こしのり漫遊記

どうも漫遊の民こしのりです。

華麗なる復讐「モンテ・クリスト伯」

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 アレクサンドル・デュマ作の長編小説「モンテ・クリスト伯」を読んだ。フランスの本だけど、これの日本版ドラマが現在放送中らしい。一話も見ていないけど。

 

 我々の世代には「岩窟王」のタイトルの方が親しみがある。10年以上前にこれのアニメが放送していたのを思い出す。

 

 最近は、どうゆうわけか長編小説が読みたい衝動に駆られることがある。そういう訳で長編の名作である本作を手にとったのだ。

 

 

簡単に内容を振り返る

 船乗りのエドモン・ダンテスは順調に出世コースを進み、若くして船長の座を約束される。おまけに美しき恋人メルセデスとの結婚も決まり、完全にリア充生活を送っていた。

 リア充、それは非リア充から疎まれる存在である。そんなわけで、メルセデスに片想いをしているフェルナン、なんとなくエドモンの出世が疎ましいご近所のカドルス、エドモンの同僚のクソ野郎のダングラールの三人が共闘して、エドモンがボナパルト党のスパイだという嘘まみれの密告を政府に対して行う。そしてエドモンはメルセデスとの結婚直前で憲兵に連行されてしまう。

 エドモンが絡んだ事件を担当した検事のヴィルフォールにとって、エドモンが無罪放免なるのは都合が悪いことになる。密告は嘘なのだから、エドモンはさっさと帰ってこられると思いきや、ヴィルフォールは身の保身のために無罪とわかっていながら、エドモンをイフの牢獄にぶち込んでしまう。

 それから二十歳手前だったエドモンは14年も牢獄で生活することになる。

 同じ囚人のファリア司祭から知恵を授かったエドモンは、遂に脱獄に成功する。エドモンは、ファリア司祭が残した遺産が眠るモンテ・クリスト島に向かい、莫大なお宝をゲットする。有り余る富を手にしたエドモンは、それ以降モンテ・クリスト伯爵と名乗り自分から幸福を奪い去って良い想いをしている連中に対して華麗なる復讐を行う。

 

 

感想

 まず、このお話は長ったらしいが、飽きずにずっと面白い。

 誠実な若者エドモン・ダンテスは、真面目に生きて来て何も罪がない。それなのに暗くて汚い土牢に閉じ込められ、運命に絶望し、怒りを覚える。船乗り時代は爽やかな青少年のイメージだったエドモンが、復讐の鬼と化す過程は、マジで可哀想と想ったが、実に劇的ではらはらする展開であった。

 

 結果としてエドモンはモンテ・クリスト伯として復讐を華麗に、且つ完璧に実行し終える。脱獄して復讐を誓ってから、事を無事に終えるまでの過程は、実に緻密に計算された計画の下でゆっくり、そして確実に行われる。普通、復讐といえば、江戸時代とかだったら、闇討ちでグサリと刺しておしまいのところを、このモンテ・クリスト伯はじわじわとゆっくり確実に行う。復讐の鬼でありながら、頭に血が上った状態ではない、冷静な判断と行動の元で行うスタイルが斬新だった。復讐の手口はまさに華麗なるものであった。

 

 モンテ・クリスト伯は素晴らしい計画性と実行力の持ち主で、船乗り以外でも色んなことが出来るハイスペック人間である。まず、すごいのは人身掌握術。対人関係におけるコミュ力はとても高いものである。気の荒いとされる山賊をも仲間に引き入れる交友関係の広さはすごい。そして、変装の名手でもある。ブゾーニ司祭の姿に変身し、復讐を完成させる準備を着々と実行している。普通に仕事とかできる奴で驚きであった。

 

 復讐のを実行する一方で、自分の無実を信じて釈放のために奔走してくれた元雇い主のモレルさんに恩返しをするシーンは良い。脱獄したこともあって身分を隠さないといけないので「船乗りシンドバット」と名乗って、破産に追い込まれたモレル一家を助けるのはおしゃれだなと想った。これには「伊達直人」を名乗って児童施設にランドセルを送る謎の人物が実在した話を思い出した。 

 

 エドモンはとにかく真面目で良い奴。父親を大事にするし、上司にしっかり恩を返す。

 牢獄で出会った、彼が第2の父と慕うファリア司祭とのやり取りは印象的だった。ここでエドモンは、良いと思った価値観や思想はどんどん吸収していくスタイルを見せる。彼が社会にしっかり適応し、若くして出世コースを歩んでいた理由がこのシーンで良く分かる。

 

 エドモンに愛ある男と冷静な復讐の鬼という二面性があるのは、魅力的な人物設定だと想った。

 

 前半は主役であるエドモン目線で物語が展開して行く。長い物語が飽きないのは、シナリオがしっかりしているからであるが、その他の魅力的な登場人物の活躍によるものも大きい。本作はとにかく主人公を取り囲む脇役の人物が良く固めれている。

 貴族達や、船乗り、山賊、脱獄囚などの様々な肩書きを持つ連中が登場し、皆が入り混じってストーリーを盛り上げる。中盤からは、フランスを舞台に多数の人物による群像劇が展開する。中盤~終盤に向けてのストーリーの盛り上がりはかなりのものである。どんどんページをめくるスピードが速くなっていったのを覚えている。

 

 中盤からのヴィルフォール家で起こる毒殺事件と、ヴィルフォール家の娘ヴァランチーヌとマクシミリヤンとの恋の物語が個人的に面白かったところである。

 序盤では良く喋っていたノワルチエが中盤での登場からは、中風によって会話が出来なくなる。孫のヴァランチーヌとは基本的に「そうだ」か「違う」の二択で成立するコミュニケーションを行う。セリフがなくとも存在感を放つノワルチエ老人の登場するシーンは印象的であった。

 

 ダングラール、フェルナン、ヴィルフォールへの復讐を完成させたことによって、モンテ・クリスト伯が好意を寄せる人物に不幸が訪れるという歯痒い展開には感慨深いものがある。

 フェルナンに復讐することで、メルセデスとアルベールの人生は大きく変わってしまい、ヴィルフォールに復讐することで、恩人の息子であるマクシミリヤンを苦しめることになる。このあたりの人間模様はドラマ性があって楽しめた。

 

 華麗なる復讐の末に、モンテ・クリストがマクシミリヤンに残した手紙の言葉「待つこと、そして、希望を待つこと」は読者にも向けられている言葉のようであった。ラストのこれは不思議と後引く……

 

 

モンテ・クリスト伯 (上) (岩波少年文庫 (503))

モンテ・クリスト伯 (上) (岩波少年文庫 (503))

 
モンテ・クリスト伯 (中) (岩波少年文庫 (504))

モンテ・クリスト伯 (中) (岩波少年文庫 (504))

 
モンテ・クリスト伯 (下) (岩波少年文庫 (505))

モンテ・クリスト伯 (下) (岩波少年文庫 (505))

 

 

 待つこと、そして、希望を待つこと

 

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