こしのり漫遊記

どうも漫遊の民こしのりです。

愛した我が子は悪魔か「悪い種子」

「悪い種子」は、1956年に公開されたアメリカ映画。

 タイトルの種子は「たね」と読む。

 

 内容としては、8歳の少女の犯罪を扱っている。すごく怖い。視覚的よりもディープな人間心理面の怖さを描いている。

 どの局で流すにしても攻めたヤバい作品だったが、まさかNHKで見ることができるとは、良き時代になったものだ。先日BSプレミアムで見たのである。面白い作品を流しているんだな~。

 

 なんとなしの初視聴だったが、本作を見て得た衝撃はデカい。これは儲けものな出会いだった。怖いけど面白い。 

 最初30分くらいは平和な家庭の話って感じで見ることが出来たが、後はずっと不穏、そして怖い。2時間と10分の作品だが、あっという間に終わった感じ。面白い作品は時空を越えてしまうからすごい。

 

悪い種子(字幕版)

 

 まずは上品な家庭が描かれる。そこの上品な8歳のお嬢様のローダは、親の知らない秘密をたくさん持っている。

 ローダの担任教師も子は得てして親に明かさない秘密を持つものと言うが、ローダの持つそれはダンチで恐ろしい。

 

 学校で行われた文章コンテストでクラスの男子に負け、優勝メダルを取れなかったこと。これが事件の素となる。

 

 ローダの家に集まる客人達の中には、心理学に詳しい者がいる。彼らが犯罪心理についてベラベラと語るシーンが割と長く映される。その中で、犯罪者ならではが持つ偏執性について言及するものがある、そこにローダの悪の素が見られる。

 

 ローダはメダルを獲得できなかったことにどこまでも執着し、果てにはメダルを獲得した少年を川に落として殺してしまう。そしてラストシーンまで執着はずっと続き、最後までメダルを手にしようと動く。この点が不気味で怖い。

 

 当然といえば当然だが、溺死した少年を殺った犯人はローダだろうと、学校、近所、母からも疑われることになる。

 人を殺ったのにケロリとした顔で家に帰ってくる。そして問い詰められると軽快に誤魔化しに出て大人を欺こうとする。賢いローダは嘘も平気でつくし、証拠隠滅のためなら手段は選ばない。

 

 紛失したメダルがローダの部屋から出てきたシーンにはビックリした。それを見つけた時から母はずっと気を病むのである。娘の罪を知った母の苦悩が長く描かれるのだが、母の気持ちを思えば胃が痛い。

 

 ここに追い打ちをかける要素が、母親の出生について。父から聞くに、実は自分は拾われた子で、親は犯罪者だったという。犯罪者の子の自分が産んだローダもやはり犯罪者なのか。この点にもっと苦しむことになる。この設定が、タイトルの「種子」の部分が大きく関わっている。

 ローダのサイコパスな人生と、そんなサイコパス娘を持つ母の苦悩だらけの心理、これら二つの要素で魅せるサイコスリラーの傑作なのである。

 

 作中では、犯罪者が犯罪に至る経緯について、ただ善悪の判断を学んでこなかったことに起因するのか、それとも遺伝によるのかというちょっと興味深い協議が見られた。 

 後半で専門家が話すには、遺伝なんてことはありえない、だったら誰も子供を産まなくなると言及されている。そう聞けば安心だが、真実はどうだか分からないから不気味。この要素のせいで、なんとなく親にお勧めしにくい作品。まぁ私は母に恥じる要素無き善人なのだが。

 

 周りには上品なお嬢様として振る舞うローダのあれはポーズであり、普段は狡猾に騙しのテクニックを使うのがマジに怖い。

 追い詰められた末、母に淡々と犯罪の記憶を言って聞かせるシーンは怖い。子役の子も普段は可愛らしいのに、悪い顔になる時が怖い。

 

 そんなローダの本性を見抜いている割と重要な人物だったのが、ローダの家の使用人のおっさん。同級生を死に追いやった凶器の靴の謎に気づいた彼のこともローダは消してしまう。怖い。

 使用人を消すため、ローダはマッチを持ち出して火事を起こすのだが、その前に一度はマッチを元あった場所に戻せと母に注意される。しかし、返した振りをして数本は手に握っているという点にローダの狡猾さが出ていて怖い。

 

 逃げるローダと追い詰める使用人のおじさん、数回に渡って描かれる二人の腹の探り合いシーンも見どころ。

 

 夫の単身赴任中に学校での事故が起き、母がローダを道連れ心中するまでになる。帰ってきた夫は本当にビックリだろうなと思う。

 

 娘を服毒死させるつもりの母の計画が、不運にも失敗してローダがその後生き延びる点にもゾクリとするものがあった。てっきりここで死んで終わりかと思った。

 ここで生き延びたローダは一体どんなオチを迎えるのかと気になって見ていたら、衝撃的なあんなオチだった。

 作中ラストでは、衝撃的なオチこそが作品の魅力だから、口外しないようにと表記される。なのではっきりは書かないでおこう。でも半世紀前のものだからほとんどの者がオチは知っているか。

 

 終わり方に文句はないが、入り口から味が悪いからオチを見ても後味が悪い。というか本当に胃が痛い作品。

 そんな救済が本編終わりの粋な計らいに見られる。まずはものすごく丁寧に一人ずつキャスト紹介がある。暗い本編だが、役を離れた俳優達は、本編では見せなかった清々しい一面を見せてくれる。これに安心する。

 

 罪を犯しても愛した我が子だったために娘を強く責められなかった母が本編では描かれる。コイツ悪いんだからビンタくらい食らわせたら、と多くの者が思っただろう。

 そんな悪い子のローダが、母から尻叩きのお仕置きを食らうおまけカットがEDで流れる。なんかこれで安心してテレビを消せたって感じになる。

 EDはポップでオシャレだわ~。それに変わっている。

 

 怖い話ではあったが、最後まで気になって仕方ない面白いシナリオだった。幼い子供ならではが持つ残虐性というのがあり、そんな都合も見える作品だった。

 だが、人の善悪を決定づけるのに種子は関係ないと思う。そこのところはとりあえず安心して見るが良い。

 

悪い種子(字幕版)

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