こしのり漫遊記

どうも漫遊の民こしのりです。

イカサマを越えて行け「逆境無頼カイジ 破戒録篇」

逆境無頼カイジ 破戒録篇」は、2011年4月から9月まで放送された全26話のテレビアニメ。

 

 アニメ一期に次いでこちらもかなりスムーズに視聴。一話見ると次が気になってついつい連続で見てしまう。そんな感じでめっちゃ面白かった。

 

 遊技場への出入りに厳しいのが我が家訓ゆえ、思えばギャンブルなんて一生やったことがない。全然知らない世界に住む、全然知らない心理で生きる人間達の酸いも甘いもが見える一大ロマンがここに見えた。

 ギャンブルなんて知らない、やらないの私でも引き込まれる人間ドラマが集約された名作になっていたな。

 

 コレを見て分かるのは、欲望から来る人間の愚かさ。とにかくそこのところが正直に描かれている。どうしようもないけど、とても正直な人間性がしっかり描かれている点は爽快。

 

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 アニメ一期で嫌という程裏社会の闇を見てきたカイジだが、続く二期ではもっともっと社会の裏、またはギャンブルの闇に潜り込んでいく。

 

 前作のオチで兵藤のジジイに大敗し、耳と手の指を持っていかれたカイジだが、ヤブ医者の手を借りて体から離れた部分は再び合体している。体を元に戻したらまたギャンブルをして借金を作って逃げる。そんなどうしようもない状態から二期一話が始まる。不穏だなぁ。

 ギャンブル中毒でまともに働かない、金を返さないカイジは、金融屋の遠藤のブラックリストに載り、リストには「悪徳債務者」と記載されている。何それ、初めて聞いたし見たワードだな。裏社会でも最低ランクを取っているのか。

 

 以前は自分を闇へと誘う遠藤の誘いを忌み嫌っていたカイジだが、ギャンブル漬けになってからはむしろ遠藤ウェルカムで、早く次の儲け話をくれと彼を待っている。

 この分かりやすい落ちぶれぶりはどうよ。主役だぞ、しっかりしろやと思える。

 前回ラストでは、耳と指を持っていかれてもなお兵藤を討つ闘志の炎は消さない勇ましさを見せたのに、それがこうなるのか。

 

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ハンチョーと地下チンチロ

 悪徳債務者はどん底に落ちるべきということで、遠藤に捕まったカイジはしっかりとドどん底に落とされる。

 遠藤からクズ扱いされてクズ置き場に送られるのが、その先が比喩的などん底ではなく、マジのどん底の地下世界だったのは驚き。落ちに落ちた者は、もはや地上に顔を出すことも許されず、普通の人間様の世界よりも高度が下がったマジの地下にぶち込まれて強制労働となる。怖すぎるだろうが。

 

 冒頭で地下送りになったら、しばらく地下でのみ物語が進行し、10話くらいは太陽が映らない。地球を離れたSFアニメとかならともかく、地球で現代劇をやっているのに、こんなに長いこと太陽の光無き進行になるのも珍しい。

 

 冒頭から展開と設定がすごいと思えた。このアニメを見ていると、ギャンブルのルールやイカサマもそうだが、地下世界まで作っている設定もよく思いくつなと感心する。

 

 よっぽどのクズでもない限り落ちる事のない地下世界のお友達には、うっすらとしか人権が保証されない。

 朝から晩まで強制労働で賃金はすごく安い。しかも配られる報酬は、地下世界専用マネー「ペリカ」という謎の金。兵藤のジジイの顔が写った紙幣になっている。もはや日本の仲間からも弾かれ、円が通用する世界で生きることも許されない。マジで恐ろしい世界。

 酷いのが、地上世界のヒエラルキーの最底辺からすら弾かれたそれ以下の地下人にもまだヒエラルキーがあること。下の下のまだ下がある。カイジは一旦はそこまで落ちる。

 二期になってからのカイジの人生と来たら、急降下の落ちっぷりで見ていられないという楽しみ方が出来る。地面にキスして土下座なんて可愛いもので、こうなると地殻もえぐってマントルとゴッツンコの酷い落ちっぷりだ。

 

 利根川を倒し、兵藤のジジイを良いところまで追い詰めたあのギャンブルヒーローの面影もないくらいに、カイジはガチで落ちぶれていく。地位を築くまでの積み上げにはとても時間がかかるが、崩壊はマジで一瞬だと分かる。

 

 地下編でのボスは、先に見た利根川のアニメにも出て来たハンチョウ大槻。これが元ネタか。 

 細目でニコニコして穏やか。一見するとテニプリのフジ先輩の要素が見える大槻だが、実はめっちゃ悪党。 

 

 敵だけど大槻は良いキャラをしていた。

 普段は好人物ぶる偽の顔、それが剥がれた下から出てくる大悪党の顔、2つの顔を持つ大槻の二面性を演じたチョーの芝居が良い。ハンチョウだからチョーが演じたのかな。何にせよキャラと声がマッチしていたぜ。

 

 ペリカを節約したいカイジの決意をそれとなく壊しにかかる大槻の巧みな誘い文句は印象的。贅沢の小出しは良くない、やる時はしっかりやることで、次の節約に向けて鋭気を養うという大槻の囁きを聞けば、確かにそれも正解だと思える。

 

 地下に落ちたココでもまた欲望に負けて人間性を落とすカイジの姿を見ることになる。大事なペリカだが、我慢出来ずにそれをビール、おつまみ、タバコへと換えてしまうカイジの心の弱さが描かれる。これには、例え地下だろうが、どこまで行っても人の本質は欲望で一杯という正直な都合が見えてしまう。カイジがマジで可哀想。

 だが皮肉にも、ここでの暮らしには、たった一本の缶ビールを最高に美味しくする環境が整っているのだった。

 世間に明かしていないだけで、リアルに日本でも、こんな感じのどうしようもない奴らを集めて働かせる施設とかないだろうなとちょっと怖くなる。まぁ良い面もあるのだろうが、マジでこうはなりたくない。人間を見ては、こうなりたくないの感想が連続する。それがこの作品の特徴だったな。

 

 この辺りの事情を描いた作者は、人間の、中でも心にたっぷりの怠惰を宿すクズの心理が良く分かっている。見ていると、刺さらなくてもいいのに心にぐさぐさと刺さるものがあった。

 

 地下で行うギャンブルは、地下世界オリジナルルールのチンチロリン

 これまでは船を貸し切っての限定ジャンケン、ビルを貸し切っての鉄骨渡りなんていう見せ方の派手なギャンブルをやって来たのに、地下チンチロは地下の汚い畳部屋でクズ共が行う世界で一番地味なギャンブル。前回までの落差がすごい。

 地味だが、この地下チンチロはゲーム性として面白く、これを扱った上での心理戦や人間ドラマも面白かった。

 大槻の攻撃を防ぎ、カイジはどうやり返すのか。そんな先の見えない展開にハラハラする面白さがあった。

 大槻を倒した6面全て1の目になっている雑なインチキサイコロには笑ったが、すごい発想力とガッツが宿った最後の武器になっていたと思う。

 

 アニメ一期を見た時にも、この作品って吉田拓郎の名曲「落陽」みたいな世界観だなと思ったが、ここではマジでサイコロを振って身を持ち崩す人間達が描かれていた。より「落陽」感ある物語運びとなっていたな。

 

 

「沼」という最強のイカサマ

 地下でとりあえず成り上がったカイジは、期間限定で地上に出る権利を獲得する。そんなカイジの次なる戦いは、通称「沼」と呼ばれる空前絶後イカサマパチンコマシンの攻略。

 地下でもそうだったが、もはや扱うギャンブルに正攻法の勝利はなく、イカサマを打ち崩す次なるイカサマを編み出して戦うという点が面白みになっている。

 

 これまで敗退した者達の金を吸収した「沼」から大当たりを出した時には、莫大な金が手に入る。これを得るためにカイジは、人生詰みコース確定のおっさんの坂崎、金融屋の遠藤を仲間に迎え、三人で最強のパチンコマシンを倒しに出る。それまでは敵キャラとして描かれた遠藤がここで仲間になるのは意外な展開だった。

 

 沼攻略編では、まさにギャンブルの沼にハマるどうしようも人間の精神が濃く描かれている。同時にギャンブラーの、果てには勝利したい人間の執念がこれでもかと描かれている。

 

 カイジ、坂崎、遠藤にはマジで後が無い。ここで勝たなければ死ぬだけ。だから当然マジでイカサマを攻略するもっとすごいイカサマを練って事に当たる。対して店を守るカジノ店長の一条も、イカサマ崩しを更に崩しにかかる事にとにかく執念を燃やす。やっている事はイカサマのいたちごっこだが、そのいちいちが命を賭けたマジだから見ていて面白い。どちらがどちらをどうだまくらかして泥沼合戦を勝ち越すのか。それを見る面白さがあった。こんなインチキ合戦をワンクール丸々使って描くという点には作りての熱意も感じた。

 

 沼編に見る面白みは、人の執念が絡む心理戦、パチンコの大当たりを取るか守るかの行き過ぎた策略などにある。もうこれに関しては、当事者達の魂を描くドラマ展開の要素がうるさく、ただのパチンコアニメとして見る事が出来ない。すごい熱を持って描かれている。

 カイジ、坂崎、遠藤、そして向こうサイドの一条、各員が勝負に賭けた物と想いはありったけの物であり、もはや娯楽としてのパチンコの域を出ている。

 

 沼の持つ強すぎる防衛システムは、もはやメカやロボのアニメだな。そこまでやるのかってくらいに、金に物を言わせた絶対防衛を敷いてくる。最後防衛システムとなった下から風を吹かせて大当たり穴を守るインチキには笑った。待ったなしのシンプルなズルだし、あれはやりすぎ。

 

 涙、涙の果てに大当たりを出したカイジの勝利には思わず感動してしまう。現場ギャラリーも地下の仲間達も、皆がカイジを応援している謎の一体感が心地良い。

 なんだこれは?魔人ブウを倒すために、地球の皆が悟空に元気玉パワーを分けてくれたみたいな、スーパーヒーローを讃えて応援する的な熱気があった。いや~不思議なアニメだぜ。

 

 大勝ちしても、すったもんだの末にプラマイ0の儲けになったカイジだが、そこに行き着くまでの選択を見ると、どうしようもないギャンブラーだけど、どうしようもなくお人好しな人間なのだと分かる。

 お人好しなカイジを応援するかのように、仲間との再会の飲み会代3万円をくれた黒服のおじさんは良い人で良かった。最終回に登場した良い黒服おじさんの声は、実写版カイジ藤原竜也が演じていた。

 地下の仲間達を救い、皆で焼き肉を食っての爽やかエンドとなった。なんだかんだあってもキレイなオチで良かった。

 

 カイジはここ一番で冷静で勝負強い。それに弁が立つようにもなる。逆境無頼の名にふさわしい能力を持っているが、それはガチ中のガチのピンチまで追い詰められないと発揮されない。

 地下世界や沼の攻略が出来るくらいの集中力、分析力、なによりも忍耐力があれば、地上世界でも普通にお金儲けが出来ると思うのだが、追い詰められるまではずっとヘタレなんだよな。この切り替えが面白い。まぁ本当にダメなやつは、ピンチになってもなお何も出来ないヤツなんだけど。

 追い込まれた最終局面で良き人間性が開花されるカイジの人生もまた、ひとつのリアル性なのかもしれない。そんなことも気づける面白いギャンブラードラマを見ることが出来た。

 

 それからどうしても記憶に残ってしまうのは、坂崎の娘の存在。実写、二次元含め、昨今稀に見るブスだったな。ブスばかりが出てくる作品の主人公であるカイジもはっきり「ブス」と言ってる。こうして見ると、カイジってこの世界ではイケメンなんだよな。

 本編では何も絡みがなかった坂崎の娘とカイジが、EDアニメではデートしている。ブスと戯れるカイジのカオスな青春が見えるユニークにして困った映像を毎週見ることになる作りにも笑えるものがあった。

 

 そんなわけで、ざわざわとざわつくこと必至のギャンブルアニメ「カイジ」は、めっちゃ面白かった。

 

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