「人造キカイダー」は、1972年7月から1973年5月にかけて放送された全43話の特撮テレビドラマ。
なんと去年が放送50周年の作品だった。現在51年目を迎えた段階で丸っと全話視聴した。記念イヤーの視聴にはちょこっとだけ遅れたぜ。
大変格好良いヒーローが活躍する面白いドラマだったことから、夢中になってだいたい5日くらいで見終えた。キカイダー、最高だぜ。
このキカイダーとの出会いは、チビの頃に見たレンタルビデオがお初だった。ジイさんの代からあったものだから、当然リアタイはしていない。
英才教育として親から与えられたコンテンツだった。親に感謝だな。
赤、青で彩ったツートンカラーのボディデザインは奇抜。そこにマッチする黄色いラインを全体に走らせているのも気が利いている。赤青黄の信号カラーが映える見た目からして最高。久しぶりに見てもこのデザインとカラーリングは綺麗。グッと引き込まれるものがある。
スケルトンな頭部に覗くメカも良い。いかにもメカメカしいアンドロイド感は、今のオタクにも受けるマニアック要素になっていることだろう。
特撮にハマったら、お次は原作漫画も楽しんだものだ。
特撮だって子供向けにはしては十分重厚なドラマが見えたが、原作漫画にはもっと大人向けな深いテーマ性が見えたものだ。
ロボをメインキャラにしておきながらも、テーマとして問う部分は正義や悪の概念、それを判断する人間心理などだった。深いぜ。
確か漫画だと人形のピノキオの良心をテーマに上げ、そこからジローに宿る危うい良心のあり方について迫って行くみたいな感じに描いていたと思う。とにかく物が古いし、後になって私が触れてからも既に幾年か経過していることから結構記憶もあやふや。
まだまだチビの時に一度見たキカイダーだが、大きくなって見たらより深く楽しめるようになった。それもある程度社会を見て、人を見て、その結果善悪についての考えも定まったからだろう。
善悪の中で揺れ、光と闇を行ったり来たりする危うげなジローの青春を改めて見ると、まるっきりのフィクションではなく、いくらかは人間心理のリアリティを突いた物だと思えるようになった。
BDの綺麗な画質で再び見たキカイダーから得た感動は予想以上のものだった。
これは素晴らしく良い。22世紀にも残したい。面白いし超カッチョいい!
では、そんなキカイダーの感想とかを殴り書いて行こう。
内容
プロフェッサー・ギル率いる悪の帝国「ダーク」と正義の人造人間キカイダーの壮絶な戦いが描かれる。
ギターを持った青年ジローは、キカイダーに変身してダークの放つ強敵ロボットと対峙する。
ダークのロボットは、ギルの笛の音によってギルに絶対服従することになる。
キカイダーはダーク製のロボットではあるが、光明寺博士が開発した「良心回路」を搭載したことで、善悪の判断が出来るようになっている。しかし、その回路はまだ未完成ゆえ、ギルの笛の音を聞けば半分は精神を支配され、半分は正義の心でいるという一種の混乱状態になってしまう。戦闘に不完全なこの苦悩抱えながらも、ジローは日々苦しい戦いに身を投じるのである。
光明寺博士はダーク基地から脱出するが、その際に記憶喪失になってしまう。
ミツ子、マサルの光明寺姉弟は、ジローや私立探偵 服部半平の手も借りて行方不明になった父を探す旅に出る。
キカイダーとダーク軍団の戦いを描くのと同時に、行方不明の父を探す兄妹の物語、そしてジローに想いを寄せる姉ミツ子の儚い恋の物語も楽しむことが出来る。
質の高い特撮、ドラマ性、ラブも絡めた娯楽性があることで、見て大変お得な一作に仕上がっている。素晴らしい。
感想
とにかくキカイダーは格好良い。
「チェンジ!スイッチオン ワン ツー スリー」の掛け声と共に取る変身ポーズはずっと覚えていた。
現在の巷にはまずいないであろうジローのファッションセンスも今見ると新鮮。令和時代なら奇抜に映る。
変身前のファッションにも変身後同様に赤青黄が入った物が用いられている。特に赤いギターは可愛いし、格好良い。
ジローの登場シーンもおしゃれで毎度恒例の形式美となった。
例の音色が聴こえると敵が「どこだ?」とジローを探す。発見される場所はだいたい高い所。水戸黄門みたいな恒例の儀式があるのもユニーク演出で良かった。このシーンをワンパッケージにして、チビの頃には兄弟とごっこ遊びしたものだ。
一度ヤベェくらいデカい木の上にいたこともあった。あれは危ない。
OP、ED、BGMも含めた音楽も優秀。昨年惜しまれつつ息を引き取った渡辺宙明が音楽を担当していた。
特に傑作なのは、水木一郎氏が歌う「ハカイダーの歌」。イントロ、曲、ボーカルの上手さ、どれを取っても満点。イントロ部分から最強過ぎる。ちびっこ向けソングとはいえ、手抜き無しのマジで作っていると分かる。これを歌う水木のアニキもまた、昨年亡くなってしまった。
年明けの「Anison Days」では、アニキを偲んで後輩の森口博子と酒井ミキオが想いを語り、彼の歌う名場面映像を振り返っていた。このタイミングだと、あんなに格好良いハカイダーの歌を聴いても泣けて来る。
アニキよありがとう。親父の声くらい聴いたよそのお兄さんの声だった。
半世紀も前の作品ともなれば、関係者の中には亡くなった者が多くいても不思議無い。当時ガキのマサルくんだって50年経てばとっくにジイさんだろうに。
先人が残した素晴らしい作品を、後の人間の我々がしっかり楽しむことが出来る。こうして未来へと作品を繋いだ人間全てに感謝だ。
良心回路に宿るドラマ性
キカイダーも仮面ライダーと同じで、出は敵側組織からだった。でも仮面ライダーと違うのは、悪を取り除くという組織脱出前に一番必要な改造が完全に終わっていないこと。
ダークのロボットはダークに帰る。そう唱えてギルは、ダークに服従させる笛の音を奏でる。この笛の不気味にしてどこかポップ感のある響きも覚えやすく、久しぶりに視聴してもやはり覚えていた。携帯の着メロにしても良いだろう。
原作漫画だと、善悪を判断する良心回路をジェミニィと表記し、逆に善悪問わずギルの言う事なら何でも服従させる悪魔の回路の事はイエッサーとしていた。この真逆の概念から成る二つの回路の存在とネーミングセンスの良さも、ドラマ性を際立たせる要素になっていた。
ダークロボットと戦うジローの邪魔をするため、ギルは悪魔の笛を吹く。これを聞けばジローはまともな状態ではいられなくなり、苦しんで戦闘を中断する。笛の音の強い支配力に逆らえない場合もあり、その時には味方の人間だって襲ってしまう。それが事件になって警察からお尋ね者にされる事もあった。
このように、強くて完璧な超人ヒーローではなく、油断すれば敵の言いなりになってしまうかなりヤバい弱点を持っている。
でもこの弱点が作品の良さとして光る最重要ポイントだと思う。
良心回路が不完全だから時に正義を見失う。これはロボットとして大きな欠陥である。
最初は行方不明の光明寺博士を探してこれを完全な物にさせる流れになるのかと予想して見ていたが、最終回まで回路は不完全のままで行くことになる。
ジローはあえて不完全な自分を選んで戦い続ける。この選択に至ったジローのロジックは、不完全だからこそ導けた完成の道でもあると思う。聞けばとにかく何か深いと納得できる。
ロボットはプログラムを従順にこなす事で完璧なアクションが取れる。でも人間の心は脆く、横着であり不完全だと言える。いつだって完璧が約束されるものではない。
人間に愛着があり、人間に近づきたいと思ったジローは、人間のように不完全な心こそを良しとしたのだ。このロボットロジカルは実に良く出来たもので、真人間の私も思わず共感してしまった。
回路が完全な物となれば、設計図通りに出来た完全なロボットになってしまう。ロボットとしての完成が、ジローとしては自分を不完全にする避けたい要素にもなっていたのだ。これは深い。
ロボとして生きて人間を理解し、そして憧れを持ったジローだからこその持論だな。
だからジローは、博士を見つけた最終回を迎えても回路をいじることを拒否する。そして、悪に飲まれるかもしれない不完全で弱い心は、発明の力に頼らず己の精神力でカバーすると決意するのだ。この決断は格好良い。
結果的に、人間の持つ不完全さこそが人間である一つの証であり、ゆえに愛せるとも言っているのが、この作品の深いところだ。
チビがなんとなく見ていては知ることの出来ない境地だな。実に大人向けな重厚な内容だった。
三ツ子姉さんの悲恋
自分とは義理の兄弟とも言える三ツ子、マサルと関係する中、ジローはロボットでなく人間として接して欲しいと願う心情を見せる。自分と人間の間にある違いという「壁」を悩んでいると感じられる場面もあった。
ロボットと人間、二つの要素が半々状態のジローならではの苦悩が見え隠れするドラマにも注目できる。
そして儚くて胸にキュンと来る三ツ子姉ちゃんがジローに寄せるラブの物語にも見所がある。三ツ子姉ちゃんの美しい愛が、結果として悲恋の物語を呼び込む点はちょっと大人向け。
見えないし、見えてもどうしようもない恋の障壁があることで、純情な三ツ子の想いが届かない。そこは歯痒くて悲しい。
好きな人と結婚出来た女性を見た三ツ子は、それを大変羨ましく思い、結婚出来ない人を好きになった自分の運命を悲しむ。ここには胸がキュンとなる。なんていじらしく、儚い。そして悲しい。
ジローは優しくていいヤツだが、そこはロボだもの。当然の童貞マインドで彼女の想いにしっかり答えることは出来ないのだ。
同期を盛り上げた特撮の「仮面ライダー」には無い切なげて大人びたドラマ性があった。この点も激しく印象的。
最終回で光明寺親子は日本を離れて外国に旅立つことになる。しかしジローは厳しい運命を背負って日本に残るのだ。
ジローも一緒に行ってくれるものだと信じていた三ツ子姉さんにはきつい別れとなるシリアスな落ちだった。姉さんの気持ちを思うととにかく可哀想。
というかこの三ツ子姉ちゃん、ガキの頃に見ても何とも思わなかったが、改めて見ると大変美しい。スタイルが良いし清潔感がある。それから美脚で何かエロい。漫画でも三ツ子姉ちゃんは妙に色気があって美しかったけど、こちらでもそうだったのか。ヒロインに恵まれた作品である。
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