こしのり漫遊記

どうも漫遊の民こしのりです。

私もかつてはそうだった「恐るべき子供たち」

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 コクトー作の「恐るべき子供たち」を読んだ。

 

 先日見たアニメ「空の境界」で登場人物の黒桐幹也の名前についてヒロインの両儀式が「フランスの詩人みたいな名だ」と感想を述べたシーンがあった。そのフランスの詩人がこの本の作者コクトーであろう。

 かつて私にも取り憑いていた悪魔と同じ名の「肉体の悪魔」という小説を書いたレイモン・ラディゲとコクトーは親しかったとされている。二人が惹かれ合ったのも各人の作品を読めばなんとなしに納得してしまう。

 

 私自身がそうであったので子供とは底知れぬ恐ろしさを秘めた謎な者と心得ていたが、この作品に登場する子供たちは私が知る恐ろしさとはまた違った恐ろしさを秘めていた。全てを読み終わって、このタイトルは説得力あるものだと思えた。

 子供、マジ恐ろしいっす。

 

 姉のエリザベート、弟のポールは早くに父を亡くし、次いで母も亡くし二人だけで家に引きこもって裕福な暮らしを送っている。この二人の人物は実際にモデルがいて、コクトーは本当に引きこもってのうのうと暮らしている姉弟を取材したとあとがきで明らかになっている。こういう奴らもいるとこにろはいるらしい。

 

 姉弟の家の子供部屋は、子供だけの穢れ無きようで実は穢れが持ち込まれている危険にして異様な雰囲気が漂っている。

 

 主にこの子供部屋を舞台にして姉弟の愛憎劇を描いている。姉弟間でのやり取りはお互いに汚い言葉をぶつけ合って傷つけ合うのに確かに愛し合っているようにも思える奥が深く頭から尻までは理解しきれないような異質な関係を保っている。それゆえ二人は反発しあってもいつも二人で吊るんで付かず離れず状態である。いや、なんならくっ付いている。歪な姉弟愛の形がこの作品の特徴と言えよう。

 

 この作品はメインの姉弟をはじめとし、他に登場する子供らの繊細にして底知れない心理の交錯を描くことこそが重要で、どういう話なのかというあらすじを説明しにくい掴みきれないやっかいな作品であった。観念めいた奥の深い作品である。はっきり言って難解である。

 

 姉弟以外の主な人物は序盤にポールに雪の玉をぶつけ、それがきっかけで退学処分になったダルジュロス。二人の姉弟の子供部屋の常連となるポールの学友のジェラール、エリザベートの友人で女子なのに男子のダルジュロスに顔が似ているアガートくらいである。

 

 子供部屋に出入りする人物はエリザベート、ポール、ジェラール、アガートの四人。この四人の絡みがメインで物語は進行する。そんな中で5人目の人物ダルジュロスはお話のとっかかり部分と中盤にちょっと登場するだけである。

 それにも関わらず、ポールがダルジュロスの不思議な魅力にどこまでも惹かれているため彼の存在感は全編を通して消えないものとなっている。

 自分に雪の玉を食らわして怪我をさせた同姓の人物のダルジュロスに心惹かれるポールの心の中にある想いとは一体何なのか、ココが不思議である。

 コレはどこまではっきりしないのだが、学校を去った後にもポールの心はダルジュロスに支配されていることから、もしやボーイズラブの始まりみたいなものではないかとも推測できる。物語に実際に関わっていないのに全編通してその存在感を漂わせるこのダルジュロスという人物が謎すぎる。読んでいる私も出てくる場面が少ししかない彼のことが生涯忘れられそうに無い。

 

 もうひとつの禁断の要素はやはりメインとなるポールとエリザベートの関係である。実際的な場面は無いのでこれまたはっきりとしないのだが、あくまでほんのりと近親相姦の気が漂っていた。

 特に姉のエリザベートは一種の偏執的な愛を持っているように思える。彼女の行動こそ何度読んでもその行動理念や心理が掴みきれない。ザリガニで弟を餌付けするところとかイマイチ心が読めない。Sっ気があり、ツンデレ要素もあり、アガートに弟を取られることに嫉妬の念を抱くヤンデレの要素も見られた。ブラックボックス化した複雑な心理を持ち合わせたミステリアスガールであった。それゆえに強烈的な印象が残る魅力的な人物でもあった。

 

 ポールとダルジュロス、ポールとエリザベート。それぞれの組の間で他人には理解しきれない不思議な関係性が成り立っていたのが魅力的であった。

 

 話の全編を通して暗雲立ちこめる雰囲気が漂っているような作品で、話はどんどん崩壊的イメージを膨らませながらクライマックスまで進んでいく。

 ダルジュロスがくれた黒い毒の玉なる闇アイテムを用いてポールは死の淵をさ迷い、エリザベートは拳銃をぶっ放して自らの脳天に穴を開けて絶命する。最初は白い雪の玉をおみまいしてくれたダルジュロスが最後は黒い玉でポールにあの世を見せるという白と黒の真逆のカラーを用いてポールに絡むのが皮肉っぽく、またオシャレによく出来た設定でもあった。ラストがすごく後味が悪い。

 ポールが毒薬を持っていたいという願望を持ち、その理由も一緒に述べているのだが、少々クレイジーな感じがして私にはよくわからない理由であった。

 

 これは不思議な感覚に陥る小説で最終的には「私は今を読まされている?」って疑問が浮かんだくらいであった。毒の刺激も退屈な毎日には程よい刺激になるみたいな感じなのか、何だか危険な香りのするこの本を読み進めるのがやめられない状態になり一気に読んでしまった。

 感想を述べるのも難しい作品であった。とりあえず人という生き物の心、その中でも愛の感情については私のような未熟者にはまだまだ理解しきれない部分があるということがはっきりとした。

 

恐るべき子供たち (光文社古典新訳文庫)

恐るべき子供たち (光文社古典新訳文庫)

 

 

 あなたのお子さんも恐るべき何かを孕んだ子供ではなかろうか。

 子供を侮るべからず。

朝が来るその前に!「夜は短し歩けよ乙女」

 今宵の一本はコレだ!

 

夜は短し歩けよ乙女

 

 うん、いいタイトル。

 

夜は短し歩けよ乙女 (角川文庫)

  

 2017年公開のアニメ映画である。

 

 何やらおかしい世界観と冴えなくてちょっぴりアホな青年を書くのに定評がある作家 森見登美彦原作小説のアニメ化作品である。

 この原作の方は今から丁度2年前に会社をサボって読んでいた。個性的な変人が多く登場する大変面白い作品であった。ウィットに富んだ巧みな表現で文字や文章自体の面白さを認識させてくれた作品であった。

 

 それがアニメ化するなら見るしかない。

 そういう訳でアニメの方を見ました。

 

 

 

 主人公の冴えない青年は意中の黒髪の乙女に自分の存在を認識してもらうために「なるべく 彼女の 目に止まる」略して「ナカメ作戦」なる下手をすればストーカー行為とも取られる恋愛成就作戦に出る。

 軍師さながらに外から外から埋めていくややこしく長ったらしい作戦を取っているな。原作でもこの先輩の切実なる願いと努力が救われる結果になって欲しいと応援していたものだ。

 本作は、摩訶不思議な要素を合間に挟みながらも基本は冴えない青年が恋愛成就のために奔走するお話である。

 

 同原作者による作品「四畳半神話大系」のアニメがすごく楽しかったのでこっちも期待していた。夜は短しの方も同じく綺麗な色使いなどの演出から幻想的な雰囲気が漂っていて良かったと私は評価する。

 

 メインの先輩を星野の源ちゃん、黒髪の乙女は花澤香菜ちゃんが担当していた。先輩が星野って配役が意外すぎた。

 私はアニメに対しては考えがマジなので実写畑で慣らした奴が声の芝居をしにやって来る事に必ずしも良い反応を示すわけではない。しかし主人公の冴えない青年を演じた星野ボイスは私にはしっくり来たので宜しいとしよう。そしてヒロインの花澤香菜ちゃんの声は可愛い。四畳半の時もそうだったがこの作家の描くヒロインは飾りっ気が無いがちゃんと女らしいのでそこが良い。

 四畳半ではメインの男女役が浅沼晋太郎坂本真綾のコンビだったのでこっちもそれでいけば良いのにと思っていたが夜は短し歩けよ乙女のメイン2人も良い演技をしていた。

 原作を読んだ時から忘れられないおバカなロマンチスト男児のパンツ総番長が想像通りの見た目だった。芸人のロバート秋山が声をやっているのが意外。秋山って関取の遠藤と似てんだよな。

 

 四畳半の時の個性的すぎる懐かしいメンバーも久しぶりに登場した。樋口君に羽貫さん、そして古本市の時の小僧は小津だったし、マジでちょっとだけジョニー出てたしで嬉しい画が見られた。特に羽貫さんはあのどうしようもなくエロくて奔放なところがお気に入りであった。久しぶりにこっちの本編も見たくなった。

 

 原作の四章構成を短い尺にうまいことはめ込んでいた。基本は男女の恋の物語のはずだが、間にかなり奇怪にして幻想チックな展開が挟まれる作品であったので映像化に向いているとは思っていた。

 第一章の詭弁踊りなる珍妙な踊りはアニメではこういうものになるのかとちょっと感動した。ヒロインの踊る姿も可愛かった。

 春画作家の東堂さんがバーでヒロインのおっぱいを触るシーンは原作でも印象的なシーンだったが、アニメでもちゃんとあって良かった。巧みな手つきで触っていたな。

 二章の古本市の奥で闇鍋大会をするシーンは原作のイメージとぴったりマッチしていた。

 三章の韋駄天コタツのアイデアは面白い。それとゲリラ演劇もな。よくもああいった楽しくてバカっぽいこと思いつくな。そして鯉の羽織りを着用した乙女が可愛い。

 

 個人的に一番感動したのは原作では魔風邪恋風邪の章代が与えられた第四章の先輩と乙女が空中に浮かんで手を取り合っているシーンである。あのシーンは原作を読んでいてもこのアニメの画と全く同じイメージを思い浮かべていた。

 この章が好きになり原作を読み終わった当時には章題の魔風邪恋風邪の元ネタになった小説「魔風恋風」も図書館で借りて読んだ程である。ちなみに元ネタの方はすばらしい作品ではあるが、男女三角関係の末に主人公の女性が病に倒れるという内容が明るくない話であった。

 

 幻想的にして男女のラブが詰まったロマンティックコメディー作品であるので、日々の生活に疲れた人達が短い夜のお供として見て楽しむには持ってこいの一作であると私はこの作品を評価する。

 

 

 全国の乙女達よ、乗り物に乗ってばかりではいけない。足を使いなさい足を!人生という長くもあり短き時を歩けるうちに歩きましょう。そして会社はサボるな。

 

 漫遊の民からの最後のメッセージである。

 

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韻文小説の金字塔らしい「オネーギン」

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 プーシキン作の「オネーギン」。

 オネエではなく登場人物のエヴゲーニィ・オネーギンという青年の名がタイトルとなっている。

 

 

 遺産で遊び暮らすオネーギンが田舎娘のタチヤーナに惚れられて恋文を貰うのだが、オネーギンは他に類を見ない特殊な振り方をして彼女の愛を受け入れなかった。振るついでに色恋についての長くてうるさい説教をするオネーギンの姿は印象的であった。

 それから数年経って美しく成長した人妻のタチヤーナに今度はオネーギンが惚れこむがオネーギンの想いは受け入れられることは無かった。男女の愛の擦れ違い、恋愛における価値観の相違を特殊なテンポで書き上げている。逃がした魚は大きかったの意味がわかる小説。内容はこんな具合のものである。

 

 中編小説にあたるくらいの長さだと思うが、長い割りに起こった出来事の少ない話である。

 それなのになんで長くなっているかと言うとこの物語の語り手がオネーギンを中心に話を進める中で、自分自身の事を語ったり、世の中に対する評論をしたりするからだ。冗談調に語る時もあり、時には語りが暴走気味になって話が遠くへそれることもある。この語りのテンションが面白くもあり、邪魔に思う時もあるから不思議。

そういう訳で普通の小説とは毛色が違った文章表現を用いての話の進め方になるので最初はなんだか読むのに慣れなかった。

 

 読み終わって、急に話が終わったなと思った。

 

 この本の面白さはストーリー自体にあるのでは無く、従来の小説には用いらない韻文という独特のテンポの文体にある。読み手を選ぶ表現ではあると思う。

 

 それにしても少女期のタチヤーナの純真可憐なるヒロイン然とした振る舞いはすばらしい。

 

オネーギン (岩波文庫 赤604-1)

オネーギン (岩波文庫 赤604-1)

 

 

 愛は掴める内に掴んでおかないとね。