アーサー・ミラーによる戯曲作品、それが「セールスマンの死」である。
作品の内容はタイトルが示す通りに、とあるセールスマンが死ぬお話である。
セールスマンのウィリー・ローマンが死を迎えるまでの過程を見ると創作物だからといって無関心でいることは出来ない。
大昔の本なのに現代の日本社会でも十分ありえるような死へのジェットコースターを描いている風刺のきいた深い作品である。
昔は腕利きのセールスマンであったウィリーも今では歳を取り会社では戦力にならない立場となっている。そんな中で家庭生活での様々な支払い問題でまた頭を悩ませることになる。それに更におまけしていい歳して定職に就けない息子2人を抱え、長男のビフとは不和の仲となって親父としは大変寂しい立場に陥っている。
八方塞がりの中、妻リンダの支えがある状態でも心身共に疲れきったウィリーは自殺願望を抱くなど、他にも言動の節々にイカれた様子が見られるようになる。
どこを切り取っても暗い現在のストーリーが展開するのと同時に、ウィリーが夢と希望に満ち、息子ととても仲がよかった過去の栄光の回想とが交錯する。
現代の話の中で唐突に回想が放り込まれるので読んでいて少々混乱した。これが戯曲だからこそ成立する独特な見せ方と言えよう。
とにかく追い込まれた状態のウィリーが可哀想だが、息子のビフの苦しい心理にも焦点が当てられる。この親子不和の問題を第三者目線で追っていくと、どちらもつらい立場なので歯痒い想いになった。
労働と家庭問題とで疲弊しきったウィリーは自ら死を選ぶ。色々な支払いに困っていた家庭だが、最後はウィリーの死亡で手にした保険金を持ってして全ての支払いを完済するという何とも皮肉なエンドであった。
現代でも労働のしすぎ、家庭内問題のストレスで押しつぶされるなどの原因で欝になる社会人はたくさんいる。違う国、時代であっても社会というものがあればこの手の問題はゼロには出来ないのであろう。
私が息をしている今にも世界のどこかで第2、第3のウィリーのような人物が存在しているのかもしれないと思うとぞっとする。
ウィリーが死に追い込まれた厳しい生活環境に落ちる可能性は私にだって十分にありえる。リアルにありえそうだからこそ下手なホラー小説よりも怖い作品だった。
この本で底知れない社会の闇を見た。
そして、ウィリーがセールスマンとして何を売り歩いていたのかは最後までわからない。

アーサー・ミラー〈1〉セールスマンの死 (ハヤカワ演劇文庫)
- 作者: アーサー・ミラー,倉橋健
- 出版社/メーカー: 早川書房
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我が家にもたまにセールスマンとかセールスレディが訪ねて来るが、忙しい身の私はアポ無しの客は絶対に応対しない。
悪いセールスマンもいるので気をつけよう。
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