こしのり漫遊記

どうも漫遊の民こしのりです。

酸いも甘いもある庶民生活「鉄道員」

鉄道員」は、1956年に公開されたイタリア映画。

 

 列車が激しく遅刻しているのに、いつまでもその情報をホームに放送しないことをはじめ、様々な落ち度から私を怒らせるのが鉄道会社である。売ったつもりもないのに度々私の怒りを買いにくる点であまり良いイメージがない。

 そんな鉄道会社で働く鉄道員のお父さんを描いた作品である。なお、読み方は「ぽっぽや」ではなく普通に「てつどういん」である。

 

 この映画は7、8年くらい前にも一度見たことがある。その時の記憶には、とりあえずいい感じのお話でサンドリーノ少年が可愛かったというものしかない。今回久しぶりに見てみると、大きくなった分だけ心に響くものがあった。このお話は庶民生活の酸いも甘いもを描いたもので、家庭や社会を知ればより深い共感を得ることが出来るだろう。歳を食う程に心に響く良き作品であった。

 

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 まず見所となるのは、鉄道員にして一家の大黒柱であるアンドレアの半生。次にそのアンドレオの物語を末子サンドリーノの視点から描く点が興味深い。

 

 私からすると遠い時代、遠い世界の物語だが、確かにこの時を生きたものがいたと分かる庶民たちによるヒューマンドラマである。なぜだろうか、こんなに自分の人生とかすらないのに、郷愁にかられるものがある。

 

 アンドレオの職業人として、家庭人としての生活が共に描かれる。

 

 鉄道員の仕事は結構ヘビーらしく、ストライキ騒動が起こる。きつい労働にしては実入りもきつく、そのくせ諸々の税金で給与はかなり差っ引かれる。アンドレオも皆と一緒に上に意見したり、かと思えば後にはスト破りに出て同僚から仲間はずれになるなど波乱万丈な社会生活を送ることになる。スト破りというワードは本作で初めて知った。ストなんてやったことないし、破ったこともないからな。

 

 こんな何十年も前の映画で労働に関してああだこうだと文句が上がっているのに、それが現代になっても働き方改革がどうのこうのと言って騒がれている。いつの世も労働というのは人々にとって生活の基礎であり必須のこと、それでいて悩みの種にもなっているのだから悲しい。

 

 アンドレオの走らせる列車の前に飛び出して若者が自殺する事故が起きる。

 これもはるか昔から今日まである自殺の一つのスタイルなのだと分かる。いつの世も当時の世の中や自分自身に絶望してドロップアウトしたがる者があるとも分かる。

 人を轢くことがあっても、その10分後には発車命令が出る。酷いのが、向こうが飛び込んで来たとはいえ、人を轢いてしまったすぐ後にもアンドレオに仕事をさせること。やはり人を轢いたショックが尾を引き、アンドレオはその後停車信号を無視してしまう。この事が原因で勤務停止になる。

 仕事上のミスはミスだから仕方ないが、それでも無情なまでに長期に渡ってアンドレオを働かせる会社は人情味に欠けるとも思える。

 ストやアンドレオの仕事のトラブルなど、シビアにしてリアルな視点で社会の現状を見せるドラマは印象深い。

 

 家庭でのアンドレオはとりあえず威厳ある父としてやっていて、末子のサンドリーノからは誇れる父として敬われている。

 

 仕事で問題があるだけでなく、長男がダラダラしてまともに働かないという家庭問題も出てくる。が、こんな長男は今の日本にだって腐るほどいるし、中には本当に腐ったのもいるくらい。まぁ瑣末な問題と言えよう。

 

 厄介なのは、長女のジュリアのこと。ジュリア一人の人生でも別口で昼ドラが作れそう。

 ジュリアはいわゆるできちゃった結婚となり、その先で死産を経験し、旦那との仲が悪くなる。そしてその後には昔の男の姿も見えてくる。今の男とうまく行かない間に前の男とも問題があってなかなかハードな人生を送っている。まぁこんな感じなので父のアンドレオからは怒りをかい、めっちゃ殴られる。それにしてもジュリアがやけに色っぽい。これなら男にモテるのも頷ける。

 

 家庭問題から長女、長男共に家を出てしまう。アンドレオは仕事に行かず飲み歩く日々を過ごすことになり、公私共にかなり終わっている感じな展開を見るのが辛い。

 

 両親や兄弟たちがいる大人の世界の厳しさを見て、同時に大人の愚かさ、醜さをも見るサンドリーノは刺激的な体験をしていると思う。姉の不倫シーンを見るのは結構ショッキングだと思った。

 

 勉強はだめだが優しいサンドリーノが、飲んだくれの父を酒場まで向かえに行くシーンには胸が痛むものがある。オヤジとしてこの姿を見せるのはダサいなと思えた。

 

 サンドリーノから見た子供ならではの世界の描写も良い。姉の死産に対して「叔父さんになりそこねた」とコメントするのもサンドリーノらしい。クラスで最初の叔父さんになれることが楽しみだったのがよく分かるもので可愛らしい。

 サンドリーノが声も顔も大変可愛らしい。

 

  色々あった後にアンドレオが「自分は特別な存在と思っていたが、実はそうでもなかった」と悟りの一言を口にするのが印象的だ。こうして人は挫折を経験するのかと思えるリアルな人間心理が描かれている。

 

 この時代のイタリアの人々の近所関係はかなりフランクなもので、序盤と後半のクリスマスを祝うシーンでは、街の人皆が互いにお祝いして騒いでいる。なかなかハッピーな時代のキャッホーな地域性が見られる。日本でこんなことはない。

 

 クリスマスにたくさんの人を家に招いてお祝いをしたその後、既に病に蝕まれていたアンドレオはギターを演奏しながら死んでしまう。このシーンは悲しくて印象的だった。

 ギター演奏中の絶命、これはTVアニメ「超時空要塞マクロス」のパインサラダ待ちのロイ・フォッカーにも見られるものなのでオタク的に反応してしまった。

 

 戦争にも行き、戻っては国のために働いて家族を養ったガッツのある父の姿が描かれいた。スト破り後に飲んだくれた点もあったが、総じてアンドレオは良いオヤジだったと感動できた。父の死後も元気に学校に行くサンドリーノ少年の姿を見て、悲しくも爽やかに終わるヒューマンストーリーが楽しめた。

 

 私は幾度か鉄道員を叱ったことがあるが、鉄道員だって頑張っているのだ。そう思ったら心が優しくなれた。

 これからは頑張る鉄道員を応援します。もちろん、フザけたヤツはこれまで通り叱るけども。

 

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