こしのり漫遊記

どうも漫遊の民こしのりです。

ブラックユーモア渦巻く三角関係「ご遺体」

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「ご遺体」はイーヴリン・ウォーの中編小説。

 

 ペット葬儀社で働く青年デニス、大きな霊園で働く女性エイメ、その上司ジョイボーイの三角関係を主軸にしながら、商業的に大きくなって行く葬儀業界や当時の社会、宗教などを皮肉的に風刺した意欲作。

 ブラックユーモアという触れ込みだが笑えることはない。皮肉り方はかなり冷たいもので、登場キャラクターにも愛着がわかず、主人公のデニスなどは何を考えているのかイマイチわかりづらい。社会や女性を小馬鹿にしている感じがして好きにはなれない。しかし、お話としては展開がスピーディーで面白く、サクサク読めて良かった。

 

 まず最初に老齢のフランシスという男に焦点が当てられる。彼は早々に物語からフェードアウトすることになる。映画撮影会社で働くフランシスは色々あってリストラの憂き目に合い、首をくくってあの世に行ってしまう。フランシスの友人だったデニスが葬儀の依頼に行った先でエイメと出会い、そして仲を深めて行くことになる。

 老齢のフランシスが過ぎ去った人生の栄光を懐かしむようなシーンが印象的だった。これまで頑張って来ても、歳を食えば会社に居場所がなくなるという社会の儚さが分かる。

 

 デニスは「幸福の谷」というペット葬儀社で働いている。大昔からこの手の会社があったんだという気づきが得られた。メインの仕事は動物の死体を焼くことだが、死んでから何周年と区切りを打って飼い主にカードを送るのも業務になっている。そこにはペットからのメッセージ風の陳腐な内容が書かれている。なんだろうこの小馬鹿にされた感じはと思ってしまう。これをもらって飼い主は嬉しいのかとも想う。

 

 エイメは無駄に規模が広くてエンターテイメント感も見られる霊園の「囁きの園」に務めている。

 最初こそハキハキ喋ってしっかり仕事を行う出来た女性に見えたエイメだが、後半はそうでもなくなってくる。デニスとジョイボーイに翻弄され、デニスとの婚約を解消しその後はジョイボーイの元にいったりと、意外にも心が決まらずフラフラしている。デニスが彼女の給料を当てにして結婚後の飯を食うことを考えていた点には女性なら引くかもしれない。詩人を気取っているが、人の詩をパクってエイメに送ったり、基本的にエイメをバカにしたような態度を取る後半のデニスはなんだか詐欺師ぽく見えてくる。

 

 デニスがまともな男ではないと分かる一方で、ジョイボーイも変なヤツに描かれている。結構ケチだし、変な母親がいてマザコンなところも女性受けはしない。しかし、死体に化粧を施す腕は一級品らしい。悲惨な死を迎えた死体でも、穏やかな表情へと変身させるのがジョイボーイの技である。この技を使ってのエイメへのアプローチが異質なものだった。エイメがデニスと一旦は婚約したことで、それまでジョイボーイがエイメの下に送る死体の表情が明るかったのが暗いものに変わる。死体を使って自分の気持ちを現しているこのやり取りが不道徳だが、小説としては良いアイデアだった。

 

 三角関係を密かにアシスト、というか邪魔もしていたようなもうひとつの存在がある。それが導師バラモン。こいつが何者なのかというと、そういう名前の地方紙のお悩み相談コラムコーナーなのである。正体はおっさんで、導師なんて徳のある者ではない。エイメはここに投函してデニスとジョイボーイのどちらとくっつくべきかの恋のお悩み相談をしていた。こんな地方紙のコーナーに相談するのもどうかしている。しかも結構適当というか、投げやりな返答が返ってくる。

 

 こじれた関係に追い詰められた末、エイメは自殺してしまう。それを最後は、動物の死体を焼くのが仕事のデニスが焼いて話が終わる。エイメの死に別段悲しんだ様子もなく、デニスが冷たい男だなと思った。

 

 突き放すような冷たい皮肉のこもったもので、登場人物にも語りにも温かみが感じなかった。作者が徹底して世をディスっていたことが文章にも反映されているようだった。

 ペット葬儀社という珍しい業者のお仕事が分かるのが印象的な一作だった。

 

ご遺体 (光文社古典新訳文庫)

ご遺体 (光文社古典新訳文庫)

 

 

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