こしのり漫遊記

どうも漫遊の民こしのりです。

完結まで40年「劇場版 はいからさんが通る」

 テレビアニメ版では見事なまでに未完結だったあの「はいからさんが通る」が劇場版アニメでやっと完結した。劇場版は前後編に分けて上映された。

 

 2017年11月に「劇場版 はいからさんが通る 前編 〜紅緒、花の17歳〜

 2018年10月に「劇場版 はいからさんが通る 後編 〜花の東京大ロマン〜」が公開された。

 

劇場版はいからさんが通る 前編~紅緒、花の17歳~ 通常版 [Blu-ray]

 

 原作を知らないけれどラストを関東大震災に落とし込む展開のみは聞いていた。

 こちらの劇場版で無事大団円を迎えられて良かった。

 

 劇場版後編の開始30分くらいの所がテレビアニメの最終回にあたる。それ以後はアニメで描かれるのが初。後編は特に緊張して見たぜ。

 テレビアニメが42話もあったのを劇場版だと2時間くらいで描いているからどうしてもぎゅっとコンパクトになってしまう。

 

 飛行船でミハイロフ夫妻が日本に亡命して来た後のことがアニメで初めて描かれる。

 忍が生きていたことが分かって紅緒は喜ぶが、忍の方では命の恩人のラリサを捨て置いて紅緒の元に帰ることが出来ない。その間にも青江編集長と紅緒の恋が進む。

 当時は結核が不治の病。結核に蝕まれるラリサを放っておくことは確かにできない。忍の辛い思いはちょっと分かる。もどかしい恋愛模様が楽しい後編だった。

 

 まさか紅緒が編集長と結婚を決意するとは思わなかった。しかしこの青江編集長、ただのイケメンではなく、マジで優しい良い男だと想う。おまけに紅緒にとっては良い上司。編集長のママがエロかったなぁ。

 このまま編集長と結婚して話がゴールなのかとマジで思ってしまった。結婚式で紅緒が指輪をつける瞬間に大地震が起きたのにはなんてタイミングだと思った。

 

 地震で死ぬかと思った瞬間、紅緒が唱えた名前が編集長でなく伊集院少尉だったのが良かった。やはり恋の相手は忍で決まりだった。

 助かった後に編集長と忍が殴り合って漢のコミュニケーションを交わすシーンも熱かった。

 激動の大正時代を駆け抜けてラストは紅緒と忍が一緒になれてよかった。二人のキスシーンが尊く、そして美しい。エンディングでは紅緒の子供も産まれていて良かった。

 

 紅緒の恋を描く一方で、親友環の恋も描かれていた。環は蘭丸とくっつくのかと思ったが、日本に帰ってきた鬼島軍曹に熱を上げていた。お嬢様の環から見て半裸で庭師の仕事をしているワイドル軍曹はかなり眩しく見えたはず。この二人も相当好きになった。

 平塚らいてうになぞって新婦人の精神を開拓する環は、自分は男に選ばれるお姫様ではない、こちらが男を選ぶと唱える。女性が大きく飛躍したこの時代の強き女として紅緒同様、環もそう描かれていた。ええ女や。

 鬼島軍曹もかなりの男前。バラのトゲで指を切った環を見た鬼島は、環の指を加えて血を吸い出す。あの王子様アクションはこの時代からあったのか。で、二回目にバラを渡す時にはトゲを抜いてくれるという気が回るところも見せたのが鬼島だった。ええ男。

 鬼島のキャラデザはガッチャマンコンドルのジョーをヒントにしているらしい。ジョーて血の気豊富だったよなと思い出す。

 ラストで環は鬼島を追って満州に飛ぶ。お嬢様にしてはアグレッシブだった。

 

 紅緒に思いを寄せる忍、蘭丸、鬼島、青江の4人の男キャラはどれも女性受けするツボを押さえている。良き男性キャラ各種お取り揃えアニメだった。

 

 史実を絡めたラブロマンスのフィクション作なので、歴史的事件が登場すると感慨深い思いに打たれる。

 シベリア出兵の事件はやはり恐ろしいし、後半で描かれる大正12年関東大震災は凄惨すぎた。話には聞いていたけど、関東大震災ってこんなにやばいのか。まるで地獄絵図のごとく東京の街が塵芥へと化して行った。これはショック過ぎる。

 鬼島軍曹が「これが東京かよ!」とコメントしたのにも納得。印象的なセリフだった。

 どうせ助からない命なら、これが起きる直前に亡くなったラリサにはせめてもの救いだったかもしれないと思った。

 

 絵柄が今どき風に代わり、紅緒がもっと可愛くなっていた。やはり最新アニメーションは美しい。先日見たテレビ版BD-BOXと比べるとダンチ(段違い)だった。

 

 劇場版では声優を一新している。早見沙織が演じる新しい紅緒も良かった。強く逞しい女の芝居はもちろん、酒に酔って出来上がった紅緒の演技も良かった。

 劇場版で蘭丸を演じたのが梶裕貴なのは意外だった。少年声の女性声優がやると思っていたが、まさか梶くんとは……。それにしても梶くんの音域が広い。男の娘キャラを見事演じていた。しかし、70年代に男の娘キャラとは、新たな萌えだったかもしれない。 

 声優がほとんど交代する中、花村家のばあや役の鈴木れい子はテレビ版から続投していた。オーディオコメンタリーでは40年前の収録について彼女が語ったことがあると、早見沙織の口から告げられた。時代ものだなぁコレも。

 紅緒の父役はテレビ版では永井一郎が演じ、劇場版前編では石塚運昇が演じた。後編の時には運昇さんが亡くなり、銀河万丈に交代している。新作が出来るまでの40年の間に亡くなったテレビ版の声優の方もいる中、前編と後編の一年の間にも亡くなった方が出てきた。これは寂しい。

 テレビ版同様、劇場版も声優が豪華で良かった。

 

 劇場版のナレーションとしてテレビ版の紅緒を演じたよこざわけい子、忍を演じた森功至が出演している。元気に業界に残ってくれていることに感謝だな。

 

 オーディオコメンタリーを聞くと色々と勉強になる。なにせ最近の人間の私は大正のことを詳しく知らない。オーディオコメンタリーでは大正時代についての解説も聴けた。

 紅緒や環は女学校に通っているが、あれは選ばれた一部のお嬢様くらいしか行けない時代だったという。女子が新聞なんて読んでると嫁入りが遅れるとか言われていたとか。なので、勉強してる女は生意気と男に思われることもあったらしい。職業婦人など目指すのでなく、さっさと家庭に入って専業主婦、というのが多数派の時代だったみたい。

 アニメ本編でも紅緒が事件を取材に行けば、他の男性記者から女がしゃしゃんな的な毒を吐かれるし、青江編集長や伊集院公爵は分かりやすく男尊女卑を掲げた言動を取る。大正はそういう時代だったと分かる。風刺がかった作風だった。

 

 紅緒は本編内で様々な衣装を身にまとっている。着物が主流の大正の早い段階で紅緒は洋服を着ている。当時は婦人服店なんてのも普及していなくて、洋服が一般に出回るようになったのは関東大震災後だったと言う。それよりも前に洋服を求めるなら、オーダーメイドだったらしい。なので紅緒は流行りの最先端を行くお嬢様ということ。当時から自転車に乗っていることからも良い家の出だと分かる。今ではそこら中に乗り捨てられてる自転車もこの時分には高級品だったのだな。感慨深い。

 

 

 そんなこんなで勉強も出来る大ロマンス作だった。

 

 

 

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