こしのり漫遊記

どうも漫遊の民こしのりです。

勘違いが起こす恋愛喜劇「から騒ぎ」

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「から騒ぎ」は、我が人生の友ウィリアム・シェイクスピアによって作られた喜劇である。

 

 

 色々と見る番組が多くて忙しい年明け一発目に読破したのがこの物語。セリフメインで展開する戯曲なら、内容が頭に入りやすく、何よりもスピードをつけて読みやすい。というわけでこの時期に読むならうってつけのものであった。

 

 ベネディックとビアトリス、クローディオとヒアローの男女二組の恋物語を中心に描いている。

 勘違いから起こる男女の結び付きやすれ違いを織り交ぜて展開する喜劇で、最後は無事ハッピーエンドを迎える。

 

 独身主義のベネディックは、最初こそ結婚は体に枷をはめるようなものだとディスってばかりだった。同じくビアトリスも最初は独身主義を唱えている。そんな二人が丁々発止の口喧嘩をやりまくるのが楽しい。どちらもベラベラとよく喋り、その中でもウィットに富んだ小気味よいディスリ合いを展開する。これがなかなか面白い。口でやりあってはいるが、なんだか気が合いそうだとも思える二人だった。

 

 私がそんな風に思うのだから、ベネディックの友人のドン・ペドロら周りの人物もそこに気づく。関係者で芝居を打ち、両人それぞれに、相手に気があるということを吹き込む作戦が展開される。ベネディックには、ビアトリスはベネディックに気があると吹き込み、逆にビアトリスには、ベネディックはビアトリスに気があると吹き込む。嘘と言えば嘘で、本当と言えば本当な話をそれぞれ信じた二人は、互いを意識し始めて両想いになる。

 独身主義だったベネディックは、この真心を真摯に受け止めて返さないのであれば人でなし的なことを想って良い返事を返そうとする。

 男女の関係などは、気分一つで進む方向性が変わるものだとも思えた。

 

 ドン・ペドロ、レオナート、クローディオのわざとらしい芝居も面白い。絶対に楽しんでやっている感も分かる。

 

 こうして一方は勘違いでくっつくのだが、クローディオとヒアローの方はというと、悪人のドン・ジョンの情報操作により勘違いで一旦の破局を迎える。

 

 ヒアローはあばずれで他に男を作ってやりまくっているという嘘をクローディオに信じさせることで、ドン・ジョンは嫌っている相手のクローディオへの腹いせを完成させる。

 

 裏切られたと信じてしまったクローディオは、復讐としてわざわざ結婚式でヒアローを面罵する。そのショックでヒアローは失神までしてしまう。

 この誤解は後に警察長のドグベリーらの活躍によって解かれるのだが、ヒアローを最後まで信じ抜けなかったクローディオはちょっとどうなのよ?とは思う。事情は分かるけれども、しっかり真実を追求しなかった落ち度は彼にある。「人形の家」とかだったら、妻の不実を疑って最後まで信じなかった夫は最後は見捨てられるエンドだったので、ヒアローのように優しくなければ誤解が解けてもまた結婚の流れまで行かないかもしれない。

 

 娘を不貞の女だと決めつけられたレオナートとその弟アントーニオが、ドン・ペドロとクローディオを罵倒するシーンはセリフ選びとテンポが面白かった。

 

 最後は無事に二組が同時に結婚式を上げてハッピーエンドになって良かった。

 

 事件解決に貢献したドグベリーは愉快なおまわりさんで、言葉の言い間違いがとにかく多い。これは「マラプロピズム」という喜劇ならではの仕掛けで、その意味は「おかしな言い間違い」ということであると本のあとがきで勉強した。意図的に言い間違いをばらまくことでウケを狙う作戦を取った手法が印象的な作品だった。

 

 私がそうだからということで気になった要素が、結局は結婚してしまったベネディックが序盤に唱えていた独身主義について。

 この物語が書かれたのが1598年頃とされている。当時の時代、国の状況からいうと、生涯未婚率はかなり低かったとされ、9割以上の人間が結婚する未来を辿っていたという。生涯未婚の者がかなりレアな世界にこんなことが書かれていたのかと思うと歴史を感じる。

 今では結婚への価値観も多様化、というか昔より軽んじられて重く考えられなくなったと思うので、するしないは個人の全く勝手になっている。あとがきで見られた当時の結婚の事情についてのデータを見ると、ゾッとすることも少なからずあった。今のようにおいそれと離婚や再婚も出来ない厳しい状況でもあったという。であれば、ベネディックが物語序盤で言っていたように、結婚は自らに枷をつけるものという考えもあながち間違いではない。

 

 物語とは直接関係がないこんな時代考察もして本書を閉じた。

 

から騒ぎ シェイクスピア全集 17 (17) (ちくま文庫 し 10-17)

から騒ぎ シェイクスピア全集 17 (17) (ちくま文庫 し 10-17)

 

 

 

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