「逆境無頼カイジ」は、2007年10月から2008年4月まで放送された全26話のテレビアニメ。
実写映画にもなったことで有名、モノマネをする者が多いことからお笑い芸人にも受けが良い。そんなことからもちろん作品自体は知っていたが、ちゃんと見たことがなかったのでこの度しっかり視聴した。
で、これがとても面白い!
絵ががなかなかユニークでクセがあるため、敬遠する人も多いかもしれない。だがカイジは面白い。こんなに古い作品なのに今更何言ってんだって感じだけども。
この原作者の作品だと「最強伝説黒沢」だけは読んだことがある。カイジよりもマイナーだとは思うけど、なぜかあっちは知っている。
黒沢とカイジで共通する要素がある。それは人が持つ敗北感や喪失感を濃く見せる物語性だと思う。黒沢は最後の方だと大成して行ってる感があったが、基本的には残念なおっさん。そしてカイジもどうしようもないお兄さんとして描かれている。
カイジという作品のメイン要素は、一風変わったオリジナルギャンブルにある。そして、その根っこにあるもうひとつの太いテーマ性として、どうしようもない人間の真実性を描く物語が上げられる。この作品の面白さはこの2つの柱にある。
作品には、どうしようもない人間が何人と出てくる。彼らは借金にまみれて詰んでしまった人生を送っている。そんな罪無き詰み人の悲哀がたっぷりと描かれる。
人生八方塞がりの真の敗北者による心理が語られ、それがかなりの説得性を持って描かれている。この点はすごい。心理描写が面白いのだ。
そんな者達の心理面の補完ともなる立木文彦の癖のナレーションも良い効果があって面白い。クセのあるセリフ回しも良い。
昨今のラノベとか異世界系アニメの主人公には、漠然とした敗北感、喪失感を持っている者がわんさかいる。だがカイジに出てくる敗北者達のそれはもっと濃く、より説得性がある。
マジでこうなったら終わりだから、こんな人間にはなりたくないと思えるクズ達が登場するが、その心は本当に嘘が無い。心身共に人間の無様の極みまで彫り込む描写は、一周して文学的にも思える。都合の悪い事をすっ飛ばすことなく、正直な人間を描く点には、共感はまるで持てずとも好感が得られた。
メインとなるギャンブル面での見応えはもちろんある。限定ジャンケン、ビルの上での鉄骨渡りなどの攻めたギャンブルには、高い戦略性、心理戦要素が見える。戦いの過程に人間の正直な醜さが見えたりする点でも楽しめた。
限定ジャンケンなんていうこんなカードギャンブルだけで、よくもあそこまでバトル性、ドラマ性を広げた話へと膨らませる事が出来たものだと感心する。人を知り、ゲームの戦略性を知る頭の良い人間でないと書けない話だな。
利益が絡めば恩を忘れて簡単に人間を裏切るという醜いけど真実性もある心理をデブの安藤に見た。
カイジがどうやって不利な状態から勝負を逆転させるのか、安藤のクズは何をやらかすのか、などのポイントからギャンブルシーンは非常に楽しめる。
限定ジャンケンはシンプルルールに見えて、実はガバガバでシンプルの枠に収まらないルールの拡張性があるゲームだった。
このゲームを通して学べた教訓は、一見して物事を理解した気になるな、最後まで思考を止めるなということだった。
同じギャンブルものでも、とにかく視覚的にマイルドな「賭けグルイ」で慣れているとえらい目にあうだろう。こちらには視覚的な美は皆無で、出てくる奴らはブスなおっさんばかり。令和になって見ると、ここまで華と萌えの要素が皆無な作品も珍しい。それなのに面白く見れるのだから、本当に内容一本で戦える作品なのだという証明が出来ている。
主人公のカイジだが、序盤からどうしようもない男としか思えない描かれ方をされている。
第一話冒頭でカイジは、金が欲しいのに無いというシンプルに悲しい理由で泣く。可哀想。
アニメだから笑って見ていられるけど、実際に自分がこうだったら、またはこんな同級生を見たらきっと笑えないだろう。
金がないというのは、カイジ的には人間のステータスとして弱いものと判断され、要は負け組の証となっている。そんな敗北者の悲しみから来るストレスのはけ口として、金持ちの外車にいたずらをするという低能、低俗なアクションが取られるのだ。自分よりも金を持っているというだけで、どこの誰と知らない金持ちの車に傷をつけパンクさせ、エンブレムをパクる。こんな行為の果に得たエンブレムを、カイジは家の壁に飾って眺めるのだ。ヤベェな。病んでいる。
一見勝ち星に思える数々のエンブレムが、実質的には負けた数なのだから救いようがない。
高級車だろうが、ボロのチャリだろうが、いたずらをすれば皆等しく犯罪である。普通に犯罪者の主人公がどんな物語に巻き込まれて行くのだろうと気になる導入になっていた。よくもこんな低俗な行為を思いついて導入部分に落とし込んだなと思う。
誰が聞いても危ない儲け話でも乗るしかない人物がたくさんいる世界だから、危ないギャンブル大会が次々と開かれる。スリルたっぷりなギャンブル展開は面白い。
最初に出てくる希望の船エスポワールだなんて、こんなのに乗る人間に希望もなんもないだろうって皮肉が効いていると思えた。
こんなギャンブルを企画して人間を集める者たちがいる。奴らはさぞ悪いのだろうと思ってしまう。
カイジをゲームに誘ったヤクザの遠藤、利根川らは向こうサイドの人間だが、結構弁えた理知的人間でもあり、クズ達のクズたる所以をしっかり理解している。クズ達を焚きつける彼らの言葉は、当事者に重くのしかかる事実であり、決して間違った事は言っていない。むしろ良い考えくらいかもしれない。
カイジは安い給料のバイトをしている。自他共に認める冴えない人生である。それでもこんなに冴えない人生は、きっといつか来る大成への途中である。そう信じて自分を奮い立たせないともうやっていけない。
そんなカイジの心が描かれる部分には、その手の人間の真実性が見えてグッとくるものがある。これは刺さる人にはとことん刺さるリアル性があるなぁと思える。
まだ先がある道の「途中」と信じる者達に、残酷な真実を突っ込んでいくのが遠藤だった。
まだ途中という認識が間違いで、実はもうとっくに詰んでいる。それに気づかない者が本当に終わっているという事が遠藤の言葉から学び取れる。怖い。
遠藤は悪者なのだろうけど、言葉巧みに人心掌握を可能にして自分の利を産むスキルも必要なヤクザをやっているだけあって、その言葉には重みと説得性があった。聴き入ってしまうセリフ回しが多く見られる作品なんだよな。
で、カイジ達どうしようもない人間達は、退路が無いという事実を知らされて闇のゲームに進むしかないのだ。
利根川の説教もちゃんと本当の事を言っているからちゃんと聴けてしまう。
クズ達がクズの未来を歩んだのは怠惰のせい。でもエリートは若い時から頑張っている的な内容の説教をしてくる。怖いけど重みのある言葉だったな。
大金を一発で手に入れるチャンスを前にした貧乏人達に、金を得る大変さを説いた利根川が発した「金は命よりも重い」の言葉は確かに重き言葉。
この作品を見ると、プラスなら当然、ゼロでもなんとかなる、ただしマイナスになった人間はもう色々終わっているという怖い事実が分かってくる。
面白く見ることが出来たが、カイジ達を見ると、心からこうなりたくはないとばかり思う。が、明日は我が身と言って、誰だって明日の自分が安全かどうかの先は読めない。クズ達の仲間入りにならないよう、今後も心を引き締めてかかろう。
数年前に放送されていた利根川が主役のアニメなら見ていたけど、カイジ本編だとかなり作風が違っていた。こちらはかなりシリアス。それに利根川は声が白竜だし。
娯楽性の極めて低い危ないギャンブルのスリルが味わえ、そして時に人生教訓も学べる。そんな良さがある作品、それがカイジだった。
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