男の子は皆大好きなメタルヒーローシリーズの「超人機メタルダー」。1987年放送、全39話で今年が放送30周年の作品である。もちろん子供向けの作品なのだが、なかなか重厚な魅せるストーリーは大人もハマる程であった。
一年間放送ではなく3クールという半端な期間で放送が終わったので打ち切り作品とまことしやかに囁かれているのを耳にしたこともあるが、その真偽はどうであれ「コイツはすごいぜ」の一言で評価できる間違いなしの名作である。あ、次回予告でほとんど毎回「コイツはすごいぜ」って良い声のナレーションが入ります。
ロボット工学の権威である古賀博士は、悪の大帝国ネロスの秘密を知り日本に帰国する。そこで博士はネロス帝国の悪事を防ぐために戦闘用ロボの「メタルダー」を起動させる。
ネロス帝国は石油工場を襲撃して石油価格を高騰させ、株価の暴騰を引き起こす。その裏で自分達はきっちり莫大な利益を得るという普通に恐ろしい経済的侵略行為を目論んでいる。頭が良くて悪い奴なのでマジで恐ろしい連中である。
暴力に訴えての単純な侵略だけに留まらず、経済をも抑えるという生々しい作戦が妙に恐しい。
メタルダーは変身前の人の姿の時には「剣流星」と名乗り、その顔は42年前に太平洋戦争で亡くなった古賀博士の息子と同じ顔をしている。しかも、古賀博士の息子竜夫は神風隊として特攻機に搭乗し戦死した。初回放送にして戦争の爪跡を見ることになるので子供には重い内容となっている。
剣流星はイケメンで若い時の少年隊のニッキとSMAPの森君をあわしたような感じだと思う。
流星は感情が高まった時に「怒る!」の一言を発してメタルダーへ瞬転する。マジで一瞬である。
主人公は人でなくロボットで起動後は生まれたばかりの子供のように世の中の事が何もわからない。最初の内は「闘う」という概念も無く、力の使い方がわからずにネロス帝国のクールギンに負けてしまう。そして、命とは何か、どうして生まれたのかと本物の人間でも人生を賭けてやっと知ることが出来るか出来ないかの非常に高度な哲学的な問いを行う。他に兄弟愛について、ロボットは見ることが出来ない人の見る夢についてなど人について色々知ろうとする自我が芽生えてくる。主人公がロボットの身でありながら人としての心を育てていく過程は楽しめた。
産みの親である古賀博士は第一話にして敵の手に落ちて死んでしまう。流星はまず親である古賀博士の事をを知るためにその人生の足跡を追っていく。ロボット工学の権威である古賀博士くらいになれば書物もそこそこに出しているので、流星は図書館の本で博士について調べることにする。その時流星が読んでいた古賀博士関連の本が鬼分厚かったことが印象的であった。
流星が当時の人の済む街の風景、TVなどを始めた見た時の反応が印象的であった。ローラー靴を履く若者に踊る竹の子族など一昔前の街の風景が見られた。この時代は「光GENJI」人気が凄かった。
流星には古賀竜夫の情報をインプットしているため、バイオリンがプロ並に弾けた竜夫の音楽愛を流星も受け継いでいる。流星はサックスを奏でる。東映の先輩ヒーローにギターやトランペットを奏でる者もいたのでヒーロー+音楽の合わせ技がここでも見られる。敵のバイオリン奏者ラプソディーと対峙した時は、音楽愛がそうさせるためバイオリンに攻撃を加えることができなかった。
命の大切さを重んじるメタルダーは例え敵であっても殺さずに逃がすこともあるのが特徴的であった。最初の内は止めを刺さ無いこともあったが、後半の方では敵も勢いがついてきたため手加減もできずどんどん止めを刺して行く流れになった。
「人造人間キカイダー」の時からヒーローがサイドカーを飛ばすのはアリという方程式があるので、今作もバイクはサイドカーである。その名もサイドファントム。やはりサイドカーはカッコイイ。そしてメタルチャージャーという四輪者のマシンも所持している。後の仮面ライダーシリーズにも取り入れられた交通手段拡大のパターンがここに見られる。
メタルダーのサポートメカとして彼と共に目覚めた犬ロボットのスプリンガー。コイツがまた印象的である。喋るしちゃんと役に立つしメタルダーの兄弟分のロボで、アニメ好きというのが面白い特徴がある。コンバトラーVを見ながら「コイツはおもしろいいぜ」と言うシーンがある。テレビのチャンネルを回すと黒柳哲子とチェッカーズが出ている番組が映ったこともあった。「少年ジェット」などを例にしてちょいちょいヒーロー+賢い犬っていうパターンの番組が出てくるな。私が特撮史上一番好きな犬は「電子戦隊デンジマン」に登場するアイシーである。可愛かった。ちなみに流星は動物語を理解できるすばらしい能力も持っている。
番組のおもしろ要素として一役かったメタルダーの仲間が2クール目からの追加キャラの北八荒(きたはっこう)である。有名なバイク乗りで、流星のことをヒロイン仰木舞を取り合う恋のライバルと勝手に決めてかかる。ヒロイン仰木舞は雑誌社に勤めていて、これといって重要なことは何もしていないと記憶している。顔はナンノと岩崎宏美の要素が入っていたかなと思い出す。嫌いな顔じゃない。
八荒は、人間の身でありながらヒーローの戦闘に同行する仮面ライダーで言う滝一也のポジションであると考えるのが妥当なのであろうが、その八荒が期待外れにも弱い。敵のクロスランダーの下に単身乗り込むが普通に捕まって命乞いをする。変身しないのに流星のように「怒る!」と叫んで敵を一瞬だけビビらす後に返り討ちに会うなど、コミカルな役回りが多い。顔は完全に二枚目で強そうに見えて、南光太郎と同じ服を着ているが実は三枚目役である。
八荒はその昔、族に入っていたという過去を持っており、腕に覚えありと思わせておいて実は無いのだが、後に出てくる昔の仲間達は本当に闘える強い人たちであった。その中にギャバンを演じた大葉健二が混じっていた。他にシャイダーの人もいて、八荒の昔の仲間の面々が豪華だった。
メタルダーをアシストするふりをして結果邪魔をすることもあれば本当に役立つこともある。自称ネロスハンターを名乗る実直な熱い男にして普通に良い奴なのでこの人物は大好きであった。
そんな八荒に最終回は重要な役が回る。ラスボスのゴッドネロスとの戦いに辛くも勝利したメタルダーであったが、深手を負いすぎてその命は風前の灯の状態であった。メタルダーの回路が傷つき放って置けば地球が消滅くらいの大爆発を引き起こすことになり、メタルダーは八荒の手で自らを機動停止させてくれと頼む。
強敵クールギンの剣でメタルダーを突き刺して壊さないといけないというかなりキツイ役が八荒に回ってきた。八荒は涙を呑んで親友であるメタルダーを殺すというラストであった。物語の最後の最後の落ちを担当したのがまさかの八荒であった。つらいがおいしい役回りである。
この現代社会に戦闘ロボという存在は危険にして無用な物であるために最後には敵味方拘わらずに世から消滅させる目的でこういうシナリオになったのかなと勝手に考察している。
しかし、ネロス帝国を抜け出たラプソディー(後に遊園地に就職)やウィズダムとその息子はどこかで生き延びていると考えられる。
主役が最後で死ぬのは悲しいな。忘れられない作品になった。
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