こしのり漫遊記

どうも漫遊の民こしのりです。

トラウマの中で正義の在り処を探す「無敵超人ザンボット3」

無敵超人ザンボット3」は 1977年10月から1978年3月にかけて放送された全23話のテレビアニメ。

 

 ザンボット3と言えば、スーパーロボット大戦でおなじみのスーパーロボット。ムーンアタックが強いので重宝するキャラでもある。

 敵メカのバンドッグのバンドッグ砲は強力なマップ兵器で嫌いだった。ブッチャーというふざけた男が乗り回していながらもバンドッグは強く固く、撃退に苦労した相手だった。

 メカ・ブースト ガビタンのデザインは好きだったけど、ゲームでもアニメ同様二段变化し、二回倒さないといけないので厄介な相手だったと思い出す。

 

 そんな思い出がある本作、今回初めての視聴となったが、話に聞いたところかなりの鬱要素があるヘビーな作風だとか。どんなものかと楽しみに視聴すると、こいつは確かに噂に違わぬヘビーなアニメだった。23話しかない割には濃密な内容だった。

 なかなか考えさせられる深いメッセージを視聴者に向けて放った内容には感心する。

 

 これは見れば人に語りたくなるアニメだなと想う。なので語ろう。

 

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内容

 その昔、平和なビアル惑星は宇宙人ガイゾックの攻撃を受けて壊滅した。

 ピンチのビアル星を脱出した一部のビアル星人は地球に移住した。それが物語がスタートする150年程前の江戸時代のお話で、現代になってガイゾックは侵略惑星を地球に選んで攻撃を仕掛けてきた。

 ビアル星人の末裔とされる神一族は、先祖が残した三つの船と三体のメカを復活させる。三つの船は合体してキング・ビアルとなり、ザンバード、ザンブル、ザンベースの三体のメカは合体して巨大ロボットザンボット3になる。

 先祖が残した遺産の力を用い、神ファミリーは協力してガイゾックが送り込む破壊兵器メカ・ブーストに対抗する。

 

感想

 まず、頭部に三日月を戴くザンボット3のデザインが格好良い。必殺のムーンアタックの原理が謎だよなぁ。

 

 主人公神勝平の声が懐かしの大山のぶ代というのが印象的だった。粗野でガサツな少年を演じるには良い声だった。大山氏独特のだみ声はうるさいのだけど不快なことは全くない。むしろ好きになる稀有なお声だった。

 

 勝平の愛犬千代錦もザンバードに乗り込むのは面白い。千代錦という関取みたいな名前も良い。

 

 恵子が金髪ロングで可愛らしいのだが、その妹は「どうしたの?」というくらい似ていなかった。

 

 このアニメのきついところは、地球防衛のために身を削った神ファミリーが住民から感謝されず、むしろ憎まれるという点。

 

 事情がよく分からない住民達は、神ファミリーこそが、ガイゾックを引き寄せて街をめちゃめちゃにした原因と考え、ものすごく恨み言を言われる。

 地球まるごと侵略するのがガイゾックの目的なので、神ファミリーの有無に関わらず街はボコボコにされる。だったら皆で協力して戦うしかないのだが、民衆は神ファミリーに地球から出ていけと言って迫害する。ヤバい敵が地球を狙っているのに、地球人側は協力するどころか仲間割れをしている、それどころではないと思える。

 

 住民が、戦うなら自分たちが避難した場所から離れてやれとか、街を壊さないようにもっと考えろなど勝手なことを言う。かと言って勝平が戦闘を拒否すれば、喧嘩仲間の香月はそれは敵前逃亡だと責める。人々の言い分も分かるけど、勝手だなとも思える。頑張っている勝平達が報われないのは可哀想。

 

 恵子が郷帰りした回では、やはり神ファミリーのせいで迷惑したとかつての友人達から責められる。勝平も好いた相手のアキに恨まれる。

 戦争によって人の分別が失われ、友情や愛情も壊れて行く過程が描かれているこの点は素直に怖い。

 まだ幼い勝平達ザンボット3パイロットが、あそこまで言われてまだ戦闘に向き合えるのはすごい精神力だと想う。やんちゃなガキに見えても勝平の精神はかなり鍛えられている。これもビアル星人の遺産である睡眠学習の効果の現れなのかもしれない。

 

 ザンボット3とメカ・ブーストの戦闘の中で香月が家族と離れ離れになったり、アキが駿河湾近隣から遠くの北海道まで疎開すること、避難民キャンプが描かれるなど、住民達の食らったダメージや避難の描写を他のロボットアニメよりも濃く行っていたのが印象的だった。戦闘員以外の事情を詳しく描くことでより戦争の恐ろしさが分かるようになっている。

 

 戦闘時に街を壊し、それによって人を死なすこと。ウルトラマンなどをはじめとした巨大ヒーローが止む無くやってしまっているであろうタブーに突っ込んだこの作風はえぐい。この点で言えば、街の被害を抑えるために空間湾曲を行う巨大ヒーロー「ガオガイガー」のアイデアはタブーを見事回避していると感心出来る。

 

 キャラの絵柄は割りかしポップで、これでシリアスな物語を行うとは考えにくかった。

 それは敵のガイゾック側でもそうで、司令官のキラーザ・ブッチャーは緑色をしたハクション大魔王のような、敵にしてはコミカルな見た目をしていた。部下にお仕置きするノリなんかはドロンボー一味のそれみたいで、ギャグ要素も秘めたキャラだった。

 ブッチャーは娯楽精神に溢れた異星人で、温泉、酒、バンド、パチンコ、マッサージ椅子などを嗜んでいる。これと同じように、使命としての地球人抹殺だってまるで娯楽の一つのように楽しんで行う。

 風船をつけた人間を高い所に浮かせ、それで射的を楽しみ、風船を割られた人間は落下して死ぬという死のゲームを考案し、後半には作中きってのトラウマとなる作戦「人間爆弾」をやってのける。

 

 この人間爆弾については、かつてプレイした「第4次スーパーロボット大戦」で既に知っていた。スーファミソフトなのでアニメーションもボイスも抜きのテキストのみでの表現だったが、それでも十分にびっくりな内容でやや鬱になるものだった。アニメで見ると改めて恐ろしいエピソードだった。


 人間爆弾作戦は、捕まえた人間に爆弾を仕込み、記憶を消した状態でまた野に放ち、仲間のところに帰ったタイミングで爆破させるというものである。これによって、メカ・ブーストで出向かなくても方々で一気に人間を消すことが可能になる。ブッチャーの方でもメカ・ブーストを送るよりも楽と評価していた。自らの手を汚さず、まるでゲーム感覚で殺戮するのがかなりえぐい。

 

 爆弾を埋め込まれた人間は手術された記憶がないけど、背中に手術跡が残るので第三者には判別出来る。

 人間爆弾になった香月の友人の浜本君の死がトラウマすぎた。

 爆弾を取り除くことは出来ず、浜本はいつ爆破するか分からないから仲間から離れて一人で死のうとする。心配する勝平達に向かって「最後くらい格好つけさせろ」と言って立ち去る浜本だが、両親に先立たれ、誰にも看取られず一人で死ぬのが怖いと爆発前になって気づくと「一人で死にたくない、怖い」と叫ぶ。一度は覚悟を決めたけど怖くなって勝平達の元に帰ろうとするが、その途中で爆発してしまう。

 こういうのって「ふしぎの海のナディア」のフェイトさんにも見られたけど、仲間に迷惑がかかるから一人で死ぬと覚悟を決めても、いざその時が近づくと生に執着するのが人の素直な感情だからあのように喚いてしまい、格好をつけられずに終わる。

 最後まで格好をつけることが出来ずに泣いて喚いた浜本の言動こそが、悲しいけど人情なのだろうと思えた。このシーンは本当に怖くて考えさせられる。私もマジで生きたい、死にたくないと日々思っている。

 

 もうひとつ可哀想なのは、勝平にとってのメインヒロイン アキの死。

 勝平が友人のアキとミチをまとめて「ブスペア」と呼んでいるのは酷いが、なんだかんだで勝平は二人に優しく、アキには惚れていた。

 ガイゾックに捕虜にされたアキを助けるのだが、時既に遅しでアキにはもう爆弾が埋め込まれていた。

 勝平は助けたアキをキング・ビアルの自室に招いて自分のパジャマを貸し、ずっとここにいろよと言う。そうして好いた者同士の甘い一時を過ごすのだが、遂にはその時が来て艦内でアキは無残にも爆死してしまう。  

 アキに貸したパジャマの切れ端が爆風で飛び、それを手にした勝平はアキの死を受け入れて泣く。これはトラウマ過ぎる。

 アキが爆死して使い物にならなくなったブロックをキング・ビアルから取り除いて海に沈める時、勝平はミチに「あれがアキが死んで行った部屋だ……」と言う。可哀想すぎてこの回を見た夜は寝れなかった。

 

 他にも、バンドッグの中で人間爆弾の手術を待つおっさんが「もう一度お天道様が見たい」と言って開放を願うのも痛々しかった。

 この「人間爆弾」のエピソードについては、なぜここまで悲惨な話をやろうと思ったのか……と考えてしまう。

 

 後半は更に壮絶な戦いが連続し、神ファミリーの者達も次々と命を落とす。押し寄せる悲しみの中であれだけ強気の勝平が泣いてばかりだった。

 最終戦は宇宙に持ち込まれ、神ファミリーとガイゾックとの全面対決が展開される。

 

イデオン」でも見られた富野監督の皆殺し手法がここにもあった。最終戦前に女子供は地球に逃したが、残りの戦場に出た者は勝平を覗いて全員死んでしまう。ザンボットパイロットの恵子と宇宙太まで敵に突撃して死んでしまう。

 

 最終戦の中で、神ファミリーが善行として行ったはずの戦いの是非を問う流れになる。

 

 死にゆくブッチャーが神ファミリーに語りかけた内容が、誰に頼まれて戦ったのか、地球の者たちがそれを望んだのか、と言うものだった。勝平は何が何でも自分たちの星を守るためと言って押し切る。

 そしてブッチャーの更に奥にいるガイゾックの根源へと迫っていく。バンドックの奥には、脳みそのような不気味な化け物がいて、そいつはガイゾック星人が作ったコンピュータプログラムだった。そいつの役割は、悪しき生命を見つけて駆逐すること。大昔のビアル星人同様、現在の地球人も駆逐対象に引っかかったのだ。

 

 向こうの理屈はというと、同じ星の者同士で憎み合い、争い、末には同族を殺してしまう地球人が善い生命なはずがないというものだった。人類が悪と信じたガイゾックは、宇宙平和のために害虫駆除をしていたことになる。そして地球人が日々争うのは、本作放送当時から今日になっても確かな事実だ。では、神ファミリーの正義とは何だったのか、またガイゾックが正義でこちらが悪なのか、こんなことを言われるときっと誰しもが混乱するだろう。

 

 ガイゾックは全ての種明かしをした上で、勝平に向かってそもそも地球なんて守る価値があったのか、それも大事な家族を死なせてまで。地球のために戦った自分を、地球の人達は必要としてくれるのか、受け入れてくれるのかと問う。

 正義の在り処がどこか混乱した中でも勝平は、地球にも良い人はいる、自分の戦いは間違ったものではないと言い切る。

 

 最後の戦いを終えた勝平はザンボエースで地球の海に落ちる。

 ラストシーンでは、かつて神ファミリーを迫害した人々を含めた皆が疲弊しきった勝平を勇者の帰還のごとく歓迎してくれる。

 最後のシーンが神ファミリーの戦いが報われた証となった。

 

 

 このアニメにはとても考えさせられる。

 作中に登場する神ファミリーとガイゾックの二つの勢力は、分かりやすく正義と悪に分類出来るものではなく、元を辿れば両方が頷ける理屈で正義を執行しいてる。どちらの事情も分かるが、それでもどちらかを消さないと終わらない争いを描いていた。

 

 最後には、それまで正義とされていた視聴者も含めた人類にこそ非があるとガイゾックから語られる。最終回には人類の愚かさを皮肉ったどんでん返しがあり、それが人の事実なのだから奥深いと思える。

  

 すごいトラウマと人生観を作品に盛り込んだことで、メッセージ性の強い一作になった。この作風をアニメ界に持ち込んだ作り手達は大した仕掛人だと想う。

 

 それにしても、格好良いロボットアニメと家族の絆を描いたファミリーアニメの要素を持ちながら内容が全然お子様向けではなかった。成人してから見た方が良い。

 

 そんな訳で忘れられないロボットアニメが「無敵超人ザンボット3」だった。

 

 

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