーで川柳読んだり「ピッピカチュウ!」と言ってスロットを回してたオーキド博士と同じ人が演じてるとは思えない格好良さだった。

 

 イサムとガルドが新型ヴァルキリーの採用試験でマジになって競い、ミュンを奪い合うのにも熱くなるのを見ると青春していると思わずにいられない。大怪我を負った状態のイサムとガルドが病院前で殴り合うシーンは印象的。男達の争いが熱い。

 同時に熱い友情も描いている。二人の乗る白と黒の二機のヴァルキリーが戦うシーンは圧巻。トムとジェリーよろしく「仲良く喧嘩しな」な二人で、生身でも戦闘機でもめっちゃ喧嘩してるけど最後は仲良し。

 イサムのヴァルキリーの銃弾が切れたら、次には銃口を握って銃の柄でガルド機を殴るという演出が好きだった。

 4話では二人のヴァルキリーが空中戦をやってのけるが、その間もずっと口喧嘩しているのは少し微笑ましかった。

 

 ヒロインのミュンは大人っぽく、ヘアモデルみたいな髪型が良い。歌姫になるというかつての夢を捨ててシャロンのプロデューサーをしているが、それにどこか納得いかずにくすぶっている。夢やぶれて擦れたところがあるミュンには、リアルな大人の女性を見もする。そんなミュンが最後には再び歌を口にする展開は良い。

 

 他のキャラではイサムに振り回させる戦闘機設計者のヤン・ノイマンも味わい深いキャラだった。メカマニアで凄腕ハッカーの彼がイサムと出会ってから感情豊かになっていく様が良かった。根暗キャラかと思いきやペナルティ覚悟でイサムと一緒にYF-19に乗り込むガッツを見せた。

 

 イサムのことを好きになるルーシー・マクミランも良い女だった。

 イサムは最初からシャロンの声がミュンの声だと気づいていたという、自分が不利になる情報を恋敵に与えたのは勇ましい。ミュンが地球に旅立つことをイサムに伏せていたことを後になってイサムに告白しに来るあたり、結局素直な女だと分かる。あれこれの恋の画策を実行するには向かないけど正直な良い女だった。

 

 ミラード・ジョンソン大佐がイサムに対して言った「挑戦と無謀を同じポケットに入れて持ち歩くな」のセリフは好きだった。マクロス節だな。

 

 90年代前半にして今で言う初音ミク的な存在のシャロンを描いたのは先駆的。

 ヴァーチャルアイドルなんて歌っていれば可愛いものだけど、シャロンは操作者のミュンの深層心理をそれとなく読み取り、自らの意志でそれを反映させた言動を行うまでになる。

 後半ではシャロンが人の意識を乗っ取り、マクロスまで占領してしまう。

 機械の方が頭が良いので、地恵を与え続けると生みの親の人間をも食ってしまう。テクノロジーの発達が人間の脅威にもなりえると指摘した内容には感心する。

 

 マクロスにしては緑の風景が多いのが印象的だった。

 メインの登場人物三人の思い出の地「星の丘 」を見れば、「君が望む永遠」のあの丘を思い出す。

 森には巨大な怪鳥が出たり、謎の果実があったりしてファンタジー感もあった。

 

 戦闘シーンの迫力がすごすぎる。特にミサイルの描き方には変態的なこだわりがあると分かる。「これが、見るなら木下よりもこっちと言われる板野サーカスかぁ……」と驚嘆する出来だった。

 今ほど発達していなかったCG技術を違和感なく取り入れた手法も良い。

 

 脳波コントロールが可能なガルド機のYF-21、無人戦闘機のゴーストの存在はマクロスシリーズ戦闘機の可能性を広げるものだったと想う。アイデアが詰まっている。

 

 アニメーション、シナリオ共に大変完成度が高いので外国でも評判が良いと聞いた。それにも納得な出来だった。シリーズの振り幅を広げた名作だと想う。

 

 

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