こしのり漫遊記

どうも漫遊の民こしのりです。

猿から学べる人類の危機「猿の惑星」

猿の惑星」は、1968年に公開されたアメリカ映画。

 

 先日BSで放送したのを懐かしいと思って見たら「あれ?なにこれ、こんな作品だっけ?」となった。どうやら同じく賢い猿が人間を圧倒する様を描いた日本の特撮ドラマ「猿の軍団」と勘違いしていたようだ。

 

 有名作品で良く耳にするため、とっくに見た気でいたのだが、実は見ていないことに気づいた。語り継がれる60年代のヒット作を2020年にもなってやっと初視聴出来た。

 60年代の作品なので、日本で最も有名な猿の科学者ゴリやその助手ラーよりも先輩の猿達だな。

 

 もう猿関係のものなら「猿の軍団」で間に合っているし、どっかの惑星に行くものなら私の好きなSF映画でかなり上位にあがる「禁断の惑星」で間に合ってるから今更猿のものはいいわ、とか失礼ことを思いながら本作を視聴し続けるとこれが大変面白い。

 

 猿がウホウホ言う原子的なドラマではなく、登場する猿は高い知能を持って会話をし、人間を打倒する。その猿はというと、もちろん野から捕まえてきたものを使うのではなく、高度な特殊メイク技術で猿化した人間が演じている。すごいなコレ、被り物じゃないんだって思った。60年代なんて古い時代にこれだけの特殊メイク技術があったとは驚きだ。やはりアメリカ映画は進んでいる。

 

猿の惑星 (字幕版)

 

 映画が始まってまず飛び込んでくるSF設定が、ハスライン博士が提唱した準光速航行の説というものである。この説のもとで主人公たち宇宙飛行士が宇宙をぐるぐる回っている半年の間、地球では700年経過したことになっている。一体その博士は誰でどういう理屈でこうなるのだ?といった具合に詳しい理屈は分からないのだが、とにかく宇宙船内の時間よりも地球時間がものすごいスピードで進んでいて、主人公達は軽くタイムスリップ状態になっている。

 

 4人の宇宙飛行士達を宇宙に送った仲間たちは誰一人として生きてはいない。そんな現実を受け入れた宇宙飛行士のテイラーが、これだけ時間が進んでもまだ地球人は隣人と戦争して子供が飢えるのを看過しているのか、と皮肉を込めて呟くシーンは印象的。愚かな20世紀の人間にどこか絶望しているテイラーは、やや影のあるダンディな男だった。

 

 4人いる宇宙飛行士達の中で紅一点だったヒロインはコールドスリープに失敗して序盤で死体になってしまう。ヒロイン抜きの旅かよと思ったが、男3人旅でもちゃんと楽しかった。

 

 地球時間では西暦3978年の世界で、主人公達は謎の惑星に不時着する。その惑星ではこれだけ時間が進んでいるのに、住んでいる人間は言語能力がない原始人と化している。それに比べて猿がずば抜けて成長していて、二本足で歩くし、馬を乗り回して人間を狩っている。科学、武器を扱い、会話能力もある。

 

 猿から進化した上位互換であるはずの人間の地位がどん底に落ち、猿の人体実験にも使用されるようになっている。本来なら下等とされる猿が人間を理不尽に扱うという画に衝撃を受けた。人間、または我々視聴者と同族とされる者が理不尽な扱いを受けるこの展開を見て、遥か昔に読んだ「家畜人ヤプー」という本の内容を思い出した。破滅的な世界変化が見て取れる。人間の脳改造、去勢までも猿が管理するから猿にはパラダイスなのかもしれないが、人間から見るとディストピアが過ぎる。

 

 猿が人間を研究して論文を提出したり、人間の主人公テイラーを裁判にかけるシーンは申し訳ないけどどこかバカげて見える。しかしこのバカげた猿真似がリアルとされる世界を描くからこそ恐怖も感じる。

 

 このSF作品は深いテーマ性を帯びている。猿が悪さをするばかりに目が行きがちな前半の雰囲気をひっくり返すのが、度肝を抜くラスト展開にある。自由の国アメリカを象徴する自由の女神像の一部をテイラーが発見するラストシーンは一生記憶に残るだろう。

 猿が偉くて人間の地位がクソ程落ちた歪なこの世界は一体どこなんだという真実を求めた冒険のオチが残酷過ぎる。猿まみれの謎の惑星こそ、テイラー達の故郷の地球であり、ここまで世界を荒廃させた人類をテイラーは激しく罵倒する。そんな悲しい一幕をもってして物語は終わる。ショッキングなオチからの潔い良い引き際が素晴らしい。これは映画史に残る名エンディングだな。

 

 このオチに行く前に、猿の教授も人間は愚かな者で、欲しい物のためなら家族だって殺す争いを起こすと言っている。あの猿からだって破滅的行為に及ぶどうしようもない種族だとディスられている。テイラーがたどり着いた真実は残酷すぎるものだが、実際に人間はそういうことを映画の外でもやってきたから肝が冷える。

 

 人間のように賢い猿が暴れるただの楽しいSFではなく、社会風刺、人間社会へのキツイ皮肉が込められた物語運びには引き込まれる。このオチを見てからは色々と考えさせられる。

 60年代の段階で指摘されたこれと同じことを本日になってもまだやっている人間がいる。未来への警鐘となる一作だったのか。とりあえず2020年の段階では地球は人間が制服している。猿には負けていない。そして日本もアメリカもあり、自由の女神像もどこかの海沿いに埋まっているなんてことはない。たかが作り物世界と笑ってもいられない深いメッセージ性が含まれたこの作品の意志を忘れてはいけない。猿に負けずに人間の世界を楽しみ、平和な地球を一秒でも長く持続させようと思えた。

 

 大変楽しめる名作だった。SF、特撮は何でも好きだが、こうして大人に刺さるテーマ性が見れるのも良い。

 

猿の惑星 (字幕版)

猿の惑星 (字幕版)

  • 発売日: 2014/09/01
  • メディア: Prime Video
 

 

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