アーネスト・ヘミングウェイが描く失われた世代の若者達の青春を描いた一作、それが「日はまた昇る」である。
物語がスタートする前のページに
「みんな失われた世代ね、あなたたちは」 ガートルード・スタインの言葉
と表記されている。
実に意味深で印象的すぎる言葉である。
なんのことだろうと思い、この「失われた世代」いうワードを調べてみると、1920年代~1930年台の欧米諸国において第一次世大戦の影響から自堕落になった者達を指すらしい。病んだ時代が人を虚無なものにしてしまったという情熱に欠ける一つの世代であったとわかった。
これになるほどと言える点が、この作品の登場人物達は悠々自適に暮らしているようでどこか物憂い感じを拭いきれない日々を送っているようにも思えたからだ。
舞台は最初はパリで中盤からスペインに移る。
ヘミングウェイの作品といえば「老人と海」を読んだことが記憶に残る。あちらは漁に熱き情熱を注ぐ熱き老人が活き活きと描かれていたのに、本作では元気の無い若者が描かれるので同じ人が描いても随分と雰囲気とテンションが違うなと思った。
主人公ジェークにその友人のコーンとビル、男にモテモテのブレット、ブレットの恋人マイク。このあたりが主要な人物であり、このグループでバカンスに耽って良い身分な生活をしているのを描いている。
昔のトレンディドラマを彷彿とさせるようなグループ交際を展開させていると最初は思うのだが、後ろの方になるとそれぞれの人物がどこか心に傷を負っているような悩み苦しんでいるような感じが漂っている。楽しいバカンスに来て完全に楽しみきれていない感がある。
人物達はやはり悩める世代の人間だとわかる。
群像劇として面白みのある作品でもある。人物同士の会話がテンポ良く行われるのも印象的。
印象的なのはグループの中で紅一点のブレットに皆がメロメロなために引っ張りまわされる展開。ジェークもマイクもビルもコーンも皆ブレットに対して好意的である。
この恋愛に関してはコーンの扱いが酷くて可哀想。コーンはブレットに一目惚れしてブレットに付き纏うのだが、それをマイクやビルやジェークに結構キツイことを言って責められる。皆でスペインの闘牛祭りに遊びに行っても場の空気を乱したことでコーンだけ先に帰ることになる。コーンは前にも面倒臭い女に捕まっているのでずっと可哀想な男だった。
ジェークとブレットの付かず離れずの関係が大人な感じであった。
それにしてもこのブレットの男に対する行動については分からない点がある。次々と男を乗り換えるが幸せになれない。男がいないと仕方ないタイプの女に描かれていた。最後の方でスペインの闘牛士ロメロと駆け落ちしてグループを離れるが、その後面倒臭いことになってロメロと別れて心の寂しさを埋めるようにジェークを呼び出す。何を考えているのかわからない女でもある。
「日はまた昇る」という一見希望的な何かをイメージするタイトルなのに読んでみると夢と希望に乏しい虚無感漂う内容となっている。タイトルに騙された感があった。
ジェーク達この時代の人々の代わり映えしない自堕落な日が続くということで「日はまた昇る」というタイトルなのだと考えられる。
若さを楽しまないのは損であると私は考える。