こしのり漫遊記

どうも漫遊の民こしのりです。

美に魅せられ美に死す「ヴェニスに死す」

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ヴェニスに死す」はトーマス・マンによる中編小説。

 

 タイトルのヴェニスは、ヒーリングアニメ「ARIA」の舞台モデルになったところだな。ARIAのようにこちらの小説にもゴンドラが出てくる。

 

 読みやすい良い感じの長さである。しかし、それは長さだけの話で、この分量にしては話が動かない。元ネタが分からないと何のことやらといった神話の内容が含まれ、他にも小難しい表現がある。そして一文がだらだらと長ったらしいので集中できない箇所もある。私が手にした岩波書店版は、理解しやすい、読みやすい、とは言えないものだった。

 

 これがどういう話だったのか詳しく話せと言われたらちょっと困る。それというのが、具体的な楽しい事件が次々起こる物語展開ではなく、主人公の作家アッシェンバッハの美渦巻く精神世界的な内容がほとんどだったから。

 

 ヴェニス旅行でアッシェンバッハは美しき少年タッジオに出会い、その美しさに魅了される。滞在中、アッシェンバッハは毎日タッジオを眺め、後をつけるストーカー的行為まで行うようになる。旅行の目的の全てがタッジオになってしまったその時、ヴェニスコレラが流行っていることが明らかになる。早くヴェニスを脱すればよいものを、アッシェンバッハはタッジオを目にしたいばかりに街を離れることをしない。そうしているうちにコレラはアッシェンバッハの体も蝕み、最後に彼は死んでしまう。

 簡単にお話を辿るとこういった感じ。

 

 読んだ一番の感想はかなり不思議な本だということ。

 ぶっちゃけ、タッジオが登場するまでの序盤の文は何を言ってるのかよく分からくて頭に入ってこなかった。 

 

 アッシェンバッハがタッジオに魅入られてからは心の中で長々と評論を始め、そうして最後には彼の中でタッジオは神格化されてしまう。

 

 おっさんがたかだか10代の少年にどうしてそこまで夢中になるのか。そこら辺が不思議。

 芸術家であるアッシェンバッハは美の追求としてタッジオ少年を追い求めたが、芸術と変態は紙一重ということで、アッシェンバッハが行ったそれは世間的にはストーカー行為であった。

 

 世間的に名前があり、自らを律することが出来た厳格なアッシェンバッハだが、美に魅入られてからはそうも行かない。

 

 冷静に自分を制御できていればストーカーまがいの行動はしないだろうし、この場合ではイコールして死を意味するコレラが迫っていることが分かればヴェニスの地を脱したはず。

 

 結果的にアッシェンバッハは美に飲まれて死ぬ。

 以前「知られざる傑作」という本を読んだことがある。こちらでも美に執着した画家が、美に取り憑かれたまま美と共に身を破滅させる。アッシェンバッハが辿った道にも通ずつものがある。これが芸術家特有の破滅の辿り方なのかと思えた。

 

 とにかく一般人にはない感覚の下での言動だと想う。それでも、アッシェンバッハは、タッジオの魅力に取り憑かれて最後を迎えられて本望だったのではないかと思えた。

 彼のこの人生は、美に生き美に死んだと言えるのではなかろうか。

 

ヴェニスに死す (岩波文庫)

ヴェニスに死す (岩波文庫)

 

 

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