「タワーリング・インフェルノ」は、1974年に公開されたアメリカ映画。
138階建てのビルが大火事になるお話である。どんだけ高いんだよって思う。
作中で消防士が「7階建てより高いと消火作業が難しくなる」と言っているのに、まずは81階が燃え、最終的には上も下もほぼ全部の被害になる。消防士泣かせも良いところな事故現場。
住処を高い所にすれば気持ち良いのだろうが、何かあると逃げられないから考えものだ。
この手のパニックものといえば「ポセイドン・アドベンチャー」がやはり強い。製作には同じスタッフも関わっているとのことで、二作共にハラハラとドキドキが止まらない名作となっている。とにかく面白い。
2時間と40分もある作品だが、ずっと面白く、長い時間もあっという間に感じた。
最初から燃えるということは分かっているから、いつ火事になるのかと不謹慎ながらワクワクして見ていた。本格的に大きな火が出るのはだいたい40分くらい回した所。あとは最後までずっと燃えて危ない。
ビルが燃えるこの映画だが、令和に入って初めて見た。というか存在を知らなかった。世界的にヒットした映画だとのことだが、なんで知らなかったんだろう。まぁ見れたからいいか。大変良い出会いとなった。
主役はビルの設計者でもある建築家のダグ・ロバーツと消防隊長のマイケル・オハラハン。ツイン主役なんだな。
ダグを演じるのは、「動く標的」で好きになったポール・ニューマン。
この二人だが、まず男前だし、役どころとしても男らしく逞しく格好良い。
事件はビルの落成式の日に起きる。
火事の原因はズバリ手抜き工事のせい。コスト削減というケチな了見で配電設備を柔な作りに変えたところ、ショートを起こしてそこから発火。
一流建築家のダグの設計を勝手にイジってグレードダウンさせた結果がコレ。ダグは手抜き工事にゴーサインを出したビルオーナーのダンカンとその娘婿のロジャーを攻める。
手抜き工事で起きた火災のために死者が出た時、間接的とはいえ「人を殺したんだぞ」と言ってダグがダンカンを攻めたシーンが印象的。
火が出たと教えてもダンカンは、出火元の50階も上にいるのだから大丈夫と言って上階でのパーティーを止めて非難しない。これが火を舐めているなと思えてならない。配電周りの火事だから、どこが爆発するかは分からないのである。
夢見る権力者の横暴でこんな悲劇になったわけだ。責任者ってのは、やはり責任を持って施設管理をしないといけない。いい加減な仕事をすれば人に迷惑がかかり、最悪殺されてしまう。
「ポセイドン・アドベンチャー」のように、ビルに残された人間達それぞれの視点で物語が描かれる群像劇も楽しめる。キャラは割と多い。
印象に残るのは、人生最後の恋を求めての旅となった老いた詐欺師のおじいちゃん。残念ながら相手の女性は死んでしまう。
途中で死者も当然出る。全身火ダルマになったり、窓から落ちたり、エレベーターから落ちたりと何れも恐ろしく、そして生々しい。
今のようにCG依存での戦いが出来ないので、リアルな炎に爆発など、パニックものとしての見せ方には工夫と迫力がある。
地の利がある設計者ということで、積極的に動いてビル内で救助を行うダグの勇姿にも注目出来るが、やはり格好良いのは消防隊長のオハラオン。変わった名前。
歴戦の隊長らしく、ビルで相次いで事故が起きる地獄絵図を前にしても動じず冷静に動く。そんな隊長がとにかくクールで格好良い。
宙吊りになったエレベーターの情報が入れば困った話なので気だるそうな感じも出すが、すぐに自分が行くと言って動く。アンニュイな感じも出すが、やはりプロの判断と仕事ぶりですごい。
パーティーに出た上階の客を救おうにもエレベーターは動かず、階段も爆破されて途中で道が無くなっている。ヘリを屋上に呼んでも爆発事故で着陸に失敗。絶望的展開が続く。
ロープ結束を用いて救助カゴを設置しての一人ずつの救助になるが、これでは全員助けるまでに数時間かかる。でもビルはもう15分も持たないという切羽詰まった状況に追い込まれる。
こういう時にはやはりマニュアルで女子供を先に逃すことになっているようだ。でもタイタニック号の時にもいたように、我先に助かろうと統率を乱す者も出てくる。そういうヤツは天罰が下って死ぬ。小悪党ぶりが目立つダンカンの娘婿がああなったのは仕が方ないこと。
「蜘蛛の糸」的なオチで救助カゴを失うシーンは人間の真実性が出ていて怖い。
というか救助カゴなんてものがあると初めて知って勉強になった。
手際良くロープを結んで装置を固定するシーンもしっかり映している。ああして器用に出来るのはすごい。練習していないと現場ですぐに結んで解いては出来ないだろうな。
もうビルが持たないとなった時の最終手段は、最上階にある水が入ったタンクを爆破してありったけの水を上から下まで流すこと。
タンクを爆破するための爆弾設置は隊長にしか出来ないという。でも、設置しても自分が戻ってくる時間と手立てがない。それでも上は命令するしかない。隊長は聞くしかない。
このシーンはキツイ。自分ただ一人が皆を救える可能性を持っているとしても、危険すぎる。私なら絶対に帰る。
でも隊長は一人最上階に向かうのである。すごい勇気。
ツイン主役共同作業で爆弾を設置して、作動させるまでが一番ドキドキした。
起きている事故をなんとかさせるため、あえて爆発を起こすという異常時だからこその恐ろしい作戦が取られる。
極端なもので、タンクを爆破させると上から下まで水が落ちて消火は叶うが、次はとんでもない勢いの水攻めに殺される可能性がある。中にある物が全部窓から流れ出るから、人間も落ちる可能性が大。皆壁などに体をロープで固定し、あとは運頼みで爆破を待つ。なんかこの展開がリアルで怖い。
爆破前カウントダウン時に、上階に残った男達の顔が一人ずつアップになるところでドキドキがマックスを迎えた。
上から落ちる水の量もデタラメで、ここはポセイドン・アドベンチャーみたいだった。人間も外に放り出すくらいすごいのが落ちて来て、やっぱり何人も窓から流れ落ちで死んでしまう。マジで恐ろしい。
助かって地上に帰ってきたダグ、オハラオンそれぞれのセリフは印象的。
廃ビルになったコレは虚構の象徴だとダクは言う。
そしてオハラオンは、今回以上に被害者を出すビル火事が今後起きるだろう、その時は自分達は死者を運び出すだけだ。建築家がビルの建て方を聞きに来るまでは、と手抜き工事を揶揄した言葉を吐く。ちょっとおしゃれに皮肉が効いている。
作品冒頭では、一生懸命火事場で働く全ての消防士を称賛するメッセージが表記されている。オハラオンがそうだったが、勇敢な消防士にバンザイなのである。
消防士がいかに大変で危険なお仕事かが分かるものでもあった。助けに行った方が火だるまになることもある。それに消防隊の装備は歩くのがダルい程に重いらしい。これについては、本編でもアメフトの防具くらいは軽くしろと隊員がぼやいている。重い装備で階段を昇るのは相当にキツイことも分かった。
その昔、東宝特撮か何かで見たが、上階からすぐに消防車に乗れるよう、屯所には各階の天井をぶち抜いて上から下まで伸びる柱が見えた。あれを見るとプロのお仕事現場って感じもする。
そんな訳で迫力満点のビル火事パニックものだった。これは素晴らしい。
火事は本当に恐ろしく、いつ起きるか分からないので、日々気をつけて生きようと思った。
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