「加奈 〜いもうと〜」は、1999年に発売された妹ゲーム。
世紀末に発売されたパソコンゲームを今更起動させる環境も整っていないわけで、今回は2010年に発売されたPSP移植版をプレイ。オリジナルが約20年前で、移植版も10年前。どっちにしろ古いゲーム。
そんな古の名作ギャルゲーを復活させてサクッっとプレイすることが可能。これがモンスターハンターが遊べることよりも更に優れたPSP最大の強みである(といつまでも信じている)。
本作はシナリオライター山田一(今は田中ロミオ)のデビュー作である。
田中ロミオといえば、「人類は衰退しました」の人として知るばかりで、まさかこんなに純愛な妹ものまで手掛けているとは、勉強不足で存じ上げていなかった。すごい才能だと思う。にしても人類の衰退も大分進んだ感があるよな。
妹萌え要素があると聞けば噛み付きしゃぶり尽くしたい。そんな気質を持つ私の耳にこのゲームの情報は前々から届いていた。だがしかし、忙しく流れる運命に翻弄され、プレイするのがなんと令和時代にまで流れ込んでしまった。全く人生というものは先の見えないものだ。
今回、秋の夜長にはまだ早い短くて暑いばかりのムカツク夏の夜の清涼剤として、このゲームを楽しんだ。
質は確かなものであるが、内容自体はそこまで長くなく、11時間半くらいで全ルート解放出来た。惹き込まれる面白さに集中プレイしてしまい、ギャルゲーには割と時間をかける私が、たった4日で全クリしてしまった。実に素晴らしい出来であり、人生でコレに出会えて良かったと思える素敵な一作でした。
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注意:ジャケットのように本編でもお兄ちゃんと加奈が二人乗りをするシーンがあり、追い込みをかけるように従姉妹の少女も乗っけて3人乗りに挑戦しにかかるシーンまである。自転車の複数人乗りは基本ダメなのでそこんとこは要注意だ。
タイトルの意味する内容はそのまんまの潔いもので、加奈という妹を愛でるゲームになっている。
ただ日常系のように妹とイチャツクものではなく、テーマとして生死を含めた「人の命」という重いものまで扱っている。はっきり言ってお話は甘いばかりでなく、重い展開もかなりある。心を強く持ってプレイするべし。
主人公男子 隆道お兄ちゃんの目を通し、二つ年の離れた妹 加奈の幼年期・中等期・高等期の3つの愛しきライフステージそれぞれの物語を辿っていく。
最初は隆道が小学5年の頃からスタートし、最後は大学1年くらいまでに成長する。その間で変わってくる妹との関係性にキュンキュンするものがあり、同時に切なさと悲しみをを味わうことになる。
妹萌え+病弱ヒロインの合わせ技で魅せるのが加奈のやり口。清廉潔白な透明感あるヒロイン性が良い。
時代が時代だけに絵柄が古臭いのは確かなのだが、これはこれで味わいがある。タッチは古くとも、加奈の出す可愛さと清涼感は時を越えて確かなものだと言える。
病弱でか弱い妹をしっかり演じた小林沙苗の声もマッチしていて良かった。先日「メモリーズオフ それから」を遊んだのだが、あちらのメインヒロインも彼女が演じていた。連続で彼女の芝居が見れて良かった。あちこちで仕事をして後の時代に残しているんだなと感心。
この加奈なのだが、やっかいなことに慢性腎不全という病を患っていて、幼少期から高校生になる年齢になっても入院、通院生活を続けている。こんなに綺麗で良い子なのに、残酷な運命に翻弄されるなんて心が痛む。
リアルだろうがゲームだろうが、この病気をやっつけるのは容易なことではない。というわけで、簡単に加奈を生かす未来を生むことは出来ない。全部で7つのエンディングがあるが、その内加奈が生き延びるルートは一つのみ。だいたいは死ぬ。だからこそ加奈の生存ルートに進めた時の達成感は一入というもの。
自分はしっかり生きたという証を日記やボイスメッセージに残した加奈の想いに涙する隆道を描くエンディングにも泣けるものがある。初めて海を見たことで確かな人生観を得たということが分かる加奈の日記の内容は泣ける。
加奈の死、それによる自分の中の悲しみと向き合えず軽く精神崩壊してしまう隆道の物語を追う痛々しいルートもあった。逆に妹の死を受け入れ糧にし、強く前を向く隆道を描く爽やかなルートもある。
ほとんどの場合で死んでしまう加奈がいなくなった後の世界を描く各エンディングルートもバリエーションは様々で見どころ。どのエンディングを見ても目から天然水が溢れる。
攻略はちょっと厄介だが、既読イベントを高速スキップでなく大胆にジャンプして一瞬で次の選択肢まで進めるのが可能な点は嬉しかった。時間の節約になる。
小学生時代には妹を毛嫌いしてイジめていた隆道お兄ちゃんが、徐々に妹を守るしっかりした兄にならなければと心を改めていく点に好感と共感が持てる。
妹好きという気質は、後天的に宿る場合が多いと思う。ガキの頃は、自分から見てよりガキの弱い命をなにかと蹂躙したい残酷な想いがこれといった理由なく沸き起こるものだ。だから人生の序盤では妹を虐める。だが、その尊さ、愛しさ、なにより萌えに大人になる程気づくもの。高校生時代には完全に優しいシスコンの領域にある隆道お兄ちゃんの心の変化には納得。兄妹の仲の良さにはほっこりするものがある。単純にこのハートフルファミリー感が良い。
そして物語が核に迫るのは、兄妹での恋愛にある。これは世間一般的に難しくシビアな恋愛事情だが、恋愛なんてものは相手を好きかそうでないかの簡単二択のアンサーで全てが決まる。社会のことなんて良いから愛しちゃえよと二人を応援したくなる。
そして後半、実は加奈は父の友人から預かった義理の妹ということが判明する。ガチ妹ではなかったのでそこはちょっと安心。
隆道には同級生のマドンナ 夕美、加奈にはイケメンの伊東くん、それぞれが言い寄って来る。兄妹それぞれが異性と懇意になりつつある、それを互いに認識することで、互いの秘められた想い、つまりは兄妹ラブの存在にはっきり気づいて行く。いつまでも幼いままではいかない兄妹のラブの事情を克明に描くこの展開も好きだった。
もうひとりのヒロインの夕美と隆道の関係性にも注目出来るものがある。加奈ほど古参ではないものの、有美とも小学校からの長い付き合いの幼馴染ラブとなる。やっぱり幼馴染ラブって良いよな。
隆道にとってトラウマ事件となった「クラス皆にラブレター公開され事件」は、確かに幼心に大きな打撃となると思える。ラブレター事件から疎遠になった後も、夕美の方では隆道に向けてかけがえのない想いをずっと育てていた点に萌えるものがあった。
細っこい加奈と違ってボディに迫力のある夕美はセクシー要員であった。小5の段階でおっぱいがあったので有美の発育は早く逞しい。
やや強めの肉食ビッチ感も見えるといえば見えるが、それでも夕美もすごく良いヤツで良かった。加奈が死んで夕美との未来の進めるエンドもあるのが救い。
攻略ヒロインではないが、キャピキャピしたノリの看護師さんの美樹さんも好きだった。
お題目としては妹を愛でる、命について追求する、というギャップある二つのテーマ性が柱になっている。この二つの要素をバランス良く魅せるシナリオがすごい。文体としても読みやすく、隆道の心理描写の細かさも評価出来る。個人的に好きな文章、文体だったと言える。
妹が良いということもたっぷり分かるが、生きること、死ぬこと、という人の命のあり方についてもかなり深く迫った内容は、読み物として魅せるパワーがある。
加奈も重い病を患っているが、兄妹の叔母とその娘もまた病を患っている。ガンの叔母が終末医療を受ける中で、確実に人生の終わりを見据え、加奈や自分の娘に何かを残す生き様にも泣けるものがある。
生きることも時に辛いが、死は絶対的に怖い。気丈な叔母でも死を前にすれば恐怖から取り乱す。そんなリアルなシーンが描かれる点は感慨深いものとして印象に残る。
叔母の娘もまた字違いで同じ読みの香奈である。ルートによっては、死んだ加奈の腎臓をもう一人の香奈に移植する展開が見られる。死して尚、加奈は香奈の中で生き続けるのである。ドラマがある。
臓器の鮮度が手術成功の鍵にもなるので、ドナー登録者同士のやり取りとしてここは必須。しかしそれでも死んだばかりの人間をゆっくり死の中で休ませる暇なく開いて中身を取り出すのは道徳的にはどうなのか、という隆道の問いにも確かに納得できる。
従姉妹を助けるため、死んだばかりの妹の体を開くことになる。そこに大変頭を悩まし苦しむ隆道の事情を思うと胸が締め付けられる想いになって泣けてくる。これが移植を用いる医療の現場なのか。
終末医療、ドナー登録という今でこそ良く知れた制度を、まだ世への理解が浅かったであろう時代から伝えた点は素晴らしい。
これを見て思い出したが、同じく1999年に発売した初代メモリーズオフでも、ヒロインのみなもちゃんがドナー登録を待つ病弱ヒロインであり、ドナーがマッチした相手が従姉妹だった。これらの点で奇しくも内容が被る2作品に運命を感じた。
真面目な作品だが微妙に笑える小ネタが入る点が愛しい。
隆道が入院中の加奈のお土産として「電気ねずみのぬいぐるみ」を選ぶところがそう。コレって恐らくサトシくんの相棒のピ○チュウのことだよな。
作品雰囲気とマッチしたOP、ED両主題歌、そして本編のここぞというタイミングでぶっ込まれる挿入歌も良かった。EDの「あなたへ」がめっちゃ泣けるので最近良く聴いている。
感動し、加奈に萌える良いゲームだった。令和になってもプレイする価値があるものだった。
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