こしのり漫遊記

どうも漫遊の民こしのりです。

子供であったことを忘れてはいけない「飛ぶ教室」

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 ケストナー作の「飛ぶ教室」を読んだ。そういえばこれと同じタイトルの漫画も昔あったな。

 児童文学の名作とされるこの作品を児童と呼ぶには大きくなりすぎたこの私が手に取ったわけだが、これは中々に大人にも響く教訓を盛り込んだ一冊である。

 

 最初はこの作品を書く、作家のことが前書きとして語られる。真夏にクリスマスの物語を書くことになったのだが、暑くて気分が乗らなくて書き物にとっかかるのにグダグダやっている様子が描かれる。自然の多い土地に移って物語を書き始めるのだが、そこで出会った野生の蝶にゴッドフリートと名づけて仲良くやっている様が微笑ましい。

 

 ギムナジウムという寄宿学校を舞台にし、生徒、教員その他も含めた個性的な人物が登場する。

 「飛ぶ教室」はメインの5人の生徒が行う演劇の題名として劇中に登場する。子供のわりに中々レベルの高い演劇をしやがる。弱虫のウーリーとボクサーを目指す腕自慢のマティアスのタイプが真逆の凸凹コンビが好きであった。

 学校での楽しいエピソードがある中で、序盤の盛り上がり場面が他校と決闘する場面である。実業高校にギムナジウムの生徒が人質に取られ、奪還のために決闘することになる。子供ながらに考えての末、総力戦でなく代表者によるタイマンバトルになりマティアスが敵の代表を見事倒すところは手に汗握る展開であった。

 向こうの学校が負けておきながら約束を破って人質の開放を拒否するというクソみたいな態度をとった中、敵のリーダーのみは誠意ある態度をとったのは感心した。

 

 子供たちの御意見番である禁煙さんが味のあるおじさんであった。子供であったことを忘れない大人として描かれている。これが普通に成長していく上で皆守れるかというとそうではないので、物事を素直にクリアに見る子供ならではの視点を大人になっても失わないようにしなければと思える。禁煙さんの俗物根性に毒されない真っ直ぐな生き様には共感できた。

 そして、禁煙さんの親友の正義さんことベーク先生が良き教員、良き大人として描かれているのが印象的。主役の子供たちも個性的で良いが、大人達がまた味のあるキャラとなっている。悪ガキ共のハートをしっかりキャッチしているカリスマ性はすごい。

 子供から見て「良い大人」と子供の内に触れ合うことが大事である。私には恩師と呼べる者が一人もいないので素敵な先生に出会えていれば良かったなと思えた。

 

 マルティンが冬の休暇に実家に帰る交通費がないためクリスマスに学校に居残ることになったのが可哀想すぎた。愛し合う家族がクリスマスを共に出来ない事実について、子供のマルティンは社会が平等でないのが悪いと考え始める。ここのあたりは読んでいて悲しくなった。友達のマティアスには交通費がないという本当のことを言い出せず、適当に話をあわせて嘘をつく場面は胸が痛い。ベーク先生が超良い人で交通費を出してくれて無事マルティンが両親の下へ帰れてよかった。

 

 弱虫を克服したい心の葛藤の末、やり口はアレだったが自らの殻を打ち破ったウーリーの成長劇も良かった。

 

 学生の青春、子供を見守る大人の気持ちも語られて実に爽やかな一冊であった。テンポ良く描かれていてサクサク読めた。

 

飛ぶ教室 (光文社古典新訳文庫)

飛ぶ教室 (光文社古典新訳文庫)

 

 

 しかし、私のように独自の生活リズムで生きる人間には寄宿舎暮らしは絶対無理だと思った。

 

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