「オペラ座の怪人」は、2004年に公開された映画。
ガストン・ルルーの原作は先にチェックしたが、映像化されたものはこれまで見たことがなかった。長く愛される名作である本作は、幾度となく映画化、舞台演劇化されて楽しまれている。今回私が視聴したのは2004年に公開された劇場映画である。
日々演劇が楽しまれるオペラ座に巣食う謎の覆面ファントム、ファントムのお気に入りの若手女優クリスティーヌ、クリスティーヌの幼馴染のラウール子爵、彼ら三人の間で展開する悲しくも美しいラブの物語が展開する。
小説とは違って「音楽」をたっぷり伝えることが出来る映像化作品となるとミュージカルものの要素も加わって更にエンタメとして磨きがかかったものとなっている。
小説を読んでもおもしろかったけど、風景としていまいちオペラ座の内観が伝わりにくいところもあったと記憶している。とりあえずデカくて豪勢な作りな施設ではあるとイメージが出来たが、映画でみるとすごい豪華なところでビックリ。これを絢爛たる世界と呼ぶのだろう。
観劇なんてのは、ある程度懐事情に余裕がある者が嗜むものだ。であれば華やかな世界なのだと予想はつくが、オペラ座の風景は予想の範囲を出たすごい豪華なものだった。
こんなすごいところの5番ボックス席を占領するファントムはなかなかの大人物だ。しかも給料も取ると来ている。
豪勢な場所にあってふさわしいインテリアの代表がシャンデリアである。本作の大部分は、過去にこうゆうことがあったよと振り返る回想として描かれている。まずは閉鎖されたオペラ座に残ったあれこれのものがオークションにかけられる現代の話から始まり、そこからファントムやクリスティーヌが現役でここにいた時代の物語に入って行く。ファントムのことや、男女の恋のことなど見どころは複数あったのだが、私がこの映画で「一番ココが良い!」と呼べるシーンは序盤のオークションシーンにこそある。
シャンデリアがオークションにかけられるとき、シャンデリアを中心に波紋が広がり、それまで薄暗かった映像に色がつくようになる。ファントムがここにいた過去世界こそが本編なので、過去世界へと場面転換する時に色味が増えていくこのシーンが大変美しい。力の入ったすばらしい迫力のシーンだった。そしてこのシーンであの有名なテーマ曲が流れる。鼓膜を震わせるパイプオルガンからの入りとなるこの曲は、映画を見たことがなくても色んなところで聞いて知っている。話の筋もはっきり見えないとっかかりのこのシーンが映画好きとして一番心に響いた。
クリスティーヌにはやたらと接触してきて、後は少数の古参のオペラ座関係者にしか得体が知れていないファントムの存在が怪奇事件として楽しめ、ややこしい恋の物語も奥深いものがあって良い。映画ではお歌の方も楽しめる。これら三点が楽しい要素の作品である。
気に入ったクリスティーヌを押し上げるためには手段を選ばないファントムの言動は印象的だ。気に入らない女優のカルロッタを結構えぐい手を使って主演から引きずり下ろし、クリスティーヌが主演を張るように仕組む行動力も見せていた。舞台の上でも下でも暗躍してサクサク仕事を行うファントムを活き活きと描いている。行動力の人なんだよな。イケメンのラウールがクリスティーヌに接触すれば嫉妬心も見せることで、ファントムがクリスティーヌにご執心なのがよく分かる。
このようにやり口はどうであれ一貫して「推し」をとにかく押し上げたいと願うファントムの心理は、熱心なオタク心に通ずるものがある。ありずぎる。そんなテーマ性はないだろうが、意図せずオタク心として共感する内容だったのが特徴的な作品だ。やはり推しを愛でるのが至福の時である。と、オタク的ふざけた色恋分析は抜きにしても、最終的にファントムは普遍普及の愛を貫く猛者として描かれる。この点が大変美しい。
ミュージカル映画の一面も持つので、小説だと普通に喋っているように見えても、こちらだと舞台を降りた日常会話も歌いながら行ったりする。このおしゃれ感が好きだった。
文字だけの世界を映像に起こしてこんなにすごいのだと思ったのも久しい。この映画の映像の力には魅せられるものがある。
そんな訳で、別に小説を知らなくても普通に楽しめるものだった。
悲しき怪人の人生を私は忘れない。
やはり怪人も色恋も音楽も日常を華やかにしてくれる素敵なコンテンツだと改めて分かるものであった。
スポンサードリンク