こしのり漫遊記

どうも漫遊の民こしのりです。

人間とロボットの未来を考えよう「イヴの時間」

イヴの時間」は、2008年にWEB配信された全6話のアニメ。

 2010年には全部をセットにして再編集した劇場版が公開された。

 

 本作は5、6年前に視聴したことがあるのだが、ゆえあって昨晩二度目の視聴を決め込んだ。これを見た当時には変わった作品だと思い、面白いとも思ったはずなのに中身は結構忘れていた。ロボが喫茶店に集まる、佐藤利奈が可愛いお姉さんの役で出演している、この2点しか覚えていない状態だったのでかなり新鮮な思いで見ることが出来た。人間の記憶ってロボと比べるとこうも脆いものかと思ってしまう。

 一度目の視聴の段階で、発表からかなり時間が経っていたが、元を辿ると12年も前の作品なのか。絵が綺麗で割と最近の作品のように見えるのだが、しっかりと時を重ねた作品になってしまったな。

 

 この作品だが、久しぶりに見ても面白い。アンドロイドが人間社会に大きく進出した未来のお話だが、当時よりももっとロボ技術が進んだ今の世の中ならより現実味を帯びたものとして楽しむことが出来る。考えてみれば2008年にペッパーくんがいたとしたらまだ早かったよな。

 

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 作品冒頭でテレビニュースが流れるシーンがある。そこで印象的なネタがいくつか見られた。

 ロボットが食品を作ることが主流となっている世界観なので、ロボットが作った野菜は果たして本当に美味しいのか、こんな世の中だからこそ逆に農家の人間の手作りが良くはないかという広告が流れていた。その内にはロボが作ったトマトが学校給食や各家庭の食卓に出周るのがリアル世界でも一般的になるのかもしれない。考えさせられる。野菜の収穫が、冷たいロボの手で行われようが、農家の人の血の通った暖かい手で行われようが、上手ければそれで良いではないか、とも思える。まぁこの問題はそこまで重要でもない気がする。

 

 次に興味深いのは、ロボットに対して過度な愛情、友情を感じることで依存する人間心理についのてニュース。こういう状態の人たちのことを作中では「ドリ系」と呼んでいる。

 高性能なロボットは、ロボットである証明となる頭上のリングを消せばもはや人かロボが見分けがつかないほどリアルな作りとなっている。こうなると、ただの道具として扱うのに抵抗が出るかもしれない。作中には見た目からしてロボロボしいテックス、もっと旧式のカトランのような人間とは程遠いものも登場するが、他の人型のものはすごくリアルである。表情も上手く作れて、ごく自然に喋ることも出来る。その上感情があるようにも見える。道具か人かで考えると、極めて人よりの道具と想うのが普通くらいかなと思える。そうなると、中には道具の域を越えてはっきり人と同じように感じる者も出てくるだろう。

 実際にはまだ我々の日常にはいもしない人に近いロボットがもしいたら、人間はどのようにロボットに向かい合うのだろう。そんな仮定の上での想像が膨らんだ。我が家にもサミィやアキコのようにハキハキ喋れる可愛いロボットがいたら、ドキドキすることも無きにしもあらずかもしれない。全てが仮定、妄想なのでハッキリとしたアンサーは出ない。

 

 冒頭にそんなニュースシーンを用意したことで、ロボは人とは全く違う道具なのだと突き放す内容になっているのかと思えばそう単純でもなかった。中身を追っていけば、そんなニュースとは真逆の価値観である「ロボットと人間を区別しない」をルールにした喫茶店イヴの時間」での物語がメインになっている。普段は無表情で道具感が強いロボットも、この喫茶店にいる間は人間と同じようにおしゃべりを楽しみ、コーヒーを飲む。

 養育ロボットが我が子を想う真心やリクオのことを気にかけるサミィの本音がイヴの時間店内では濃く見ることができる。マサキをこよなく愛して守っているように見えるテックスの物語には感動出来た。こういう場面を見ていると、ロボットにだって心があるのだからそこのところを考えて大事にしてよ的なこともメッセージ性として盛り込んでいるように思える。相反する価値観がそれぞれ見える二面性が魅力的な作品だった。

 

 ロボットが人間の領域に踏み込みすぎるのを恐れる人間心理も見られた。ロボットが関わる業種について査察を行う組織があり、ロボットが出入りする商業施設に偵察に出る者がいる。人に害悪を成すような行為、ロボット三原則を越えた活動が見られたらその店を潰すということになっている。ロボットを広く社会に出すなら、その上でいくつかの問題が出てくると予想出来る。その火消しをする組織を描く点はリアルだった。後にはこういうしっかりした組織も出てきそうだな。もしもの話だけど、その上でちょっとリアルな感じもするのが面白かった。

 

 それっぽい考察もしたけど、単純にイヴの時間に集まる個性的な客達の絡みが愉快で楽しかった。喫茶店のナギやサミィも可愛くて好きだった。

 出演声優は有名人ばかりで豪華な顔ぶれとなっていた。今は亡き水谷優子リクオの飲んだくれの姉役、石塚運昇がガラクタロボのカトラン役で出演している。カトランの物語はたくさん笑えた後にホロリとするもので良かった。懐かしい声が聴けて良かった。

 サミィ役の田中理恵は、これよりももっと前の「ちょびっツ」でもロボ娘役で出ていたなと思い出す。

 

 最初の作品が2008年ということを考えれば、時代を先取った感もなくはない。今後こういうロボットがどの家庭にもいることが当たり前になったら、そのときにはドリ系の問題もリアルに浮かび上がってきそうだ。なんたって人間はいつの世も優れた文明のなにかしらに依存したがるのだから。そんなわけで単純にシナリオも楽しめたが、ロボと人間の未来についても議論できてしまう意欲的な一作だった。私もイヴの時間に行ってナギのいれたイブレンドが飲みたい。

 

 

 

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