「ニュー・シネマ・パラダイス」は1988年公開のイタリア映画。
この映画は全部で3タイプあって今回見たのは一番時間の短いインターナショナル版。このくらいの長さがスッキリして良い。
内容
中年になった主人公トトは、故郷を離れ今では映画監督となっている。物語冒頭で、彼が映画の世界に足を突っ込むきっかけとなった人物であるアルフレードが亡くなったという情報が入り、トトは幼い頃にアルフレードと触れ合った過去を思い出していく。
トトが少年時代を過ごしたシチリア島の田舎の生活を回想し、最後には現代に戻ってアルフレードの葬式を済ますまでを描く。
感想
主人公はトト、キーパーソンがアルフレード。メインはこの二人で、後の人物は物語には深くは関わらない。それでも田舎に住む人々、映画館に出入りする客など、トトともアルフレードとも直接関わり合うことのない人物が多く登場する。
映画好きのトトは暇があれば映画館に足を運び、そこで映写技師のアルフレードの仕事に関心を持つ。幼いトトは年長のアルフレードからたくさんのことを学んでいく。歳が離れても二人の間に確かにある友情には感動する。
若い時に学校に行ってないアルフレードが小学校卒業見込みのテストを受けてカンニングするシーンが微笑ましい。10歳からフィルムを写して過ごしていたというのでアルフレードの過去が厳しいものと想った。
アルフレードが名作映画の名シーンを用いてトトに人生を解くのはおしゃれ。兵士が愛する王女様の部屋の窓の下に100日間通う話しをトトにしたのは印象的だった。トトは後に愛するエレナを口説くためにそれを実行する。トトは大晦日にもエレナの所に通う。このシーンで気になるのが、街の人々は新年が明けたら「おめでとう」を言って家の窓から瓶を投げること。この国の習慣らしいが、この時間に外を歩いていたら絶対に危ない。
アルフレードの要は世界を広く見て学びを得ろという教えが胸に刺さる。この映画は二回見たけど、アルフレードの歳を取ったからこそ得られた人生観は、歳を取って聞く度に胸に刺さる。言ってることはよく分かる。
この映画の良い所は映画館を取り巻く多くの脇役達のドラマをも描く点にある。映画は田舎街の唯一の娯楽というセリフもあることから、街の人はとにかく映画が好き。トトとアルフレード以外のただの映画館の客を多く写したのは印象的だった。
映画が見たくて三時間も待っている人もいれば、朝からずっと入り浸って同じ映画を10回も見てセリフを暗唱している客もいる。映画のキャラよりも先にセリフを言って感動して泣いているおじさんは面白かった。鑑賞中に唾を吐く態度の悪い公務員がいたり、子育てに忙しくて赤ちゃんに母乳をあげながら映画に夢中になるママもいる。病気の妻を放って来たのに、フィルム交換に時間を食って待たされたジジイが「これ以上待たせると杖で殴り殺す」と言っている場面があって、あれにはちゃんと家で嫁の世話しろよと想った。
作られた物語だが、リアルな大衆性を伝えている点はポイントが高い。
満員で客が入りきれない時には、映写技師のアルフレードが気を利かせて外の建物に映画を写して表の広場で皆で見る。このシーンは良かった。そして、夜になると広場を支配しようとする謎のホームレスの存在も面白かった。
昔のフィルムは発火しやすく、上映中のフィルムが火を吹いて、パラダイス座は火事になってしまう。アルフレードは炎で目を焼かれて盲人となってしまう。途中まではすごい平和だったのに一気に悲劇が襲うからびっくりした。後に「ニュー・シネマ座」として新装開店し、アルフレードから技術学んだトトが映写技師として働く。
映画が見たくて仕方のない彼らにとって映画館は情報を知る場であり、社交の場である。面白ければ皆で笑い、感動シーンでは皆で泣く、神父様の検閲によって不自然にキスシーンを始めとした濡れ場がカットされたフィルムを流せば皆でブーイングする。
映画が映画としての真価を大衆に伝えたまさにキネマ黄金期の風景を写している。娯楽が多様化し、しかもそれぞれが廃れていってると言える点も確かにある今の世の中では映画がここまで大衆に喜ばれる様を見ることはできないだろう。特に現在の日本映画なんかは、もっと頑張れよと想ってしまう。
アルフレードの葬式に出るためにトトは30年ぶりに故郷に帰る。若い時は幼いトトを叩きまくって叱っていた母もすっかりばあさんになっていた。母が編み物の途中でトトを迎えに玄関に向かった際、服に糸を引っ掛けたまま行ってしまって、せっかく編んだ編み物がどんどん解けて演出がくすりと笑えた。
閉館してしまい倒すことも決まった「ニュー・シネマ座」の中を、トトが最後に見て回るシーンでは見ているこっちも郷愁に駆られた。
アルフレードの遺品であるフィルムをトトが再生すると、その内容は当時はカットされていた多くの名作のキスシーンのみを繋ぎ合わせたものであった。劇中では実在する往年の名作が何本も流れ、最後のシーンではそれらの中のキスシーンのみが流れる。ここでのトトのリアクションが良い。キスシーンでこんなに泣いたのは初めて。
トトとアルフレードの暖かい心の交流、そしてそれを取りまく映画好きな人々が描かれたコミカルにしてハートフルな傑作であった。
私は映画なら腐る程見てきた。この映画ってのは作品によって傑作、あるいはクソという出来栄えの振り幅がすごくて、中にはマジで見たのが時間の無駄だったいう感想しか出てこないものもあった。
その中でこの「ニュー・シネマ・パラダイス」は一級品だと想う。これは本当に好き。映画ってのは作品の質がピンキリな世界だから、その中で良いものを引き当てると幸せなんだなぁ。
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