こしのり漫遊記

どうも漫遊の民こしのりです。

荒んだ青春の最後に希望を見る「限りなく透明に近いブルー」

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限りなく透明に近いブルー」は、1976年に発表された村上龍の小説。

 

 村上龍の小説なら数年前に「69 sixty nine」という作品を読んだことがあるだけだった。今回手に取った気になるタイトルのコレの方がずっと前に発表されたもので、なんとデビュー作だったという。

 

限りなく透明に近いブルー」。このタイトルを目にすると「どういうことなのだろうか?」「結局何の色なのか?」と色々気になった。タイトルからは内容がまるで予想出来ない。

 タイトルの響きがなんだか良く、どこかで聞いたことがあるタイトルだったと思い図書館に置いてあるのをちょっくら読んで見た。するとこの内容がなかなかハードで、ちょっくら暇潰しで読むライトなものではなかった。

 

 大分前に読んで記憶が薄れている中でも覚えている「69 sixty nine」の印象は、下品で野蛮ながらもどこかしら若者の生命力が感じられるものであったということ。こちらの「限りなく透明に近いブルー」もその点は少なからず共通する部分があった。

 

 米軍基地がある東京の福生という街を舞台に主人公青年リュウの物語が展開する。仲間達や基地の兵士達と集まってはドラッグと性行為渦巻く狂乱の宴を上げる淫蕩な生活が描かれる。

 

 人生教訓を含む上品でお利口な文学を愛読することを常としている私にとって、「ドラッグ」「性行為」「酒」「タバコ」「暴力」といった人生の堕落や荒廃と繋がる要素が散りばめられたこのお話はかなり過激だった。

 若者の淫蕩生活、荒廃した人生を扱った文学なら「肉体の悪魔」「赤と黒」「目玉の話」「恐るべき子供たち」などに触れたことがあるが、本書はそれらとはまた違ったおかしな感じのする若者の荒れた青春を描いている。

 

 仲間とだべっては生産性のないやり取りを行い、注射で麻薬を打ち、街に出ては他人に暴力や強姦を働く。米軍基地関係者も呼んで乱交パーティーを行い、男が男を犯すシーンも描かれ、後半ではDVのシーンも出てくる。登場人物のやることにとにかく品がなく、出てくる連中は常軌を逸したやばい奴らばかり。

 

 乱交パーティのシーンでは描写が妙に生々しいのでやや吐き気を催すこともあった。「腐ったパイン」をはじめとしたリュウの部屋がいかに汚いかが分かる描写は、綺麗好きの私を不快にさせるものだった。私にこんな思いをさせるだけに作者の描写がリアルだったと評価できる。

 

 派手に遊んでいるようでも、リュウ達のグループメンバーは満足感を得られない鬱屈とした日常を送っているように思える。悩める若い命だからそこは当然と言えばそうとも納得できる。

 そんな荒廃した青春を送ったリュウが本書の最後で目にするのが、自分の血のついたガラス。リュウにはその色がタイトルにもある「限りなく透明に近いブルー」に見え、自分もこのガラスのようになりたいと思って自分を奮い立たせる。破滅に向かって進む物語の最後に、リュウなりの希望の光を見たと取れるとりあえずのバッドエンド回避になっていたと思う。

 

 清く正しく美しくの精神を胸に生きてきた私には、リュウ達のような荒んだ生活はまったく縁がない。ゆえに彼らの行動には共感できないものがあった。作中に登場する各ドラッグの名称も心当たりのないものが多かった。

 それでも語り手であるリュウが何をしていても一歩下がった冷めた目で物事を見つめているのには好感を持った。リュウを含めた登場人物らから人生の学びを得られるようなことはなかったが、全体として生命力を感じる群像劇になっていたのには興味を持った。なので最後までスムーズに読むことが出来た。

 

 社会一般的に考えて「いけないこと」ばかりやってる連中の話だから、読み終わってもこれといった学びはなく、リュウの人生があまりにも自分の人生からかけ離れたものだったので考察もまとめることが出来ない。でも、自分の血のついたガラスに「限りなく透明に近いブルー」を見たリュウが希望を感じたように、私も明日を元気に生きようとは思えた。

 

 デビュー作でこんなとんでもない作風をぶっ放すあたり、作者はなかなかのチャレンジャーだったと言えよう。

 

 一世紀くらい前の古い本を読むことが多い私から言えば、1970年代に世に出た本作はかなり新しい部類だと呼べる。たまには最近の本を読むのも刺激的で良いと思った。

 

新装版 限りなく透明に近いブルー (講談社文庫)

新装版 限りなく透明に近いブルー (講談社文庫)

  • 作者:村上 龍
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2009/04/15
  • メディア: ペーパーバック
 

 

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