こしのり漫遊記

どうも漫遊の民こしのりです。

水の精の悲哀「オンディーヌ」

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「オンディーヌ」は1939年にフランスの作家ジャン・ジロドゥによって書かれた戯曲。

 

 先に世に出たドイツ作家フーケの作品「ウンディーネ」を下敷きにした作品である。

ウンディーネ」をフランス的に言うと「オンディーヌ」らしい。

 

内容

 遍歴の騎士ハンスは、とある森の湖畔近くに暮らす漁師夫婦宅を訪ねる。夫婦の15歳の養女オンディーヌを見たハンスは彼女に一目惚れしてしまい、ベルタという婚約者がありながらもオンディーヌを妻にして王宮に連れて帰る。実は正体が水の精であったオンディーヌは、湖を離れる際に水の精霊王と契約を交わす。それと言うのが、もしもハンスがオンディーヌを裏切るようなことがあればハンスを殺すというものであった。水の精達はハンスの裏切りを始めから予想していて、後にその通りとなる。ハンスは元々の婚約者ベルタに心変わりし、ベルタとの間に子を儲け、結婚式を上げる。

 兼ねてからの契約通り、ハンスは水の精霊の力によって命を奪われる。オンディーヌはハンスの記憶を消された上で湖に引き戻され、人間界との交渉を経ってしまう。

 こうして悲しき物語の幕が降りる。

 

感想

「人魚姫」の話みたく、やはり異種婚姻では幸せな生活を生むことは困難らしい。

 

 初めてハンスを見たオンディーヌは、男に対してなのに「きれい」と言う。これは印象的だった。綺麗に男女は関係ない。私だってドラマ「白線流し」でTOKIOの長瀬君を初めて見た時は綺麗と思ったものだ。

 

 オンディーヌの純粋無垢にして天衣無縫なキャラクター性は読んでいて爽快であった。漁師の嫁がハンスに茹でた鱒を出すと、オンディーヌが窓からそれを投げ捨てるのはいただけないと思ったけどね。これを読んで鱒が食いたくなった。

 一介の娘が騎士様に対して物怖じせずにグイグイくるし、王宮に行ってからも貴婦人たる慎みをまるで覚えない。オンディーヌは実に自然な振る舞いを行っている。オンディーヌが侍従からマナー講習を受ける時などはコミカルなセリフ運びが目立った。人間界でのオンディーヌの異質さをコミカルに描く点は楽しい。

 ベルタをディスって噛み付くオンディーヌが面白い。

 しかし、楽しいのはそこまでで、オンディーヌのそんな振る舞いに嫌気が指したハンスはベルタに心変わりする。このベルタも実は出生が漁師の子ということがあとで分かり、結構な設定が組み込まれている。

 ハンス、オンディーヌ、ベルタの三角関係が形成され、中盤ではちょっとドロッってくる。

  

 最後にハンスの記憶を消されたオンディーヌが、再びハンスを見ても「きれい」と評価したことにはオンディーヌの変わらぬ愛を感じてマジで悲しくなった。喜劇調で進む場面もあったが、バッドエンド。

 

オンディーヌ (光文社古典新訳文庫)

オンディーヌ (光文社古典新訳文庫)

 

 

 叶わぬ恋だが、それもまた美しいと思える一作であった。

 

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