こしのり漫遊記

どうも漫遊の民こしのりです。

プレイボーイの行きつく先は天国か地獄か「天国は待ってくれる」

「天国は待ってくれる」は、1943年に公開されたアメリカ映画。

 

 古い!ここまで古いものを今更見るというが逆に趣があって良いではないか。

 

 1943年だと日本は戦時中。しかし遠く離れた国が舞台となるこの作品の内容はかなりお気楽なコメディである。大変朗らかなもので、視聴後には全く悪くない気持ちになれた。

 

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 物語は、主人公男性ヘンリーが死んだところから始まる。

 ヘンリーは死後の世界に来たばかり。まずは閻魔大王様に挨拶し、そこでこの先天国に行くか地獄に行くのかが決定する。そんなファンタジックな始まりを迎えるのだ。

 

 ヘンリーよりも先に地獄行きが決定して下の世界に強制的に落とされたおばさんの存在が面白かった。

 

 ヘンリーは自分の人生を振り返ると、天国行きになるような良い生き方はしてこなかったので、きっと自分は地獄行きだと予想する。自分で地獄行きと判断する目の前の男のことが気になった閻魔大王は、どんな人生を送ったのかを聞き出す。

 そこからは映画のオチまで、ヘンリーが生まれてから死ぬまでの物語を辿ることになる。回想はヘンリーの女性遍歴に強く焦点を当てて展開される。生まれてから死ぬまで、プレイボーイのヘンリーの人生にはいつだって女の影があったのだ。

 

 幼い頃から同級生少女を口説く癖があり、青年期には従姉妹のアルバートの婚約者を奪って駆け落ちしてしまう。結婚10周年には別の女に浮気したことがきっかけで離婚騒動になるが、実家に引っ込んだ妻のマーサを再びさらう形でまた復縁する。

 面白いのが、アルバートとマーサの両親からは、二度もマーサをさらったことになること。性懲りもなくアタックをかけるヘンリーは意外と行動派でガッツもある。

 

 結婚25周年で愛した妻のマーサが病気で亡くなってしまう。その後は寂しさからとは言っているが、普通に性でまた若い女に手を出すようになる。爺さんになっても息子より若い20代の娘に手を出すから凄い。息子から止しなさいと注意を受けるまでになる。情けない

 

 年老いて病床に伏せるようになっても尚、女好きは終わらない。最後は美人の訪問看護師がケアに来た時にもお熱を上げ、そのまま死んでしまう。

 

 こうして本編でヘンリーの人生を確認すれば、確かに夫として、父としてだらしないのは分かる。でも人柄がのせいか、なんだかんだで皆が彼をそれとなく許している感も見られる。人間たらしの愛されキャラっぽい。

 一度は家を出たマーサも結局は夫の罪を許して戻ってくるし、嫁を奪われたアルバートが怒って報復することもなく、平和に過ごしている。

 小物のドンファン感に留まっているからこそ笑って見ていられる。

 色恋の罪に関しても、なんだかんで小悪党の部類に収まっていると思う。

 

 人の嫁だったマーサを泥棒したのは過激なことだが、あとの事を見れば、手酷く女性を振って傷つけた的なこともなく、恨みは少ない部類で済んでいる。かなりマイルドはプレイボーイだと思う。

 

 ヘンリーが暇を持て余して女の尻ばかり追うことになったのは、緩い家庭環境にも関係していると思う。なんだかんだで愛されキャラだからということで、ヘンリーが悪さをしても父、母、祖父皆が甘い態度を取る。

 働きもしない息子から金を無心された父の出方が、突っぱねて叱りつけるのではなく、提示された額の半分しか貸さなかったというのは微笑ましいのか情けないのか謎。最大限厳しくしたところで結果的に幾らか金を出すんだ。普通なら殴られるだろう。

 

 ヘンリーはザ・裕福なボンボンなのだ。だからお気楽に悠々ライフを送れている。

 これに関しては私も近くはないが遠すぎない家庭環境で育って来たのであまり非難も出来ず、むしろ共感とちょっとの好感も覚える。

 

 裕福な家庭だからということで、ヘンリーは大きくなってもロクに働いていない。女の尻を追いかける以外にコイツは何をしている人なのだろう。それを思うことが多かった。もしも和田のアッコさんに会ったのなら、速攻で伝家の宝刀の「あなたは何をしている方なの?」を聞かれそう。

 

 労働者としては普通に使い物にならないと実の父から嘘の無い査定を受けている点には笑える。息子を愛しはするが、そこのジャッジは厳しいのだと安心した。 

 

 こんなにだらしなくてどこが良いのだろうと思うかもしれないが、やはり人柄からのフィーリングで女性からモテるのだと思う。

 

 ヘンリーの口よりプレイボーイの一生を知る内容のお話だが、これが波乱万丈のドラマ性かと言えばそこまででもなく、何にもないようでそうでもない。しょうもないと言えばそうだが、全然つまらないこともない。箸にも棒にも引っかからない教養の無い話のようで深みがあり、心掴まれる要素がないこともない。

 そんな感じのすごく微妙な感想が並ぶ内容なのだ。

 ぶっちゃけ、地獄行きになる程の大悪党ではないのだ。愛の小悪党止まり。

 そんなのだから、結果閻魔大王も地獄ではなく天国行きを命じる。結局は皆に愛され、妻やその他家族を幸せにしたことで、誰かの人生のプラスになった人物だったのだと考えられる。

 

 ラストでエレベーターボーイに行き先は下でなく「上だ」と命じる閻魔大王様は気の利いた良き人物に見えて良い。

 

 こんな感じで振り返るとなんてことのない浮ついた男の人生だが、とにかく個人的に「好きだな」と思える作品だった。

 

 所々にクスリと笑えるユーモアがあり、淡々と語られる女ったらしの人生の物語も中だるみせずにスムーズに見れた。なんだかんだでハートフル。

 

 一番笑ったのは、マーサの両親の仲が良いのか悪いのか謎なやり取り。マーサの実家で夫婦が新聞紙の取り合いになって不仲になった後、使用人のジャスパーが伝言役として会話の間に入る無駄仕事が面白い。同じ部屋にいて同じテーブルに着いて内容が全部相手に聞こえているのに、わざわざジャスパーに伝言を頼むのが間抜けで笑える。

 新聞の漫画のオチを嫁からバラされて怒る夫にも笑える。

 このお父さんとお母さんからマーサが生まれるとは、全然顔が似ていないのでソレにも笑える。

 あとは、ヘンリーの幼少期の子役と青年期を演じた俳優の顔が似てなさすぎるのも面白いツッコミどころだと思う。遺伝子が反乱を起こしている。

 

 たまにはこんなに緩くてユニークな作品もアリだった。

 

 タイトル通り、地獄行きと予想するのは時期尚早なわけで、天国はしっかり待ってくれるのである。

 女好きは程々に抑えて、あとはなるたけ善人であれ。それが天国行きのチケットを手にするコツかな、みたいな気づきが得られる好きな作品だった。

 

 

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