こしのり漫遊記

どうも漫遊の民こしのりです。

パニック映画の始祖「ポセイドン・アドベンチャー」

ポセイドン・アドベンチャー」は、1972年に公開されたアメリカ映画。

 

 これよりも先輩作品があったのかどうか知らないが、とにかく私にとっては人生初のパニック作品である。まだ毛も生え揃わないくらいチビの時分にこいつをたまたまBSで見た時には、面白いし、怖いし、スリル満点だし、面白いしというわけで衝撃を受けた。

 

 数多の作品を日々視聴するのに追われる忙しいオタッキー生活の中で、同じ作品を擦って見ることはそうそうない。なにせ見たい作品の数が多く、いちいち過去を振り返っていたらすぐに未来がやって来てスケジュールが破裂してしまう。そんな感じで基本的にはどの作品も人生において一期一会のつもりで付き合っているのだが、この名作「ポセイドン・アドベンチャー」は珍しく例外となり、結局5年に一回くらいは復習したくなり、これまでに数回見ている。

 何度見ても色褪せない素敵な作品というのは、映画でもゲームでも絵画にでもいくつかあるものだ。本作がまさにそれであると言えよう。素晴らしい作品だ。

 

 先日BSで放送したのを約5年ぶりに視聴したところ、やはり面白くて感動した。こうも私の胸を熱くさせるとは「ポセイドン・アドベンチャー、侮れん」と改めて思った。

 

 船の上下がひっくり返って中にいる者たちが大変な目に合うという言葉にすれば簡単だが異常にも程がある状況には心惹かれるものがある。所詮私も日常生活の人、冷静沈着が売りな人間としてやっているため、パニックをこの身で味わうことだってない。だからこそ、そこを脱した非日常の世界に魅了されるだろう。この作品は怖いし、絶対に関わりたくない事件を扱っているのに魅力を感じて仕方がない。

 

 私はこの作品を見てから「船に乗るのは止そう」と想うようになった。それくらいに怖い。

 船がひっくり返る映画と言えばコレと「タイタニック」が有名。タイタニックの方もここがきっかけで楽しむことになった。

 

 船がひっくり返る点をはじめ、世界観が本作と似ていることから後にはスーパーファミコンソフトの「セプテントリオン」もプレイしたくらいこの映画にはまったものだ。こちらのセプテントリオンもその内レビューしたいところである。

 

 久しぶりに視聴した関係で本作のことを色々と調べたところ、実は「2」があったという。これは知らなかった。

 2006年にはCGをたっぷり使った本作のリメイク作品「ポセイドン」が登場し、こちらは楽しく拝見した。しかし、調べると最低リメイク賞という胸を張って良いのかどうか戸惑う変わった賞を取ったということが分かった。実際に見た私としては「そこまで悪いか?」って感じ。

 

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 とある大晦日、豪華客船ポセイドン号は転覆してしまう。船の上下がひっくり返る大事件の後、生き残った乗客達が必死で脱出する姿を描く大作パニック映画である。

 やはり大晦日は丘に、それも自宅にいるに限るという気づきも得られる作品である。

 

 ポセイドン号の航海の足並みは鈍く、このままでは予定が大幅にずれて会社に損害が出てしまう。そういった事情から船の責任者はスピードを上げろと命令するが、船長は老朽化が進んだポセイドン号でそんなことをするのは危険だと反論する。乗客達が船での生活をエンジョイする一方、序盤ではこんな感じでスタッフ達がピリつく空気の中ミーティングを行うシーンが描かれる。船長の意見は捻じ曲げられて船は加速することになり、案の定転覆する。改めて視聴すると、到着を焦った船の責任者のおっさんの判断が悪いと気づく。

 

 船員、乗客と混ざって宴を上げ、蛍の光を歌って新年のお祝いをしている時に船は転覆してしまう。楽しい宴が一気に地獄と化す瞬間は何度目の視聴でもやはり衝撃が走る。部屋が傾いて人が窓にダイブするシーンなんかは怖すぎる。

 

 今のようにCGに頼る、甘えるという策は取ることが出来ず、天地がひっくり返るシーンは必殺の特撮技術で見せている。流れ込む海水の恐怖もリアルに描写していて、これだけ古い映画だけど迫力はやはり衰えない。特撮好きとしてもイケる一作である。

 

 船がひっくり返っただけでも何人と死んでいる。さっきまで飯を食っていた机が天井にくっついているなんてのは異質な光景だ。途中で寄るトイレで便器が逆さまになっている光景はシュールだった。

 

 生き残った者達は、動かず広間で救助を待つ派、転覆した今となっては一番上階になる船底を目指して脱出する派で意見が分かれる。ここでどうするかが運命の分かれ目だな。

 極限状態のああいった場で、不良神父スコットのように活発に動ける者が我先に危険に突っ込んで死ぬか、安全に脱出できるかのどちらにもなれる。動かず人任せなのも不安だ。私ならどっち派になれるだろう、どっちが正しいのだろうと思わず考えてしまった。

 

 クリスマスツリーを橋にして生き残った10人だけは上を目指して動き始める。広間に残った者達は後に水責めにあって漏れなく死ぬ。

 スコット神父は神父でありながら神が何でも救ってくれることを認めず、祈っても何をしても自ら考えて行動しない者に未来はないといった教会内では新進気鋭の価値観を持っている。ここでの脱出派メンバーと救助を待つだけのメンバーの運命の分かれ目が、スコットの価値観とマッチしているのが良いではないか。信じるだけでは足らず、行動した者のみが未来を勝ち取るという宗教的な意見も見える第一の見どころがここにある。

 

 スコットがあれだけクリスマスツリーを登って上に来ることを勧めても断った連中達も、フロアが浸水すれば慌ててツリーを登ろうとする。焦らず一人ずつ登れとスコットが言っても、皆が我先に助かりたいと思っているので一気に駆け上ってくる。だからツリーは倒れて誰も上がれず死んでしまう。このシーンには芥川龍之介の「蜘蛛の糸」の教訓を思い出した。

 

 スコット以外のメンバーは中年男女、年寄り夫婦、ガキも男女いて、あらゆる年齢層が揃っている。これだから面白みがあった。ガキや老人が上下ひっくり返った状態で船の上を目指すのは明らかに困難なことである。全員がスコットみたく丈夫な男ならかなり楽にいけるところを、色んな条件のメンバーがいることで脱出の難易度が上がる。個性、境遇が異なる10人のメンバーの間で展開する人間ドラマも見どころになっている。

 

 やはり初見から今日まで印象的なものとして記憶に残るのは、老婦人が水没した通路を泳ぎってから死亡するところと、スコット神父が空中でバルブを回して火の海に落ちる後半シーンである。ガキの頃にこのシーンを見たら怖くて記憶にも残る。

 

 狭いダクトを抜けるシーンでは太っている老婦人が足手まといになる。狭い所が怖いので私ならここは無理だと想うシーンである。

 元水泳選手なので水の中ではすばしっこい老婦人が、水路で溺れかけたスコットを助けてくれるシーンが良い。水の中ならすごい彼女が、泳ぎ切った後には心臓に負担が来たようで死んでしまう。ここが悲しくて泣ける。ひねくれ者のロゴも彼女の頑張りには賛辞を送るのがすばらしく感動する。

 孫に合うために海を越える旅に出たが、会えずに死んでしまうのが可哀想すぎる。

 女子供はなんだかんだで殺さないだろうという甘えがあったが、ひっくり返った船の中の残酷な空間ではそうはいかない。厳しい展開だったのが印象的である。

 

 天地がひっくり返って天井についているバルブを回すため、スコットがバルブに飛びついてぶら下がり、筋肉をフル回転させてバルブを回すシーンはすごい。こういう時に備えて力持ちになった方が良いとガキの頃には思った。

 空中でバルブを回しながら展開するスコットと神による問答は必見、必聴だ。深いことを言っている。生贄を欲する神に怒りを示すスコットの言葉には聞き入ってしまう。最後は力尽きて火の海に落ちて死ぬ。スコットの絶命シーンは色々とすごい。これを考えついたアイデア力が素晴らしい。

 

 あれだけたくさん人が乗っていて最終的に脱出できたのはたったの6人。救助隊が思わず「これだけ?」と言ってしまうのにも納得出来る。

 

 船が沈んで脱出するまでの約2時間の物語だが、危険を一つ突破したらすぐに次が来る感じで攻める怒涛のパニック展開で中だるみなく瞬時に終わった感じがした。

 

 2020年にもなってまた見るとは思わなかったが、やはりこの作品は素晴らしい。時間も丁度良い。

 

 令和に入っても結局名作は名作のまま我々の魂に刻まれる。22世紀にも残しておきたい名作の一本として、私はこの作品を推そう。

 

 

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