「にんじん」は1894年に出版されたジュール・ルナールの小説である。
主人公少年は、赤茶けた髪とそばかす顔の二つの特徴から「にんじん」とあだ名されている。
そんなにんじんは家族からもあだ名で呼ばれ、不当な扱いを受けている。
彼の母ルピック夫人はかなりの性悪女で、ストレスのはけ口としてきまぐれににんじんを虐める。父ルピック氏は最低限の世話をするくらいでこれといった愛情を示すことはない。兄のフェリックスも幼いながらに相当ひねているので、にんじんに酷いことをすることがある。姉のエルネスチーヌも基本は母の味方だが、最低限の優しさくらいは何とか持っているくらい。
そんなにんじんの暗い少年時代が淡々と語られる物語であった。
作者ルナールの少年時代を元にして作られてた作品なので、いくらかは実体験が入っているのだろう。
辛い目にあってもにんじん少年は幼いなりに環境に順応していく。芯の強い少年だと分かる。
家族はにんじんに対してでだけなく、全体として愛が冷めた感じがする。
ルピック夫妻の仲も冷めきった感がする。陰湿な母、掴みどころのない変人臭のする父の存在感は、作品を通して薄れることがなかったと想う。
ルピック夫人は本当にクソ女だと想う。本当に底意地が悪い。
ルピック夫人がにんじんのおねしょをスープに入れてにんじん本人に飲ませる話がある。これがひどい。
盲人の爺さんにも冷たく当たることがあったし、老齢の女中オノリーヌを辞めさせるためにセコい策略を打ったのも酷かった。
寄宿学校に入ったにんじんと父のルピック氏による手紙のやり取りを綴った話がある。この時のルピック氏のリアクションが面白い。良き父とは言えないが、ユーモアのある人だと想う。
愛情不足によるストレスのはけ口でそうなったのか、にんじんが残虐行為を行なう場面がある。捕まえたモグラを石に叩きつけて殺す。他にも猫の頭を拳銃でふっ飛ばして、そのまま気絶するというショッキングな話もあった。
最後には愚かな母に反抗するにんじんは成長したと思えた。
にんじんは自己分析し、愚かな家族のことをも冷徹に分析して人間的に成長していく。思えば、愚かとはこういうことと知っておかないと、そういう大人になることを避けて通ることは困難。最終的ににんじんは、心理的に大いに成長したと言える。
少年の思い出が語られ、短編集となっているので読みやすい。児童文学なようで、多分違う。大人になって少年時代を振り返ってこそ感じられるものがあるのだということが何となしに分かる作品であった。
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