こしのり漫遊記

どうも漫遊の民こしのりです。

グリーンゲイブルズは良いところ「赤毛のアン」

赤毛のアン」は、1979年1月から12月まで放送された全50話のテレビアニメ。きっちりみっちりの1年間放送だったようだ。

 2010年には、序盤数話分の総集編映画が公開された。

 

 今年の春アニメでは「虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会」二期がとても楽しかった。これの一期を見た時からずっと思っていたが、登場するアイドルのエマちゃんがアンに似ている。赤髪で三つ編みおさげ、そしてそばかすがある。これはもう令和版のアンではないか。そんなエマちゃんの活躍するアニメも終わって寂しくなったところで、「じゃあアンを見るか」となりアンを視聴した。

 

 こんなに古いアニメを見ようと思ったきっかけがまさかの現代スクールアイドルになろうとは、思考や発想の糸は思わぬ方向に広がるものだ。なにはともあれ「赤毛のアン」に繋がるきっかけが掴めて良かった。

 

 確かアンはかなり前にNHKで再放送したのを見たことがあったのだが、ほぼ内容を忘れている。最後は学校の先生になること以外はよく分かっていない状態だった。

 

 で、久しぶりに見てみると、さすが「世界名作劇場」5作目の称号を有しただけあってマジの名作だった。すごく面白い!

 全話見てコレを駄作だとする美的感覚は恐らくこの世に無いだろう。こんなに心を暖かくする物語を見た後に心が何も動かない者がいたとしたらロボのハートに近い構造なのでは?と思えてしまう程に良い。

 

 すごく古いのにこんなに良いのだな。先に小説がヒットしたのだがらシナリオは当然良い。そして技術は今以下でも、作りにおいてサボりが極めて少なかい古めかしい時代のアニメーションの出来がこれまた良い。自然や動物の作画を見れば、漠然と「あぁ、生きているんだな~」と思える感じがよく分からないけど良い。

 

 世界名作劇場といえば、人間の日常を濃く描くという点で全作が共通している。アン、マシュウ、マリラはじめ、登場キャラの人間性も濃く描かれ、全く薄くない。それだけで高く評価出来る。こんな事に感動出来るくらい、昨今私が楽しむ作品には薄っぺらい人間がわんさか出てくるのだ。

 

 主役のアンを演じたのは山田栄子鉄人28号二作目の正太郎少年やキャプ翼の岬くんの声でお馴染み。最初は女子なのに岬くんの声がするとちょっとの違和感もあったが、瞬時に耳に馴染んでいった。良い声で良い芝居だった。

 

 この作品を一言で表すなら「優しい人間達の優しい時間」とするのがしっくり来る。個人的にだけども。

 

 そんな優しい物語に感動した事とかを書き殴って行こう。

 

マシュウ・カスバート驚く

 

内容

 マシュウ、マリラの老齢の兄妹は、牧場の手伝いに良いと思い、男子の孤児をもらおうとした。がしかし、先方の手違いで家に来たのは女子だった。

 11歳の痩せっぽちな少女のアンは、手違いでグリーンゲイブルズ配属となる。手違いから始まるアンとカスバード兄妹の愛の物語が展開する。

 

感想

 望まれぬ派遣としてカスバード家にやってきたアンの運命は、最初こそ悲劇的に見えたが、それも時間と共に解消する。最終的には3人がとても仲良しな家族になっていく流れがとても良い。

 

 60という良い歳をした爺さんのマシュウは、女のことを謎の恐ろしい生物くらいに思っていてとにかく女が苦手。そんなマシュウだが、アンを駅に迎えに行った最初の段階でアンの事を気に入っている。

 マシュウの予想を遥かに越えて癖がすごいアンのキャラ性が一話目から目立っていた。家につくまでの馬車のシーンでもマシュウを相手に実にベラベラと良く喋る。

 私は大きくなった後期のアンしか覚えていなかったので、まだ11歳時代のアンがこんなに強烈な女子だったのかと驚く。

 

 アンの物言いはいちいち大袈裟でなんだか芝居がかっている。面白いけど結構変な奴。

 田舎町のスポットにオリジナルネームをつけてファンタジーに浸ったたりするなど、かなりファンタジックなヒロインだった。

 自分が男子と間違えられて派遣された事を知った時、マリラにピクニック行きを禁止された時には、まるでこの世の終わりのような豪快な女泣きに出る。面倒臭いけど面白い女だと思う。

 牧場の作業員から毒りんごを食べさせられたと嘘をつかれた回では、毒を食って死ぬ悲しみの勢いのまま遺書を書く。嘘なのにものすごい悲哀のテンションで詩的な遺書を書くアンがちょっと面白かった。

 

 癇癪持ちで一旦キレるとかなりヤバいのも幼少期の特徴だった。クラスメイトのギルバート少年にちょっかいを出された時には、石版で頭を叩き割りに行った。キレる時にも豪快だった。

 屋根の上を歩いて落っこちて死にかけこともあり、船の上でお芝居をしていたら船が沈没して死にかけたこともあった。子供らしく結構バカなこともやっている。

 船が沈んだ時に助けてくれたギルバートに対してあんな態度を取った事に対しては「それはお前が悪い。人を許せないその器の小さなは何だ」と思い、アンにムカついた。アンは可愛くて元気でいい子だけど、ギルバートのちょっとの悪さをいつまでも許す勇気がなかった女々しさだけでは私の気に障る要素となった。

 

 田舎に引っ越して来た当初は、普通に変なヤツだからということで皆に警戒され、仲間外れにされることもあった。変だけどやっぱり良い子なので、後には皆に愛されるようになる。

 こんなアンと序盤から最後まで友情関係を貫いたダイアナは懐の深い人物だと思う。ダイアナはアンより淑女感のある可愛いヒロインだった。

 アンはダイアナに「心の友」になってくれと頼む。ジャイアン以外がコレを口にするのは初めて聞いた。その言葉通り、二人はいつまでも仲良しだった。この点には女子が戯れる現代の日常系アニメのようなほっこりする萌えを感じた。二人のカップリングは癒やしで良い。ちょっと変な子のアンと良識的なダイアナのデコボコした組み合わせが意外にもベストなバランスになっていた。

 

 なんか変なヤツのイメージだったアンも大きくなると素敵なレディになり、進学校に入った後には、学長賞を取って大学の特待生の名誉を手にする。こんなにまともな女になるとは予想出来ない割と暴れた幼少期があったのだなと後でしみじみと思えてくる。

 

 大学行きが決まった後の終盤回では、ハートフルなだけではない家族間に見る悲しみが怒涛の勢いで迫ってくる。あのマシュウが死んでしまうシーンは胸が痛い。

 マシュウの愛が炸裂した46話が1番の神回だった。女子が苦手の前に、そもそも口下手なマシュウは、思っている事をなにからなにまで話すことをしない。なにか言いたいことがあっても言葉に詰まってしまう。そんなコミュ症の彼は、場繋ぎの言葉「そうさの~」を連発する。一つの作品でこんなにこの台詞を聞く事はない。そのマシュウが、アンに対する愛を引っかかり無くスムーズかつ簡潔に伝えた46話の印象はすごい。冴えないマシュウが最も冴えた晩年の日々が描かれていた。

 アンは自分が当初のオーダー通りの男子だったらもっとマシュウを助けることが出来たのにと言うが、アンを気に入って愛してしまったマシュウは、1ダースの男子よりもアン一人がいる方が良いと言ってくれる。アンは自分の自慢の娘だとはっきりと言ってくれたマシュウが格好良いジイさんに見えた。

 

 マシュウの心臓をショックで停止させるきっかけになった銀行の倒産話も重い。前日にマシュウが銀行の重鎮に話を聞きに行った際には、倒産危機はデマだと話していたのに、普通に嘘でしっかり倒産しやがった。嘘をこいたおっさんも悪いよな。

 利用していた銀行が倒産し、同じタイミングで稼ぎ頭のマシュウが死んでしまう。こうなるとアン以上にマリラが精神的に弱ってしまい、見ていて更に胸が締め付けられる思いになる。

 序盤は楽しく幸せな展開だったが、人間の日常を濃く描けばその中に人間の死が入ってくるのも当然のこと。終盤では嘘無き人生の厳しさも描かれていた。

 

 マリラもぶっきらぼうでデレが少ないばあさんだったが、マシュウと同じくアンをしっかりと愛していたと分かる。アンがあれだけ喧しいのに、なんだかんだで傾聴の姿勢を取って怒らず付き合ってあげる点で良いばあさんだった。ばあさんキャラなのにツンデレ要員でもあった。ツンツンしているけど、強く清い良い女で好きだった。

 そんなマリラがマシュウを失ってからは弱い一面を見せるのに傷つく。娘にデレデレして分かりやすく甘やかす教育方針を取ることはしなかったが、それでもアンをしっかり愛していていたとマシュウの死後に告白するマリラの姿にも泣けた。

 

 カスバード兄妹だけでなく、リンドおばさん、ダイアナの親戚のおばさんまでがアン推しになる。変な娘だったけど、なんだかんだで皆がアンに注目し好きになって行く。そこが良い。見ているこちらとしても、通しで見てアンが好きになる構成になっていると想う。アンを中心に周囲の人間が満たされていく幸福スパイラルが愛しい。

 

 ダイアナのおばさんとアンの出会い方はとても悪かったが、後にはおばさんがアンをすごく気に入り、あんな子供がいるカスバード家は幸せだと言うまでになる。そこにも泣けた。

 アンの友達グループにいるジョーシーは、バカなのかってくらい空気を読まずいつでも毒を吐く困った女の子で、当然素直なアンとは馬が合わない。でもなんだかんだでジョーシーはアンとずっと一緒にいた。これもアンの人の良さがなせることだろう。ジョーシーもアンと一緒ならなんだかんだで居心地が良かったのだと想う。優しく好感度の高い人間ばかりが出る作中で最も嫌悪感を抱くのに待ったをかけない稀有な人材がジョーシーだった。普通に嫌なヤツで草。

 

 最終回では、やっとアンとギルバートが和解し、ここが二人の間に愛が芽生えたポイントとなった。ギルバートとの付き合いも長いのだが、ギルバートの登場は少なく、二人のぎこちない関係の決着はいつつくのさ?と気になって見ていた。まさかラストまで最初の喧嘩が尾を引くことになるとは。これだから男女関係は面倒臭く、ゆえに面白い。

 ギルバートは本当に出会いの最初だけが悪く、後は一貫して紳士だった。本来の人間性から言えば、アンともさっさと良い仲になれたはず。悪いことをすれば自分が悪かったと謝る分別があり、和解を求めての言動も数度取っていた。川でピンチになったアンを船で助けてくれたし、普通にいいヤツじゃないか。そして井上和彦の声も格好良かった。この人も役者人生が長いな。70年代からもイケメンの役をやっていたのか。つい先日でも「本好きの下剋上」にイケメンで役出ていたし。

 意外なのは、ギルバートの父とマリラも昔は仲が良く、そしてアン達と同じく喧嘩をしてからはずっと和解しなかった過去を持っていたこと。そんなマリラの後悔を聞いてからアンがギルバートと口を聞くようになる点には成長を感じた。アンが地元で先生を出来るよう裏で取り計らってやったギルバートの仕事ぶりがイケメンすぎたな。

 小説だと後に二人は結婚するのだという。そうなるまでの恋のドキドキもアニメで見たいところだが、恋の第一歩の段階でアニメは終わっている。

 

 引き取られる家を間違えて始まるとんでもないない人生物語のスタートとなったが、すったもんだあった末にたっぷりの愛が残る素晴らしく気持ちの良い作品だった。

 この時代のカナダの田舎風景も心の癒やしとなった。電気が基本の現代生活ではなく、ずいぶんアナログな暮らしをしている時代の話だった。今見ると古すぎて逆に色々と新鮮。

 印象的なのは、郵便のシステムが今とは違っていること。郵便局はあるが、郵便物は局に来るのみで、後は住民が自分の物を局まで取りに来るスタイルになっていた。個々の家までの配達はまだ無しの時代だったようだ。自分で取りに行くのは面倒だな。

 

 これは令和のチビ達にも見せた方が良いだろう。児童向けの文学的作品としては極上の質になっている。思った以上に感動してハマれた作品に出会えて良かったぜ。

 

 

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