こしのり漫遊記

どうも漫遊の民こしのりです。

悩ましい大佐の人生「ひとさらい」

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「ひとさらい」は1926年に刊行されたフランス人作家ジュール・シュペルヴィエルによる小説。

 

 妻がいても子供が出来ないビグア大佐は、子供を欲しく思っていた。そんな彼は捨て子や、人から譲り受けた子、さらには誘拐までして子供を我が家に集める。こうして擬似的な自分の家族を構築する。父親として子供達と向き合う彼だが、マルセルという美しい少女を迎えて以来、父として向き合うことが困難となる。マルセルに魅了された彼は、父とただの男、その間を行ったり来たりして葛藤を味わう。

 そして彼を屈託させるのは、政治的問題にもあった。家庭内だけに留まらず、彼を悩ませることは様々ある。

 なかなかのストレスがかかる中で、彼の悲哀の物語が展開する。

 

 ビグア大佐の嫁の名前がデスポソリア。他作品でも聞いたことがないインパクトの強い名前だなと思った。

 

 主人公はビグア大佐だが、物語の序盤は彼に誘拐される少年アントワーヌ視点で物語が展開する。アントワーヌはいいとこのお坊ちゃまだが、母子家庭で育ち、母からしっかり愛情を受けているわけではない。

 誘拐に合って起きながら、彼は冷静に対処し、自らの意志でビグア大佐の息子になる。アントワーヌを見れば、裕福な家庭にいても円満な家族関係を築ける訳ではないと分かる。

 

 子供のいる幸福な家庭を求めた男がそれを実現していくのだが、最後までビグア大佐の心が晴れることは無かった。マルセルが来て以来、美しきマルセルが気になって仕方ない。先に家に迎えた息子のジョセフやアントワーヌが彼女に近づけば、父でありながら嫉妬してしまう。それを自覚した大佐は、己を恥じて落ち込む。念願の子供を得ても、その先で苦しみや悩みにぶつかり、大佐はずっと鬱屈した人生を送っている。人の欲が満たされる時を見るのは難しいと分かる。

 

 年頃のジョゼフとマルセルの部屋を隣同士にすると色々な問題が起こらないかと思案する大佐は思春期の子を持つ父らしいと思った。この後、ビグア大佐もまさかと思っていたジョゼフがマルセルを襲う展開となる。乱暴なジョゼフによるレイプだった。マルセルは妊娠し、大佐は怒りと嫉妬からジョゼフを家から追放する。この流れがドロドロしていて、個人的には盛り上がる展開だった。

 大佐はジョゼフのレイプの一件があって以来、マルセルの部屋の鍵を強固な物に作り変える。ジョゼフを追い出した後に大佐がジョゼフの部屋で寝ることとなるが、マルセルは大佐を部屋に招くつもりらしく、寝る時になってもわざと部屋の鍵をかけない。大佐は男の願望のままにマルセルの部屋に行きたいが、父としてそれはダメなので一生懸命耐える。最終的には使用人の男を部屋に呼び、ドアの前で寝かせることで自制を図った。この時の大佐の悩ましさレベルはマックスだったと想う。父であることって大変。

 

 マルセルはレイプ犯のジョゼフを嫌悪する。家を追い出されたジョゼフとは後半の船の上のシーンで再開する。ジョゼフは船員に就職し、更生している。ジョゼフは最初の頃はクソ野郎と思ったけど、仕事を初めてから爽やかな青年になって良かった。

 不思議なもので、嫌な出会いと別れ方をしたマルセルとジョゼフが再会してからは仲良し。結婚する話になる。

 それを聞いた大佐は嫉妬し、絶望の中、船旅の途中で海に身を投げる。そこで物語は終了。大佐が報われない。父として、男としても満足の行く人生で無かったと思える。

 

 あとがきを読むと、実は続きの話があり、大佐は海を泳ぎ渡って死んではいないと分かる。そっちの本も時間があれば読んで見ようと思った。

 

 大の男が奔走しても幸せな家庭を築くことは難しいと読み終わってから思った。

 

ひとさらい (光文社古典新訳文庫)

ひとさらい (光文社古典新訳文庫)

 

 

 ひとさらいは犯罪なので止めておこう。

 

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