こしのり漫遊記

どうも漫遊の民こしのりです。

くそ青いのが良い「空の青さを知る人よ」

「空の青さを知る人よ」は、2019年10月11日に公開された劇場アニメ。

 

「あのはな」「ここさけ」に次ぐ超平和バスターズ原作の秩父三部作の最終作である。あのはな、ここさけを手掛けた軍団の作品とあらばとにかく見なければということで楽しく拝見した。

 

 美麗に描かれる秩父の背景画は大変美しい。これだけ秩父作品が連投されるのを見続けると、一度も行ったことがないのに勝手知ったるおなじみの郷といった感覚になる。オタク的には大変愛着湧く土地となった。

 

 青春、恋愛、そして荒唐無稽な面白要素を上手いこと合わせた良き娯楽作品になっていた。key作品で大きくなってきた私としてはこの手の要素が複合した作品は好物である。

 所々にくすりと笑える小ネタやギャグを挟むキャラ同士のやりとりもコミカルで良かった。そして本作ツインヒロインとなる相生姉妹が可愛い。

 

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 作中初のキャラセリフが、ヒロインの相生あおいの「くちゅん」という可愛いくしゃみ。これは可愛い導入でナイスだった。目つきと口が悪いけどあおいの可愛さがたっぷり伝えられる青春物語が楽しい。

 

 高校生のあおいの進路希望は東京でバンドをやるというロックなもので、次に進路面談にやって来る生徒の大滝千佳の希望がお嫁さんという対照的なものだった。二人の希望を軽い感じで流す担任教師とのやり取りが面白い。ベーシストだけど他のバンドに入らず一匹狼でやっていくあおいのクールスタイルが良い。軽いギャルのノリで来る千佳のことを「股ゆる女」と呼ぶあおいの口の悪さもなかなかのもの。

 

 幼い頃に自分がベーシストになることを応援してくれた「しんの」こと金室慎之介の言葉を受けて頑張る点は素直で良い。あおいとしんのの共通点である目の中にホクロがある要素が印象的。目の中にホクロがあれば大物になれるというしんのの迷信を通称「目玉スター」と言い、これがなんか楽しくて可愛いワードだと思える。

 目の中にもホクロが出来ることを初めて知った。そんな人間を見たことがない。

 

 あおいの良く出来た姉のあかねも推せるヒロインだった。市役所で働く31歳の落ち着いたお姉さんである。ええ女感がかなり匂っている。

 

 あおいとあかねの姉妹二人の愛を描く展開が好きで癒やされる。互いが互いを大事に思っていることがよく描かれている。

 

 回想でも現代でもあかねが妹の好きな昆布おにぎりを握るエピソードが良い。しんのがツナマヨをオーダーしても妹優先でやはり昆布を握ってくる優しいお姉さん感がたまらん。揚げ物が得意なお姉ちゃんという特性も良く、作中では美味そうなメンチカツを揚げている。メンチカツって色々面倒なんだよな。それを家庭で揚げてくれる姉の存在はありがたい。

 後半で登場する伝説のアイテム「あおい攻略ノート」のエピソードには泣ける。幼い妹のために一生懸命頑張って姉の仕事をこなそうとする努力が見られたのが良い。

 

 仲良し姉妹は男の趣味まで似ているのが特徴的。あかねは現在の31歳のしんのと、あおいは18歳のしんのと関わり恋愛展開に入っていく。姉妹揃って同じ男と青春を送ることになるこの仕掛が不思議。三角関係のようで、実は4人いて、男の方は同一人物でという珍しい人間関係となっている。

 

 街から姿を消して生死も謎になっていたしんのが、子供の頃の姿であおいのギター練習小屋に出てくる序盤シーンを見た時、「あのはな」の前例から考えて絶対に幽霊だと思った。しかし遅れて31歳のしんのが出てきて安心した。今回の不思議な現象は生霊という扱いになっている。あおいが多分ウィキペディアと思われるサイトで「生霊」と引いて調べているシーンは記憶に残る。

 

 二人のしんのが同じ時代に存在する設定はSF的、オカルト的な非現実的な要素だが、その中でリアル性も伝えているのが特徴的。

 未来に対して希望たっぷりだった18歳のしんのが、自分の希望とは違う成長を遂げた31歳のしんのに失望する展開を見ると、夢と現実が必ずしも一致しないという社会の厳しい真実性が見て取れる。

 本当に31歳の人間が本作を見ると、18歳のしんのの言葉が胸に刺さったりするのではなかろうか。

 

 街を飛び出してプロミュージシャンになってとりあえずシングルを一枚出したら田舎の昔の女の所に戻る。そんなしんのの進路を見ると「CLANNAD」の芳野さんぽい人生に見えた。

 

 過去世界の18歳のしんのがあおいにジャンプを買ってきてと頼んだ時、あおいの口から「こち亀」は終わったことを知らされてショックを受けるシーンがある。しんのが驚くのも無理はない。13年前にこち亀が終わる時が来るだなんて誰が想像出来ただろうか。13年も経てばジャンプ看板キャラの顔ぶれも変わってくるよなとしみじみと思えた。ここはオタク的に色々考えさせられる小ネタシーンとなった。

 

 しんのは演歌歌手のバッグバンドとしてツアーを周り、その過程で秩父に帰ってくる。しんの達をバッグに置いて歌う演歌歌手の新渡戸団吉がなかなかの曲者ネタキャラで面白い。松平健が演じているので声だけは無駄に良いが、どうも言動が詐欺師臭くて気になるキャラだった。

 地元民と触れ合い、地元グルメを堪能して地域密着取材をしないと良いコンサートは出来ないというそれっぽい理屈をこねて普通に遊んでいるだけの新渡戸の日常が笑える。かき氷を全種類食べ比べて1万5千円使ったりしてるし、それらの活動費は市役所持ちになっている。秩父市の住民に怒られるだろうと思った。市役所のお仕事事情も見えるものだった。

 新渡戸の仲間のスタッフが鹿肉にあたって倒れることであおい達がバンドメンバーに参加することになる。この流れも間向けで面白い。

 

 無駄に迷信家でルーティーンにこだわる新渡戸が、幸運のお守りを山の中のトンネルに落として帰ってきて、それをあかねが探しに行くことになる。タイミング悪く地崩れが起きてあかねはトンネルに閉じ込められるがお守りは無事発見する。あおいやしんの達が頑張ってあかねを救出出来たから良かったものの、これであかねが死んでいたら新渡戸は許されんと思う。そんな新渡戸のコンサート本番シーン は本編で描かれなかった。恐らくあおい達のカバーにより成功したのだと思うけど。

 

 あおいの持ち曲がゴダイゴガンダーラなのは選曲が渋くて良い。西遊記の再放送でも見たのかな。

 

 序盤のあおいのミュージシャンならではの詩的なセリフもちょっとおもしろい。町おこしに使うならそれは音楽ではない、音を楽しむのが音楽であり、それでは音が苦しむで「音が苦」だとちょっと面白上手いこと言おうとしているのが良かった。

 

 盆地である秩父の地を、塀に囲まれた牢獄だと例えるあおいのセリフから、長渕剛の名曲「Captain of the Ship」の歌詞みたいなことを言ってると思った。あおいの詩的センスが光るセリフにも注目だ。

 

 しんのの魂の物語には思わず胸が熱くなる。

 色々あっても結局は音楽とあかねを愛する気持ちをいつまでも忘れることが出来なかったのが31歳のしんのである。弱ってもなお消え切らない情熱の炎が見えた。

 18歳のしんのが山小屋の結界を破る時に、あかねを想うを気持ちは変わらないと告白するシーンと31歳のしんのがあかねのことは諦めないと告白するシーンはラブが詰まっていて燃えるものがある。

 31歳のあかねを見た18歳のしんのが「かわいいばばあだ」と言って老けてもなおあかねを褒めるところにはニヤけてしまう。

 

 音楽という一つの夢とあかねという一人の女を13年間想い続けたことがすごいと想う。13年間同じ物なり人なりを愛し続けるのはなかなか出来ることではない。しんのの人生の物語が好きだった。

 

 後半シーンのあおいは恥ずかしいくらいに青春していた。こちらはこちらで心が叫びたがって、実際に叫んでいて爽やか青春ものになっていた。

 

 エンドロールではしんのとあかねが結婚した未来が描かれていて感動できた。

 

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