こしのり漫遊記

どうも漫遊の民こしのりです。

愛する人はこんな所にいた「この世界の片隅に」

 2016年公開の戦時中の呉を舞台にした映画である。主人公すずの女性としての強さと暖かい家族愛を描いたため戦時中という狂気の時代を舞台にしながらもハートフルな作品に仕上がっていた。見終わって素直に良い映画だと思った。

 呉の読みはOVAジャイアントロボ 地球が静止する日」に呉(ご)先生というキャラが出るので読み方を「ご」だと思ったら呉(くれ)だった。勉強になったね。

 クラウドファンディングの資金繰りによって上映を実現させたまさに皆で叶えた物語となった素敵な作品である。皆で叶える~ていうキャッチコピー、どっかで聞いたことあるな。

 

この世界の片隅に [Blu-ray]

 

 主人公すずの声は女優の能年ちゃんが担当している。私は人の顔、殊に若い女子の顔の区別が付かないという弱点を持っている。そのためこの能年ちゃんと良く似た顔の広瀬すずを同一人物と思っていたくらいに二人の判別がついていない。

 そういうわけでコレを見る前の最初の段階では「え、ヒロインの名がすずで、いや役者がすずなのか」「何、能年ちゃんだと!広瀬すずじゃなくて?どっちなのさ、結局誰が何をやるのさ!」という風にかなり混乱した会話を一足先に劇場で本作を見てきた母と繰り広げた。作品と関係ないけど役者をめぐって混乱させてくれた特殊な思い出の作品になった。それにしても能年ちゃんと広瀬すずのこの二人は間違いなく類似タレントだよね。私にとってだけかもしれないが、図らずも混乱を呼ぶ配役になった。

 

 混乱した頭を整理して、本編を見るとなんとも綺麗な絵だ。すずの表情豊かなのは可愛い。ヒロインのすずがとにかく可愛い。基本天然ボケさんであるが、時に女性らしく色っぽく見えるときもある。口のところの黒子がチャームポイント。

 最初のシーンで海苔を背負って船の上で小銭を数得る時の仕草がすごく可愛い。

 タイトルロゴがバンと出てすぐ後に主人公が人さらいの化け物に捕まるというお間抜けなスタートだった。あの化け物のエピソードは可愛いトンチが効いて微笑ましかった。先に化け物に捕まっていた小僧が未来の旦那様だったのかと二回目を見た時になってわかった。

 

 水原の宿題の絵を手伝って、海に立つ波を兎のように描いたアイディアは女子らしい可愛さがあって良かった。あの絵はセンスがあって良い。

 

 個人的にツボだったのがすずが嫁にいった先に小野大輔さん演じる水原がすずを迎えにいってすずと周作と水原でちょいとした三角関係が成立しそうになる流れだ。

 無理矢理嫁にやられたのが嫌だったら連れ帰るつもりだった水原の気持ちは嬉しかったが、嫁に来てから周作のことを真に愛したすずは流されずに周作への想いを貫く。水原の気持ちに流されて体をまかすことに良く耐えたなと思った。不倫、浮気ものに関心がある私にはハラハラな展開だった。すずの自制心がすごい。

 すずが幼馴染の水原にしか怒った顔を見せなことにジェラっていた周作がちょっと可愛かった。周作役の細谷佳正は良い演技しやがる。

 

 周作とすずが雨宿りして、雨上がりにキスをするシーンも好きだった。すずの「うち、この人とこんなことしとる」という嬉しはずかしな想いの入ったモノローグも良い演出だった。子供っぽいところのあるすずが急に大人の女性に見える良いシーンだった。

 

 鰯の干物4匹が家族4人の三食分というかなりキツイ配給の制限がかかるようになる。飯が不足するそんな中ですずが生活の知恵を発揮して、野草を調理するなどの新たなレシピ開発をするのが印象的であった。優雅でノリノリなすずの調理シーンは可愛いので巻き戻して見た。あのシーンがすごく好き。

 ハコベラとかって食えたんだって勉強になった。それと誰だかよく知らないが楠木公考案の食物の増量の方法がおもしろかった。昔の人は頭働かすなと関心する。米が膨らんでボリューミーな食事にはなるが、登場人物の反応を見るにあの調理法では米が不味くなるようだ。私も量も質も問う余裕がない程に生活に困窮したらやってみよう。

 

 戦争をしていた時代の戦場シーンよりも一般家庭に焦点を当てたのが珍しい作風であると感じた。厳しい時代でもかなりほのぼのとした家族団らんの光景が見られて心が温かくなった。物語前半では暖かい家族もの色が強かったが、後半からは戦争の恐ろしさもしっかり伝えるシリアス展開にもなる。

 戦闘機が飛ぶシーンでの爆発の描き方には絵の具をぶちまけたみたいな鮮やかな演出が施されているのが印象的であった。絵を描くことが好きなすずの心境に合わせたような演出だった。

 爆撃からすず達をを助けた周作の親父が途中で倒れた時には爆弾の破片でもあたって大怪我をしたのか、死んだのかと心配して見ていたら疲れて寝ていただけだったので、あの時はお父さんいい加減にしろとつっこんだ。

 

 物語終盤のラジオ放送で日本の降伏宣言と終戦を知ったすずが怒り泣くシーンは胸に刺さる。

 戦争中の恐ろしい状況下で暮らす日々にすぐにでもおさらばすることは皆望んでいたことであろう。しかし、全てを失っても勝つというかなりの覚悟の下で行った戦争を途中で降参したことに怒りと恥の感情を覚えた人々もきっといたはずと考える。かつて読んだ太宰治の小説には、終戦を喜ぶより降参したことがただただ恥ずかしかったと記されていたことを思い出した。戦争をしても止めても人々には複雑な感情が沸き起こるのだと感じた。

 

 ラストのすず達家族が晩飯を食うシーンでお父さんが電気に被せた黒い布を取り、部屋を明るくした時、灯火管制が敷かれた暗黒の時代の終わりを見た。夜の街に灯りがひとつふたつと増えていくシーンが良かった。夜に灯りがともるのに戦争の無い次の時代を訪れを見た。明るい所で飯が食えるって当たり前なようで幸せなことなんだなと感じた。

 エンディングロールで失ったすずの片腕がバイバイしているのも印象的であった。

 

 戦争は無くしたいこと、もうやってはいけないであるが、かつて日本が戦争をして消えない傷を国や国民に残したということは忘れてはならない。若い世代が知らなくても良いで済むことではないので若者に是非勧めたい映画だ。本当に好きな映画だった。

 

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