ホフマン作のサイコホラー小説「砂男」「クレスペル顧問官」「大晦日の夜の冒険」の三篇が収められた一冊を読んだ。この寒い夜を更に寒くするような内容の作品群である。
どれもこれも幻想怪奇な内容となっている。ヒッチコックの映画を見た後のような気持ちになった。
砂男
砂男とは夜に眠らない子供を寝かしつけるためにやってくるバケモノか妖精ともされるとかいうことである。砂をかけて目を瞑らせるらしい。よくある子供をしつけるために大人がこしらえた迷信話の一つ。
主人公の青年ナターナエルは幼い頃にその砂男に怯え、父の元を度々訪れるコッペリウスというおっさんこそ実は砂男ではないかと思うようになる。子供ならそういった作り話を現実に投影して考えることもあるだろうが、成長してもナターナエルは砂男を現実のものと感じている。
話の前半は書簡によるやり取りで描かれ、ナターナエルと友人ロータル、その妹のクララとのやり取りが展開される。
ナターナエルの精神がどんどん病んで行き、彼の現実と妄想とが錯綜した不気味でバイオレンスな雰囲気が漂う不気味な作風であった。妄想に引き込まれて狂人に落ちるか、恋人クララの妄想を散らすごとき正論により人の道に引き戻されるかの結構ギリギリのラインで揺れるナターナエルの精神のシーソーゲームを楽しむことが出来る。結果はあんな残念なことになったけど。
ずっと謎の人物、コッペリウスとコッポラも不気味極まり無い人物に描かれている。
ナターナエルが恋人そっちの気で夢中になった女性型の自動人形もまた幻想的雰囲気を煽るアイテムとなっている。
クレスペル顧問官
語り手である主人公が破天荒な奇人クレスペルの持つ秘密に迫る内容のお話。
クレスペルの変人ぷりが気持ち良い。
クレスペルは設計図無しのやっつけ工事で家を作る、ヴァイオリンの名作でも容赦なく分解する、自分で制作もするなど常人外れた言動を取る。
美しい歌声を持つクレスペルの娘の歌を主人公は何としても聴きたいのだが、クレスペルが絶対に歌わせない。
結構図太い策略家な主人公が娘を歌わせるために色々と仕掛けてくるのに対してクレスペルがちょっと怖い対応をしたりするやり取りは印象的であった。
天才的才能を持ちながらも胸に病を患った娘は歌うことで寿命を減らす状況にある。
娘は最後は死んでしまうが、娘が死ぬ前に見るクレスペルの見る夢か幻かわからない不思議な光景が印象的であった。
これは悲劇だったわけだが、ラストの締めは美しく幕切れていると思える。
大晦日の夜の冒険
これもまたファンタジックにしてかなり怪奇な作品。
影を無くした男の話、胸像を無くした男の話が出てくる。ずっと不気味な感じのお話だった。
火に当たっても影が出来ない、鏡を除いても自分の姿が写らない。生活に困らないようでやっぱり気味が悪い現象である。
美の魔力で男を虜にする魔女のような女が登場する。こういう危ない感じの婦人に男はロマンを感じるもの。良い女にはきっと何か裏がある。気をつけよう。
私も砂男に目を潰されない内に寝よう。